療養
ガタガタガタ…とやたらうるさい上に揺れるせいで目が覚めた。
「うぅっ…なんだよ…」
「大丈夫ですか、レイア」
「ん、あぁ…なんかすごい頭痛がしたけど、今はスッキリしてるな。それよりうるせぇな。近所で工事でもしてんのかよ」
「それは良かったです」
質問はスルーかよ…。
「姉達は?」
「消えましたよ。なんかダメージを受けながら」
は? ダメージ…?
そこでオレはようやく目が覚めた場所がいつもの宿屋ではないことに気がついた。
狭い。揺れる。煩い。
「なぁ。まさかとは思うがこれ馬車の中か?」
「ええ。移動しています」
「なんでまた急に…」
「レイアはしばらく安静にしなくてはいけません」
なら馬車移動すんなよ…。
「療養のできる街へ行きますよ」
「オレはそこまで悪いのか?!」
「ある意味そうですね」
「マジかよ…」
頭痛はバカにしたらダメだとか詩乃姉が言ってた気がするからな。
「身体に良いという温泉もありますし、レイアの写真の売り上げでしばらくはのんびりできるでしょう」
「おい、あの写真まだ売られてんのか?」
「ええ、くまパンビッチのレイアといえばニャンダーでは有名です」
「おい、うそだよな?」
”冗談です”と言われたが、どこからがだよ…。
オレは丸一日以上寝ていたらしく、二日かかる馬車の旅も残りは明日一日らしい。
「この馬車はどうしたんだよ?」
「雇いました」
「雇った!?」
「おー起きたねー。おひさー」
「護衛は任せてくれていいからのんびりしてなさいね」
御者席から顔を覗かせたのは見覚えのある二人だった。
「マリとルリン!」
「ルリとマリン!! 一緒にダンジョンへ行った仲でしょ? 名前間違われるのは傷つくわ」
「ねぇ? ひどいよー」
悪ぃ…。でもさルリマリって略したら一緒じゃねぇか…。
「はいはい。病み上がりなのですから許してやってください。貴女達は仕事をしてくださいね」
「はーい!」
「報酬も約束されてるし任せてくれていいわ」
ギルドを通して頼んだのか。
「なぁ、ユリノ姉? 護衛を雇うのって高くないのか?」
「そうですね、安くはありません」
「その金どうしたんだよ? まさか…」
「と、ういう訳で、起きたのならこちらを」
「おい…オレのまさかはそっちじゃねぇ!」
「ギルドに預けられてるお金には手をつけていません。そもそもあれはレイアしか引き出せないと思いますよ?」
そうなのか?
「だからってお前…これはないだろ!」
有無を言わさずつけられたのは猫耳と尻尾。
「契約に入っていますから諦めてください。目が覚めて元気なら同行している間は装着する。という契約ですから」
「オレの意思は…?」
「レイアの療養の為ですよ? それに、ギルド貯金を使えるのならこんな事をする必要も…」
「わかった! わかったよ!」
休憩の時に、ルリとマリンがオレの姿を見て大喜びしていたのは言うまでもない。
途中、馬車を停めてテントで一泊。
シノンさんのお弁当は美味かった。
しばらく会えないからと、豪華にしてくれたらしい。
「早く元気になって帰ってきてね〜と言ってましたよ」
「そうか…心配かけちまったな。ユリノ姉にもな?」
「本当ですよ」
「ユリノ姉も、一度ゆっくりしたほうがいいし、ありがとな」
「いえ…」
なんか歯切れ悪いな? まぁいいか…
「そういや、これから行くのはなんて街だ? 温泉があるとは聞いたが…」
「カピバラックです」
「なぁ、ふざけてんの?」
茶色い動物が温泉に入ってる姿しか想像できんかったぞ?
「湯治で有名な街でして、人気の観光地でもあります」
「私達は、向こうへついたらギルドで仕事を受けるけどいいんだよね?」
「はい。行き帰り以外はご自由に過ごしてください。宿等の手配は致します」
「やった。夜は温泉、昼間は狩りに行くか、ダンジョンだね!」
「行くの初めてだから楽しみだわ」
ルリマリは仕事か…。
オレも落ち着いたらギルドに行ってみるかな。
「レイア、ダメですからね」
だからお前はエスパーか。
馬車内で目が覚めた次の日の夕方にはカピバラックに到着した。
温泉街と聞いてはいたけど、イメージ通りだな。
ただ予想に反してカピバラみたいなのはいなかった。
ここまできたらいてくれよ! がっかりだよ…
チェックインした宿も完全に和風旅館。
入り口で靴を脱いで、スリッパに履き替える。
着物を着た従業員の人に出迎えられた。
「ようこそ〜ゆっくりしてっておくれやす」
そのまますぐに案内されたのは三階の広々とした部屋。
「直ぐに夕食の仕度させますよって、お寛ぎください」
こってこての方言! 久しぶりに聞いたな。すぐ影響されて引っ張られるから気ぃつけんと…。
「ユリノ姉、ルリマリはどこいったん?」
「…直ぐに影響受け過ぎです! しっかりなさい」
マジか!
