温泉宿で
「〜〜♪」
「レイア上機嫌ですね」
「おう! 温泉でなんか色々とスッキリしたからな」
「来てよかったですか?」
「あぁ! ありがとなユリノ姉」
「ええ」
本当に感謝だ。色々と悩んでたり、辛かったのも気にするだけ無駄って思えてきたし。
オレは生きてる! うん! だって飯はうまいし、温泉気持ちよかった。
死んでるならこんなこと感じねぇからな! 死んだことねぇから知らんけど。
「湯冷めしてもいけないので、早く部屋へ戻りますよ」
「そうだな」
ユリノ姉に手を引かれるのが心地よく感じるとはなー。
部屋に戻ると、テーブル類は片付けられて布団が敷かれてた。
おー、畳に布団とか最高かよ!
布団に身体を投げ出すと、心地よくて転がりたくなった。
「私の布団までクシャクシャにして…」
「悪ぃ…つい」
「いいですけど。病み上がりなんですから早めに寝ますよ」
「そうだな」
布団に潜るとユリノ姉は明かりを消してくれた。
「何も言わずに連れてきてしまってごめんなさい…」
「なんで謝るんだよ?感謝してるって言っただろ?」
「そう…ですか。それならいいですけど」
なんだよ。ユリノ姉らしくない。
もぞもぞと布団が動いてユリノ姉が側によってきた。
「私は傍にいますから」
「あぁ…」
撫ぜてくれるユリノ姉の手が心地よくてオレはすぐに睡魔に身を任せた。
…
……
………
…………
「零くん、大きくなったら零くんはうちと結婚するんだからね」
「それ、詩乃お姉ちゃんにも言われたよ?」
「だめ! うちとするの!」
「由乃お姉ちゃんはそうしたいの?」
「うんっ!」
「わかったーじゃあ詩乃お姉ちゃんには由乃お姉ちゃんが説明してね」
「そ、それは無理かなー」
「えーでもお母さんが言ってたよ?結婚は一人としかできないーって」
…………
………
……
…
なんか懐かしい夢見たな。
いつだっけあれ…。まだオレが小学生とかそんくらいか?
あの後、詩乃姉と理乃姉も混ざって姉三人がケンカを始めて、母親にどつかれて、仲良く三人とも泣いてたんだよな。
必死に泣き止ませようと三人を撫ぜた記憶がある。
あー…あれがあったからか。キレた詩乃姉を止めるのに撫ぜるようになったのは。
それがまさか宿屋の女将さんにまで効くとは思わなかったが。
夢のせいで目が覚めちまった。
明け方でまだ暗いのに。
隣からはすぅすぅ…とユリノ姉の寝息が聞こえる。
ユリノ姉はここに来るまでに、療養だからって、ようやく首輪と鎖も外してくれた。
まぁ、最近はつけてるのも忘れてたけどな。
オレは触れもしないし、重さも感じないから仕方ない。
ユリノ姉も引っ張ったのなんて二度くらいのものだ。
一回は宿屋で。 二回目は、道を間違えて路地に入りそうになった時。
裏路地は一歩はいると世界が違うから気をつけろってめっちゃ怒られた。
そんな物騒なのか?って聞いたら、どうもそういうわけではないらしい。
しつこく聞いたら渋々教えてくれた。
裏路地の先は、いかがわしい店が多く、レイアなら上手く言いくるめられて働かされる可能性もあるからと。
それを聞いて、オレは絶対に近づかないと誓った。
ユリノ姉もそれを聞いて安心したらしい。
こうして寝顔だけ見てると由乃姉と見分けつかねぇな…。
なんでこんな似てんだ?
……待てよ?
街を出るって、ユリノ姉はミミに言ってきてるよな?
何も言わずに来てたら…ってそんな訳ねぇか。ユリノ姉だぞ。
細かい事にも抜かりのない頼れる相棒であり姉だ。
それに比べて……オレはなんの役にもたってねぇ気がしてきた…。
「んっ…レイアぁ? もう起きたのですか?」
「あぁ、少し前にな。なぁ…ユリノ姉?」
「どうしました…」
「オレ、重大な事に気付いちまったよ」
「…っ! 何ですか!?」
びっくりした…そんな食いつかなくても。
「ユリノ姉はオレの相棒だよな」
「当然です」
「なのにオレは迷惑をかけた覚えはあるが、役に立った覚えがねぇ! それは相棒としてどうなんだ?」
「…はぁ、そんな事ですか」
「そんな事ってお前…」
「私が倒れた時、心配してくれましたよね」
「当たり前だろうが!」
「それで充分です」
そう言うと思い切り抱きしめられて身動きが取れなくなった。
苦しくないように加減してくれてるのか、妙に心地よくて安心する。何だろうなこれは…。
「もう少し寝ましょう?」
「あぁ…」
次にオレが起きたのはお昼少し前だった。
「やっと起きましたか?」
「んーー…ふあぁぁ…寝すぎて逆にだりぃ…」
「せっかくです。 目を覚ますためにもお風呂に入りますか」
「…ん〜そうだな。部屋にもあるし」
ユリノ姉に連れられて入った部屋の風呂は、個室用とは思えない規模で、三階なのに露天風呂まであった。
「こっちに来なさい。ほら…」
まだ少し寝ぼけてたオレはユリノ姉にされるがまま身体や髪を洗われて、抱きかかえられたまま湯船に入ったところでようやく覚醒した。
「ちょ…離せ! 流石に恥ずかしいから!」
「今更なんですか! さっきまで平気だったでしょう」
寝ぼけてたんだよ!
逃げるなら首輪つけますよ?って言われて色々諦めたオレはユリノ姉に抱かれたまま露天風呂を堪能。
温かいお湯はふわふわと心地よかった。
お昼は宿の食堂で食べた。
安いのに豪華なのは何なんだよ。
定食が三百円て…三千円って言われても納得するぞオレは。
「なぁ…ユリノ姉、つかぬことを聞くがこの宿の宿泊費っていくらだ?」
「二人で一週間三万円ですね」
あの豪華さで!?一泊じゃなく?
「じゃあ、オレのあの写真って一枚いくらすんの?」
「三千円です」
ウッソだろ…定食十回くえるぞ!?そんなもん買うやつが…いるからオレは今ここにいるんだな?
世の中わかんねぇな?
金はある所にはあるって言うけど、身を持って体験した。
「午後は少し宿を出て歩きませんか?」
「いいな! 土産物屋とかあるかなー」
「そうですね…ギルドには行きませんからね?」
「わかったって。行くにしてもユリノ姉と一緒にしか行かねぇから」
過保護と言うか心配性だなーユリノ姉は。
オレが何した。 …心配かけたな。
「ほら、行きますよ」
「おー」
平和だなぁ。姉達にも何か買って帰ろう。
ミミ経由で渡してもらえばいいし。
と言うか、いい加減まともな契約を提示してくんねぇかな…会話できねぇのは不便だ。
(何を考えてるかわかりますが…レイアは姉達が見えるようになった事に気がついていませんからね。このまま気が付かないほうが心の安寧には良いかもしれません。またあんな…苦しむ姿は見たくないですから)
「ユリノ姉?」
「…またフラフラしないように手を繋ぎますよ」
「仕方ねぇなぁー」




