そっくりさんとズレ
うちらの渡した依頼を零くんは受けてくれなかった。
内容がダメだったらしい。
なんで!? 前よりハードル下げたし、ちゃんと報酬も明記したよね?
報酬がいきなり過ぎた? 初だなぁ零くんは!
まともな依頼にしないと受け取らないって言われたらしい。
零くんのセリフなんだけど、ミミの口から聞くと無性にイラってする!
それはシノ姉もリオも同じだったみたい。
「もぅ〜帰ってきて〜って依頼を受けられないって…零くんは帰りたくないって事かしら…」
「ちょっと、シノ姉。もしかして依頼内容って帰ってきてって書いたの!?」
「当たり前よ〜それが目的でしょう? 貴女達はなんて書いたのよぅ…」
理乃と顔を見合わせてお互いに目を背けた。うちらは多分、お互い人に言えない内容を書いてるな。
「あのなシノ姉、帰ってきて欲しいのはうちらも同じだよ」
「だったら〜」
「その方法を零がわかってるのかって話だよ! シノ姉バカでしょ!」
「…今、理乃は私にバカって言ったかしら?」
「ひいっ…アヤ、言葉のアヤだから! 零が帰る方法を知っていたら自分で戻ってきてるでしょ? って事!」
「…あぁ!」
大丈夫か、うちの姉は…。
「あの…零くんとフレンド登録できませんでした…」
「それってうちらとしたやつだよな?」
「はい…。そもそもフレンドのシステムというか、そういうものが無いみたいです」
どういう事だよ…。零くんの監視、もとい…いつでもやり取りできる便利システムが使えない?
ミミは零くん達と話をしているようなので任せるしかない…。
なんで依頼受けてくんないんだよ、零くん…。話したいよ。会いたいよ…。
「どうしたの? 零くん!? 零くん!」
ミミが何か慌ててる。
なに? 零くんに何が起こってるの!?
「ミミ! 零くんは!?」
「どうしたの〜!?」
「零!?」
「それが…」
ミミは零くんとその相棒とのやり取りを教えてくれた。
死んだ…? 零くんが?
確かに身体は無くなってた。でも…
「そこにいるんだよね?」
「はい。それは間違いありません」
うちはいてもたってもいられなくて、契約書をもう一度書き直した。
内容は、うちに姿を見せて!
期間は、今すぐ。
報酬は、うちがあげられるもので零くんが望むものすべて。
備考は、任意だからもういい。
「ミミ、これを零くんの相棒に渡して!」
「は、はい」
ミミが渡した契約書が消えた後、暫くしたら苦しそうな零くんと、その相棒だという相手が突然見えた。
「零くん!!」
「いきなり動かしてはいけません! 先程、ギルドの方に回復魔法を使える人を”依頼”しましたから…」
「…零くん…零くん!」
やっと見えた…。髪色は違うけど間違いない。うちの大好きな零くん…。
「ちょっと! 由乃姉! どうやって契約書を書いたの!」
「教えてよ〜心配なの…」
うちの思いついた簡単な依頼を二人にも教えて、直ぐにそれを書いた二人の契約書を代理で零くんの相棒に手渡した。
ため息をつきつつもサインしてくれて、契約成立。
詩乃姉と理乃が騒ぎ出したらちょうど回復魔法とやらを使えるって人がやって来た。
「少し空けてください。診ますから!」
「零くんは!?」
「落ち着きなさい。貴女達は姉なのでは? 取り乱してどうするのです!」
うちそっくりな零くんの相棒に叱られて黙るしかないうちら…。
「私はレイアの相棒であり保護者のユリノです。お見知りおきを」
「うちは姉の由乃…ここではユナだね」
「僕は姉の理乃。ここでは男だからリオ」
「詩乃よ〜本当に由乃にそっくりね…」
「レイアがちょくちょく言っていましたが、ここまでとは…」
うちもびっくりだよ。写真では見ていたけど、目の当たりにすると怖いくらい似てる。
「確か、レイアは始まりの森で出会った姫様の事を、理乃姉とそう呼んでいたのですが…確かに面影がありますね」
「わた…僕のそっくりさんもいるの?」
「ええ。私達のお世話になっている宿の女将さんは、そちらの詩乃さんに瓜二つです」
うちらは意味がわからなくて顔を見合わせた。
「…おかしいですそれ…」
さっきまで泣いていたミミが突然会話に混ざってきた。
「自分のそっくりさんがいないからか?」
「違います! それもなんか負けた気がしてムカつきますが、それではなくて…私の知っているワンッダの姫はリオさんとは全然似てません!」
また訳のわからない事が増えた…。
「皆さんは始まりの森で破壊活動をされませんでしたか?」
ユリノに言われて、なんの事かわからずにいたら、ミミが”やった”と答えた。
そんなことしたっけ…。
「馬車もろとも森もあれだけ破壊して覚えてないとは…蛮族ですか貴女達は!」
「あぁ! 泣き喚いてた姫がいたね!」
「それならうちも覚えてる! 詩乃姉がうるさいわ〜ってハンマーで殴り飛ばした」
「……この姉にしてレイアですね…。その時に貴女達は姫の顔を見てませんか?」
姫の顔…? わんわん泣いてたし、うずくまって震えてたからな。
NPCなんて気にしねーよな。
「見てない」
「知らないわ〜」
「僕は泣き声しか聞いてないね。後はぶっ飛んでいった姿しか」
「はぁ…大事な事ですのに。使えない方達ですね、三人もいながら…」
「「「あぁ!?」」」
「静かにしなさい! 病人の周りでギャーギャーと! 結果がわかりましたよ」
零くん…。大丈夫だよね?
