源泉強襲
オレ達は温泉街をブラブラと歩きながら宿へ帰ってきた。
街の封鎖のせいで仕事がなくなったとかいうルリマリも一緒にいるせいで、また耳と尻尾をつけられた。
幸い、浴衣だから尻尾でめくれ上がらないだけマシ。
「街の外へ出られるような依頼はなかったのかよ…」
「無いことはないんだけど、二人では荷が重くてねー」
「知らない土地でいきなりパーティー組むのも不安なのよね」
そうかよ…。
「どんな依頼なんです?」
それはオレも気になる。
「えっとねー、温泉の源泉辺りのモンスター駆除。定期的に出されている依頼なんだけど、結構強いみたいでさー」
「私達は二人ともスピード特化の職業だから、広いところでパワータイプと戦うには前衛が必須なのよ」
「それなんて職業なんだ?」
「うちはニンジャ」
「私は斥候」
似たようなもんじゃねーか…。違いはなんだよ!
そういや、アホみたいに職業の種類あったな。
バランス考えて組めよと思ったが、気の合う相手が一番いいんだろうと思い直した。
この二人、連携はうまいし仲もいいからな。
「そういえば、レイアちゃんはヒーラー弓士だけど、ユリノさんはー?」
オレの職業そんな名前なのか。ユリノ姉の職業も前衛としかきいてねぇな。
「私は鬼神です」
「本当に!?」
「ちょー上位職じゃん!」
鬼…鬼な? 豆あったかな? でもユリノ姉に角なんてなかったよな?
「ぐえっ…何しやがる!」
「何かよからぬこと考えてましたね?」
なんでバレた。鬼なら豆投げたら勝てねぇかなとか…ちょっと思っただけだし。
ただの職業なら豆なんて効かねぇか…。
それであの武器を選んだのな?
これか本当の鬼に金棒ってやつか。
「レイアちゃんってほんとかわいいよねー。その耳も! ぴょこぴょこと、ずっとつけててほしいよー」
「そうね。ニャンダ人より可愛いわよ」
なんだそのニャンダ人て…。いや、予想はできるが。あの二足歩行の猫たちだろ?
それじゃああれか? あのワンワン共はワンダ人とかか?
「ワンッダの主流種族はワンダラーですよ」
「心を読んで答えを言うなよ…」
「やましい事を考えても筒抜けですからね」
鬼なら虎柄パンツプレゼントしようとか?
「くれると言うならもらいますが、そういう趣味ですか?」
まじで筒抜けじゃねーか。 無心…無心…
「仲いいよねーいいなぁ。うちもレイアちゃんみたいな妹ほしー」
姉はもういらねーから。
「姉は私だけで充分だそうです」
「ちぇー」
………。
宿へ帰ったら何やら騒がしい。
知ってる。これトラブルになるやつな? 巻き込まれんねん絶対に。
「あっ、お客様〜えらい申し訳あらへんのやけど、温泉が使えんようなってしもてなぁ…返金やったら応じますよって…」
「どうしたんです?」
「それが…」
さっきの話から大体予想はできるが…。
この旅館の温泉の湯路か源泉がモンスターに塞がれたんじゃないかって。
だよなー? お約束だわ。
「依頼受けますよ。レイアは部屋で待ってなさい」
「ふざけんなよ。相棒だろうが! 体調なら大丈夫だから置いていくのだけはやめてくれよ…」
「…わかりました。仕度しましょう。ルリマリもいいですか?」
「そうね、二人となら安心だし!」
「レイアちゃんとは一度組んでるしー。前衛もいてくれるならなんとかなるよー」
オレたちは着替えてギルドへとって返した。
源泉はいくつかあるらしく、オレ達の泊まっている温泉の源泉周りを指定して依頼を受けた。
他のところは既に向かったパーティーがいるようで、そっちは任せればいい。
どうやらギルドの温泉が止まったらしく、キレたハンターたちが群れをなして行ったとか…。
行き先バランスよく分けろよ…。アホなの?
