広がった波紋の影響は計り知れない
「二人とも、少し出かけよう」
「早く零くんを見つけないとだめなのよ〜?」
「遊びにいってる暇なんてないのは理乃もわかるだろ?」
「そうなんだけど、美緒が大切な話があるって言うから。零のことだって言ってるよ?」
零くんの…?
うちは詩乃姉と頷き合うと出かける仕度をした。
「どこで待ち合わせ〜?」
「とりあえず駅。話の内容がヤバそうならあの店に行けばいいかなーって」
「あぁ。あそこなら個室だし、ちょうどいいか」
高級店だから値ははるけど、美緒に借りを返すのなら丁度いい。
駅には既に美緒が待ってた。
「皆さん! 大変なんです!」
「落ち着けって。ここで話せる内容か?」
ふるふると首を降る美緒。顔色が悪いからよっぽどだろうな…。
「はい、四人です。すぐに行きますからお願いします」
理乃がすでに店を確保してくれたらしい。
「ちょうど空いてたから、移動しよう」
「そうね〜」
「あの…何処へ?」
「大丈夫、こっちでの金は心配しなくていいよ。向こうで世話になったからな」
美緒は首を傾げていたけど、それより零くんの事のが気になる。
半ば強引に美緒を連れて入ったのは、老舗の鰻屋。
完全個室だし、客の顔を見てから調理を始めるから、待ち時間は長くなるけど、今はちょうどいい。
突き出しと、詩乃姉が頼んだ日本酒だけ置いて店員も部屋を出ていった。
うちはまだ飲めないけど、詩乃姉は酒に強いからちびちびと日本酒を飲んでる。
ちょくちょく来るうちらは常連扱いで、庭も見えるいい部屋へ案内してもらえてるから落ち着けるな。
「こんなところ私が入っていいんですか…?」
「大丈夫よ〜。私達と一緒だし」
「お子ちゃまにはハードルが高いかな」
「理乃もまだそっち側だろ…」
「わ、私はもう大人だし!」
そうか? 理乃の誕生日祝いもここに来たな、そういえば。
零くんからプレゼントもらってて羨ましかった…。うちも誕生日にはちゃんと貰ってるけど、それはそれ!
「好きなもの頼んでいいから」
キョロキョロと落ち着かない美緒にお品書きを渡してやる。
「……値段が書いてません」
「あー。 そんな事を気にする人間はここにはこねーよ」
「そっちの心配はしなくていいから〜早く選んで。 話をしてほしいのよぅ〜」
詩乃姉に急かされても悩んでるからうちらと同じものを頼んだ。
「すみません…ありがとうございます」
「それで? 零くんがどうしたって?」
「は、はい! 私、気になって一度ログインして情報を集めてきたんですが…」
ゲーム内では、零っていう名前のNPCかプレイヤーかわからない相手をみんなが血眼で探しているらしい。それで怖くなったと。
「下手したら魔王様に街を滅ぼされるんじゃないかって…みんな大騒ぎです」
「それはできるものなのか?」
「そうですね、例えばプレイヤーが何処かの国のトップになって、隣国へ宣戦布告すれば本当に戦争状態に突入します。それを楽しむプレイヤーもいるでしょうが、今はまだオンラインサービスが始まって間もないので…」
「まさか魔王にプレイヤーがなっているとは思ってない?」
「はい。殆どは何かのイベントかなにかだろうって盛り上がってるようです。 ただ…」
「問題があるのか?」
「それぞれの国のトップ、今はAIのNPCですが、戦争状態になると判断したようで、各街や国境が封鎖されました」
高度なゲームだな…。
「それとうちらが何か関係あるのか?」
「まず一つ。私がログインしたら零くんも、ユリノさんもいなくなっていました。告知を聞いて逃げたのかもしれませんが、行方はわかりません」
「あー…それ、告知の前にもういなかったよ。多分、ユリノが私達に会わせると零に負担がかかると判断したのか、療養するって街を出てる」
「はい!? じゃあ零くんは…」
「それは今はいい! 他にうちらに影響するのは?」
「は…はい。 二つ目は街を出られないことです。零くんが街を離れているのなら追いかけることもできません…」
「ちょっとお母さん!? 悪化したじゃん!!」
「私、例え勝てなくてもちょっと殴りたくなったわ〜…」
これ、三日で連れ戻すの不可能になったっしょ? しかも他ならぬお母さんのせいで…。
「最後は一番大事なことです。ゲーム内で絶対に”零くん”って名前を出してはいけません。もし名前を出そうものなら匿ってるのかとか、居場所を知ってるのかって全プレイヤーに追われるハメになります」
「「「………」」」
ほんとお母さん何してくれてるの? 確かにうちらは成果を出してないけど、邪魔しかしてないお母さんよりマシだよね!?
「ま、まぁ…レイアって呼ぶように気をつけるしかないね」
「そうね〜慣れないから不安だわ…」
それはうちも…絶対にポロって言いそう。
「でしたら、街を出ませんか?」
「うちらは街を出られないんじゃないの?」
「私のリオとユナ姉は外でログアウトしてるから大丈夫じゃない?」
そういえばそうだ。森で詩乃姉にくすぐられて…。
「一応抜け道はあります。唯一出られる方法は、ギルドで依頼を正式に受注することです。うまい具合に外へ出る依頼があればいいのですが…無いと出入りができません」
「うちらも現状では街に入れないってことか?」
「そうなります」
うちらみたいに街の外でログアウトしてる奴らはどーするんだ? と思ったら、そんな事普通はやらないって言われた。
安全な街の中でログアウトすると。 じゃないとログインした途端襲われたりしかねないそう。
そんなん返り討ちにすればいいじゃん。
「じゃあ。まだ街にいる私とミミでなにかクエストを受ければいいのね〜?」
「はい。パーティーを組んだままなので、それで大丈夫なはずです。適当なクエストを見繕い、ほとぼりが覚めるまで街へ近づかないようにするしか…」
それじゃあ零くんを探せないよね?
ここまで話したところで、食事が届いたので一度話は中断した。
「…美味しい! こんなフワッフワなうなぎ初めて食べました!」
「それはそうよ〜正真正銘の老舗だもの」
うちらも詩乃姉のおかげで来れるようになったんだけどな…。というか元は零くんのおかげか。
轢かれたから…。
弟の事故で贅沢できるようになったとか、ちょっと…イヤ、かなりクズっぽいけど、今は詩乃姉が投資で儲けてるから!
うちらも詩乃姉に教わって投資を始めて、ちゃんと儲けは出してるからな! 大丈夫。
零くんをよゆーで養えるくらいの稼ぎはある。可愛すぎる零くんは囲わないと…。
店を出る前に相談した結果、もうややこしいから美緒を連れて帰ることにした。
私達が一度美緒の家にお邪魔して、お母様に挨拶。連休の間、うちに泊まる許可も貰ってきた。
「私はお母さんにヒトコト言ってやるわ〜。話をややこしくして!」
「ガチのケンカはやめてね? 家がなくなるのはやだよ」
さすがに詩乃姉もお母さんもそこまでしないと思いたい…。
「魔王様ですもんね…」
「まぁ、お父さんがいるから大丈夫」
「魔王様の旦那様…」
ちょっと怯えてるのが面白いけど、うちもお母さんには言いたい事たくさんあるなぁ…全く!




