温泉街のギルド
カピバラックの街はどこか見慣れたような街並みで、温泉まんじゅうや温泉卵も売ってた。
途中、歩き疲れたら足湯もあってユリノ姉とのんびり。
「レイア、身体は大丈夫ですか?」
「ん? あぁ。 あれから頭痛もないし、特に違和感もないな。それに…」
「はい?」
「オレはちゃんと生きてる。 だろ?」
「ええ。間違いありません」
足湯にちゃんと足も入ってるしな! 透けてたりもしない。
泊まっている宿以外にもあちこちに温泉施設があって、宿に泊まらなくても入れる温泉もあったから入ってみたり…。
ゲームの中にいるのか現実なのかオレにはもうわかんねぇけど、ここにオレはいるんだって思えたら悩むこともなくなった。
身体に関しては初めから違和感とかなかったしな…。
びっくりしただけだ。
それももう慣れちまった。
今、急に男に戻ってユリノ姉とギクシャクしたらそっちのが嫌だ。
「どうかしました?」
「いや、ユリノ姉がいてくれてオレは良かったなって」
「そうでしょう? 大切にしてください」
「はいよー」
軽口も叩いて笑えるしな。
ユリノ姉が言うには、とりあえず一週間、宿を確保しているそう。
延長してもいいし、拠点も移します? とか言われた。
それも悪くねぇけど…。
「なぁ、もし拠点を移すのならこっちのギルドに世話になるんだよな?」
「当然そうなりますね」
「なら、一度雰囲気を見ておきたいって思うんだけど、どう思う?」
「それもそうですね、覗くくらいならいいでしょう」
”依頼は受けませんからね!” って釘を刺された。
むしろオレから率先して依頼受けたことがあるか? って聞きたいくらいだ。
ユリノ姉はここの地理も把握してるかのように迷うことなくギルドに到着した。
「これ、ギルド?」
「ええ」
「銭湯じゃなくて?」
「ギルドです。中にはこの街ならではの施設はありますが…」
見た目はアニメとかで見た銭湯まんまなんだよな…。煙突あるし。
入ったらカポーン…とか音がしそう。
引き戸をガラガラって開けて暖簾をくぐると、さすがに銭湯ではなかった。
でも、足湯はあるし、温泉施設もあるようで、タオルと桶をもったおっさんがウロウロしてる。
「ギルドなんだよな?」
「しつこいですね、受け付けにいけばわかりますよ」
それもそうか。
「そういえばユリノ姉?」
「なんです?」
「オレ達の相棒っていうのは正式なものなのか?」
「はい? ニセモノとかありますか?」
「そうじゃなくて、ギルドに認められてたりとかしてるのかなーって気になってな」
「あぁ〜それでしたら登録の時にチームとして申請してありますよ。ですからレイアは記入する部分が少なかったはずです」
あれ、そういう理由だったのか。面倒くさいことはユリノ姉がやってくれてたのな。
「ありがとな。知らなかった」
「いえ。相棒ですからね。でも突然どうしたんです?」
「ほら、ミミの契約書にサインしたのはユリノ姉なのにオレも姿が見えたからな。なんでや? と…」
「今更ですか…。一時的なパーティーじゃなければ、受けた依頼は共有されますからね。指名依頼は別ですが…」
「指名依頼?」
「貴女のお姉様方が、前回レイアに渡していたのはすべてレイアへの指名依頼ですね。レイアが共有する選択をしてくれなければ相棒の私でも詳細までは見れなかったはずです」
「そうなのか…」
「あの契約書というのはそれくらい拘束力がありますから、気をつけてください」
怖っ…絶対ユリノ姉に確認してもらおう。
ユリノ姉も”そうしてもらえると安心です”って。
頼りなくてすまねぇ…。
ユリノ姉は、受け付けでこちらの依頼を確認してみると言って、お姉さんから依頼書の束を借りてる。
オレは今のうちに色々見ておこうかなー。
「ぐえっ…」
は…? 嘘だよな? いつの間に…
「知らない土地で迷子になったら大変ですから」
お見通しかよ…ちくしょう。
ギルド内をちょっとウロウロするくらいいいじゃねぇか…
「何か気になりましたか?」
「いつものギルドと全然違うからな、ちょっと見て回りたかっただけだ」
「一緒に行きます」
受け付けとかは服装や雰囲気が和風なだけで、そこまで変化はない。
酒場エリアみたいなところが足湯兼食事処になっていて、昼間っから一杯やってる人がいるのは似てる。
一番違うのは、広い畳スペースがあってみんなゴロゴロしていたり、なにかカードゲームをしてたりする。