街から源泉へはそこそこの山登りで、大変なんだけど…。
「なぁ?」
「疲れましたか?」
「そっちじゃねぇよ…」
「生くまパンだわー」
「カメラ持ってくるんだったよー」
ちくしょう!! 依頼なんだから耳と尻尾はいらねぇだろうがよ…。
「士気に関わりますから」
「そうかよ!」
大体女同士でなんの得があんだよ…。
「可愛いものはそれだけで価値があるんです」
意味わかんねぇ…。
「そろそろ源泉です、警戒を」
「はいよー」
「任せて」
みんな頼りにはなるんだよな。
森の奥に湯気が上がってるからオレでもここが目的地なのはわかる。
わかんねぇのは源泉で湯路を寛いでる生き物だ。
「おったな、カピバラ…サイズが意味わかんねぇけど」
「これは困りましたね…」
「だねぇー」
「湯の通り道を塞いでるからな」
「いえ、それも勿論そうなのですが、カピバラックには手出しできないんです」
「は? モンスターじゃねぇの?」
でっけーし。ゾウみたいなサイズだぞ?
「この子達は温厚だし害獣でもないのよ」
「街のシンボルだからねー」
確かに街の名前にもなってるもんな?
退いてもらえるのを待つしかないんだろうけど、それだとオレ達の今夜の楽しみが!
興奮したせいで尻尾がまた収まんねぇ…。
「レイア! そのまま森へ走りなさい!」
「え? うぉぉ?! なんやなんや! どないなってん」
カピバラさん大興奮! 湯から上がってのっしのっしとこっちへ向かってきてる!?
「レイアちゃん、早く走って!!」
「なんでオレがーー!」
わかんねぇ、意味わかんねぇ!
「レイアもう少しだけ走ってください。おびき寄せたら装備解除しますから!」
並走してきたユリノ姉に言われて全力で走る。なんのこっちゃわかんねぇけど走ればいいんだろ!
しばらく森の中を走り回り…
「そろそろでしょうか…。装備外しますから、私がいいと言うまでもう少しだけ頑張りなさい!」
「わかったよ!!」
後で説明してもらうからな!
背後のズシンズシンという音が遠くなったような?
「もういいですよ」
「はぁ…はぁ…なんっなんだよ!」
「レイアの尻尾です」
「は? くまパンじゃなくてか?」
「慣れてきましたねレイア…。 でもそれでは無く、おっ立てて揺れていた尻尾に反応したんです」
「猫じゃらしかよ!」
「いえ、尻尾です」
「わかってんねん! それは! ただの例えやろ」
「それくらいわかってますよ」
ひっぱたいていいか?
「やれるものならどうぞ?」
くっそ…。ユリノ姉に手を上げるとか出来ないのわかってて言ってやがる。
「ふふっ」
なにわろてんねん!
「んで? どうなったんだよ?」
「レイアが引き離したスキに湯の通り道を確保して、彼らが入っても塞がらないよう細工してくれてます」
「なるほどな。追いかけられた意味はあったんだな?」
「ええ。お手柄ですよ」
「なんも嬉しくねぇ…」
ルリマリに合流し、源泉の確認。
「塞がらないようにって取り付けられていた器具が外れてたから直したよー」
「おとり役お疲れ様。さすが猫耳くまパンはこっちでも人気ね?」
うるせぇよ…。それも一切嬉しくないからな?
しばらくしたら、のっしのっしとまた戻ってきて、ざぶーんっと入りやがった…。
「大丈夫そうですね。とりあえずはこれで報告しましょう。これ以上何かの対策が必要ならギルド側がまた依頼を出すなりするはずです」
「だねー。この子がここにいるならモンスターは来ないだろうし」
こいつやべーのか?
「サイズが大きいというのはそれだけでアドバンテージなんです」
わざとらしく自分のスタイルを強調するなよ…。ルリマリがへこんでるじゃねぇか…。
「…レイアちゃんはそれでいいのよ? それがステータスだから」
それに関してはコメントしねーぞ。オレはどーでもいいし。
ギルドへ依頼の報告をして宿へ帰ったらえらく感謝された。
温泉旅館で温泉が使えないのは死活問題だもんなぁ。
おかげで夕食は特上のすき焼きだった。
「尻尾のおかげで美味しいものを頂けましたね?」
「理由はどうあれ結果には大満足だよオレは!」
肉美味い。それが正義。
「ありがとう。私達までよかったのかしら…」
「一緒に依頼受けた仲間だろー? それに源泉のところを直してくれたのは二人じゃねぇか」
「あーもうかわいい! 口が悪いのもポイント高いよー」
「抱きつくな! やめっ…肉食えねーから!」
「あははっ」
「ほらレイア…口についてます。こっちに来なさい」
「あーオレの肉ー!」
まったく…世話のかかる子ですよレイアは。
この笑顔は私が守りますよ。絶対に…。