「極度のストレスと緊張からくる疲労です。二、三日ゆっくりと休ませてあげなさい。それでも改善しないのならここへ行くといいですよ」
何やらメモをユリノへ渡してる。病院とかかな?
「ありがとうございます。こちらが報酬です」
「こんなに!? ありがとう。ちゃんと休ませてあげてね?」
「ええ。しっかり休ませます」
変な病気とかじゃなくてよかった…。
「お聞きになりましたように、私はレイアを休ませたいので失礼します」
「待って! せめて、せめてうちに運ばせて…」
「はぁ…まぁそれくらいなら良いでしょう。大切に扱ってくださいよ」
「わかってる!!」
うちがどれだけ零くんを大切に思ってると…。
抱き上げた零くんは、前よりか弱く、そして軽くなった気がする。
少し前に抱き上げてベッドへ運ぼうとしたら抵抗されたっけ…。
「こうして寝顔を見ると、いつもどおりに見えるね」
「そうね…髪の色は違っても零くんだわ〜」
女の子だけどね。今は…
ユリノの案内で、二人の泊まっているという宿屋へ零くんを運んだ。
迎えてくれた女将さんは確かに詩乃姉にそっくりで、相手もびっくりしてた。
後は理乃のそっくりさんか…。ミミの話では、似てないらしいけど。
零くんとユリノはそっくりだったと言ってた。
確認するべきかもな。
もし、もし…考えたくないけど零くんが、こちらの世界の住人になってしまっているとして、連れ戻すには少しでも多く情報がいる。
ましてやそれが、ミミの言うようにゲームの世界とのズレのある部分だというのなら。
グッタリした零くんをベッドへ寝かせた。
「ありがとうございました。後は私が見ておきます」
「まさか二人で一部屋!?」
「なにか問題でも?」
女同士だとしても、なんか納得できねー!
そもそも、零くんはなんでこのユリノの相棒に? 苦手な筈の女相手に拒否感もないの!?
あ、うちに似てるからか。ふふっ…それは仕方ないな。
「げふぉっ…」
「ちょっと由乃〜? 汚いわ…げふっ…」
「二人ともどうした…がはっ…」
「何してるのですか…コントなら部屋の外でしてください。レイアが休んでいるんですよ?」
いや、ちが…。これあれだ! リアルでお母さんがうちらの身体に攻撃してる!
「また来るから! 零くんの事お願いしたよ!」
「お願いされずともわかっています」
「うっ…早くログアウトしないと死ぬっ…」
「お母さんひどいわ無抵抗の身体に…ぐふっ…」
うちらは慌ててログアウトした。
「何なのですか、レイアの姉は…」
「……」
「貴女は残るのですか?」
「ううん。私もそろそろ…」
「そうですか」
「零くん、また来るからね。そうしたらちゃんと話をしよう? だから元気になってね…」
「……」
「零くんの事、お願いします」
最後の一人が消えるのを見届けて、大きなため息をつくユリノ。
「まったく…何なんですか? アレは…。 レイア、私がついてますからね…」
ベッドへ座り、レイアを撫ぜるユリノはなにかを決意したような、そんな目をしていた。