「あの二人なら、仕事がしやすいようにと、一階の部屋を用意しましたよ」
「そうか。なら、これ取っていいよな?」
「…そうですね」
ユリノ姉に外してもらって、ようやく耳と尻尾から開放される。
相変わらずオレには外す権限が無いからな。
部屋を見て回ったけど、やっぱり和風の旅館。
お風呂も部屋にあるし、広縁の椅子に座ると窓からは和風庭園が見える。
「…落ち着くな」
「それは良かったです」
ユリノ姉はいつの間にか部屋に備え付けの浴衣に着替えていた。
「レイアも着せてあげますからこっちへ来なさい」
「自分で着れる!」
「きちんと着ないと着崩れて丸出しになりますよ。それが望みですか?」
うっ…。それはやだな。
諦めてユリノ姉に着付けてもらった。
「可愛いですよ」
「そーかよ…」
浴衣を着るとますます自分が何処にいるのかわからなくなる。
窓からの眺めを堪能していたら、夕食が運ばれてきた。
和食のフルコース。湯豆腐に刺し身や味噌汁もあるのは何なんだよ。
やっぱゲームだよな?
「何を難しい顔をしているのです? 嫌いなものでもありました?」
「いや、好き嫌いはねぇよ。豪華だなぁーと思っていただけだ」
「それだけレイアの稼ぎが良かったと言うことです」
あの写真どれだけ売れたんだよ…。
「では、ごゆるりと。御用がおありでしたら呼んでおくれやす」
運んでくれた従業員の人にお礼を言い、ユリノ姉と食事。
「箸使えるのな?」
「何をわけのわからないことを…宿でも使っていたでしょう」
「たしかに…」
当たり前すぎて気にしてなかった。
ここに来て初めて違和感を感じただけだからな。
料理は本当に美味しくて、腹がパンパンになるかと思った。
ユリノ姉はすました顔で、オレが食いきれなかった分まできれいに平らげてた。
腹出てるんじゃねぇか?って言ったらひっぱたかれそうになった。
気になったんだからしょうがねぇじゃん…。
「幼児体型のようなレイアと一緒にしないでください」
「知るかよそんなこと!」
好きでこの体型な訳でもねぇのに。
食後の散歩に行きませんか? と言われて、拒否する理由もないし二人で和風の庭園を見て回る。
あちこちライトアップされててそれはキレイだった。
ただ、季節感がめっちゃくちゃ。
桜が満開かと思ったら、真っ赤に紅葉が色づいてるし、最後には雪景色…。
いいとこ取りも度が過ぎるとうっとおしいな。
それぞれの季節感はその季節に味わってこそだと思い知った。
「そろそろ行きますよ」
「あぁ… って何処にだよ?」
「ここは温泉宿ですよ?」
そうか。オレは湯治に来たんだった。
温泉。オレは当然女湯になるわけなんだけど…。この身体で男湯に行ったらエライことになる。
「………なぁ…」
「なんですか、風邪を引きますよ。せっかく湯治にきたのに、体調を崩したら意味がありません」
「わかった! わかったから、その格好で引っ張るな!」
タオルから零れ落ちそうなんだよ! ユリノ姉は!
オレなんか巻いたタオルの方が落ちそうなくらいなのに…。
早くと急かすユリノ姉に引っ張られて、入った大浴場は見たこともないような広さだった。
「素晴らしいですね」
「あぁ、ちょっと落ち着かねぇけど」
気分的にはユリノ姉と言うか由乃姉と混浴してるようなおかしな気分だ。
他に客がいないのは救いだな。
由乃姉は何度もオレの入浴中に風呂へ突撃してくるから体型は知ってる。
いくら水着を着ててもスタイルの良さは隠せねぇし…。
「いってぇ!! 何すんだよ!」
「なんだか、イラッとしたので」
そんな理由で抓るな!
うちの姉はみんなすぐに手が出るんだから…。
身体を洗って、温泉へ浸かる。
「ふぇ〜……」
「なんてだらしない顔をするのですか」
「ユリノ姉も似たようなもんだぞ」
「とろける程に気持ちがいいので仕方ありませんね」
じゃあ絡むなよ…。
温泉ヤバいわー。もー帰りたくねぇー…。
レイアの呆けきった表情を見ながら、安心したように微笑むユリノだった。
「しばらく滞在してもいいかもしれませんね。いっそ拠点を移してもいいかもしれません。ここには邪魔も来ないでしょうし」