その奥に温泉があるようで、今も頭にタオルを巻いた女性が二人出てきた。
「ルリとマリンですね」
「ん? そうなのか? わかんねぇな。頭にタオル巻いてるし」
「レイアらしいですね…」
何がだよ。
二人に見つかる前に退散したかったが、さすがはハンターとでも言うべきか。
あっさり見つかった。
「休んでなくていいの? 療養に来たんでしょ?」
「雰囲気を知りたくて覗きに来ただけだぞ」
「ここ変わってるよねー。でも仕事終わりにさっぱりできるのはありがたいよ。こんな仕事してても私達は年頃の乙女だし!」
風呂に入るのに、性別がなんか関係あるのか? って思ったけど、ふっと思い出した。
理乃姉が服や化粧品やらに金かけてるのを。
当然、詩乃姉と由乃姉もその辺は抜かりがない。いつも香水か何かでいい香りがしてるし…。
みんなは何故かオレの好きな柑橘系の香りにしてくれてるから、キツイとか臭いと思ったことはない。
由乃姉に至っては、高校に入ってすぐくらいのときだったかに、”零くんの前では一番キレイなうちでいるからね! ちゃんと見てて”って宣言された。
オレの前で着飾ってどうするんだろう? と疑問に思ったからよく覚えてる。
由乃姉は元々美人だろって言ったら突き飛ばされてひどい目にあった。
服とかより、その手をオレの血で汚さずにキレイていてくれと、何度思ったか…。
まぁ、何かと怒らせるオレも悪いんだろうけどな。
うちの姉達はどこぞのワンワン並みに沸点が低いから。
ダンジョンに行ってきたと言うルリマリから、ユリノ姉は色々聞き出してる。
オレも一度行ったけど、暗い迷路とでもいうのか…。
突然モンスターと遭遇するからビックリするんだよな。
倒すと色々落とすから金にはなるらしいけど。
オレもいくつか拾ったけど、帰るなりユリノ姉のお説教に突入したから売らないまま持ってる。
半透明のガラスみたいな石っころもある。
ルリマリは魔法石とか言ってたっけ。
「そういえば見た?」
「何をです?」
「魔の国の魔王様がご乱心ってやつ」
何それ怖い。
「知りませんね…何かしたのですか?」
「突然、全世界へ向け宣戦布告した後、行方不明らしいよ」
ご乱心で済ませていいのかよそれ…。
「ここは観光地で完全な中立地でもあるから、少し前から封鎖されて出入りできなくなったよ」
「オレたちこの街から出れねぇってことか?」
「うん。ギルドの緊急依頼とか特別な理由がない限り、詳細がハッキリするまで封鎖されたって」
魔王なにしてくれてんの? 勇者呼んで!?
「ただ、魔の国側も宣戦布告の意図はないって正式に発表はしたから、裏付けが取れたら封鎖も解かれるかもーって話」
「他の国はどうなってるんです?」
「わからないわ。封鎖されて情報も入ってこないから」
それより、宣戦布告したの? してないの? どっちなんだ!?
「二人はその情報、どこで見たんだ?」
「ギルドの告知」
「アレですか…」
ユリノ姉は知ってるのな?
確認してみましょうってユリノ姉に言われて、壁に貼られた新聞みたいなのを見てみた。
魔王様ご乱心!? 世界へ宣戦布告か? っていう見出しがデカデカと書かれてる。
えっと…なになに…
「魔の国、魔王様からの告知です。
”今すぐに出てこい。隠れても無駄だ。 もし匿うようならそれらも含め全て潰す”」
誰かを探してるのか? 匿うようならって事は、魔の国でなにか大きな犯罪でも犯して逃げたってトコロか…。
この告知をした直後から魔王様が行方不明なのでは? って噂もあるらしく、それを裏付けるように魔の国側が世界に向けて弁明したらしい。
「”我々魔の国は戦争を始めるつもりはありません。魔王様は捜し物を見つけたいだけです。どうか落ち着いて冷静な判断をお願い致します”」か…。
こっちの声明は魔王の名前でされていないから、行方不明とかいわれてるのか。
国を飛び出して探し回ってたら怖いんだが。
「探しているのは人なのでしょうか? 物なのでしょうか?」
「わかんねぇな…。 あっ! すっげー秘宝とかを盗んで逃げた、とか?」
「なるほど…捜し物は秘宝で、犯人を匿うなら潰すと…筋が通りますね」
「だろ?」
「ただ、犯人の見た目や探している物の情報がないのにどうしろと言うのでしょうね」
「だからご乱心なんじゃねぇの?」
「湯治客でしかない我々には無縁の話です。封鎖が解かれるまでのんびりしましょう」
「そうだな!」




