力と正義
ここに来てから何日かたった。でも…
未だにアリスには会わせてもらえないし、初日の一度以外、声も届かせてはくれない。
頼んでも”今はダメ”の一点張り。取り付く島もないってこういうことを言うんだろうな?
なのに、オレの部屋には毎日、楓花は遊びに来るし、暇を見つけては女王様まで部屋に来て、オレを抱きかかえて離してくれなくなる。
疲れた時に癒やされるんだとかなんとか…。
オレは抱きまくらじゃねぇよ?…って言えたらいいんだけど、女王様に言えるわけもない。
それにあの尻尾で包まれると力抜けるんだよな…。
何回かお母さんって言ってしまって、その度に娘にするって騒ぎになる。
うちのお母さんと全然違うのに。
調子狂うんだよな、あの人と関わると。
今日も朝から楓花が和菓子を持ってオレの部屋に来てる。
「なぁ、アリスは本当に元気なんだよな?」
「大丈夫だってば。 あのね?何度も言ったけど、”あやかし”である僕達みたいに力の強いものは、その力の使い方を誤ってはいけないんだよ。それは、ヴァンパイアになったレイアちゃんも同じなんだよ」
「何回も聞いたってそれは…」
「アリスは決してやってはいけない事をしたんだよ。だから、反省をしなければいけない。レイアもそんなアリスの姿を反面教師にしなくてはだめなの」
それはなにか?オレにも何か反省しろってことか?
…違うか。
アリスと同じ様な力を持つ者として、過ちを犯さないように肝に銘じておけって事なのか?
「…わかった。じゃあオレはどうしたらいい? この力を間違った使い方しないようにはどうするのが正解なんだ?教えてくれよ。 楓花ならわかるんだろ?」
「やっとわかってくれたね…。 それについては母上がしっかり面倒を見てくれるよ。自分から学ぼうとしてほしかったんだよ。母上は」
回りくどいことを。ハッキリ言ってくれたらいいじゃねぇか…。
「初めからそう言ってほしかったって思ってるでしょ?」
「あ、あぁ…」
「言われて学ぶのと、自分から学ぼうとするのでは大きく違うんだよ」
んー?そんなに差があるものか?
「今回、アリスは力を使い記憶を弄って、レイアちゃんの心を手に入れようとした。これはわかる?」
「あぁ。それも何度も聞いたからな。だけど理由もあるし、命を助けてくれたのもアリスなんだぞ?」
「そこだよ。大事なのは。 うちの国では心を操る様な魔法や力をつかうと罪が重い。それは他所から来た旅人でも変わらない」
「……」
「だけど、アリスは自身の犠牲も厭わず、力を分け与えてまでレイアちゃんを助けたの。これは正しい力の使い方」
「自己犠牲だけが正しいって言いたいのか?」
「違う! そうじゃないの。 …やっぱり母上に任せたほうが良さそうだね…」
なんだよ…。
「というか、オレがヴァンパイアじゃなくなれば、その力云々ってのは関係なくなるのか?」
「ヴァンパイアはね、治せないの。特にレイアちゃんやアリスみたいな真祖、そういう強大な力を持つヴァンパイアは絶対に無理」
「そうか」
「突然変異でヴァンパイアになった直後というのなら手の打ちようはあったのだけどね」
あぁ、例のヴァンパイア対ドラゴンの戦いの発端になったやつか。
「治したかったの?」
「いや、聞いてみただけだ」
アリスが自身の力を半減させてまで分けてくれた、そんな力を無くしてしまう。なんていうのはやってはいけないだろ。そんなのアリスへの裏切りでしかない。
「まだよくわかんねぇけど、力の使い方ってのを学べばいいんだな?」
「そう。力というのは使い方次第では悪にも正義にもなる」
「だけどさ、それって立場が違えば変わるんじゃねぇか…?」
「どういう事?」
「例えば、今の状況だってそうだろ。楓花が言ってる正義ってのは、この国の法に則ったものだろ?」
「そうだね」
「だけど、アリスからしたら自身の使える力を使っただけで、悪意なんてない。それを一方的に悪だと決めつけてるだろ」
「それは!!」
「わかってる。この国にいる以上、オレとアリスがその法に従うのが当然ってのはな。そこは否定しねぇよ。でも、この国を出たら? そこでも楓花はこの国の法を振りかざして正義だって言うのか?」
「……でも間違ってない!」
「確かにな…。今回の話ならそうだろうよ。 オレが言いたいのは、立場やましてや国が違えばそれぞれに正義はあるだろって事だよ」
「うぅ…で、でも!」
オレ、間違ったこと言ってるか?
「難しい話をしておるようじゃのぅ。楓花が言い負けるとは、面白いものが見れたのぅ…」
「母上! 僕は間違ってるのですか?」
「はて、それもまた難しいのじゃなぁ…。レイアの言うように、正義というのは国が違えば変わることもあろう、もっと言えば一人ひとり違う」
「……」
「じゃからこそ、心が大切なんじゃ。よいか、レイア。楓花も聞いておけ。 正義を拳にして振り下ろすでない。人は自身が正義の側にいると思い込んだ時、一番残酷になるものじゃからな」
「悪よりもですか?」
「あぁ。自分は正しい事をしてる、そう思い込んでおると、何をしても自身は間違ったことをしていない、そう錯覚してしまう。現に今、楓花はこの国の正義をレイアに押し付けたであろう?」
「間違っていると?」
「そうは言わん。それぞれ自身が正しいと思うことを成せば良い。そうじゃな…自分が正しいと、そう思ってとった行動が、大切な人に胸を張って誇れるか?その相手に笑顔で受け入れてもらえるか?それをよく考えることじゃ」
「………」
「我はな、レイア。お主に自身でしっかりと考えて、己で答えを見つけてほしかったんじゃ」
「答え?」
「うむ。立場が違えば正義も違う。それがレイアの見つけた答えなら、それを貫け。相手の立場になり考えろ。いいか?決して力を振りかざして正義を語るなよ」
「難しくてよくわかんねぇけど、オレは、オレが信じたものを大切にする。それを守るためだけに力を使うようにするよ」
「そうじゃ、それでいい。 よし、レイア。ついてくるのじゃ」
「どこに行くんだ?」
「ナイショじゃ〜」
さっきまで真面目な顔してたのに、突然態度を変えないでくれ…。びっくりするから。
ここの女王様って無邪気というか、子供っぽいイタズラをしてきたり、さっきみたいに物凄く大人っぽかったり。よくわかんねぇんだよな…。
身近にこんな大人はいなかったからかもしんねぇけど。
そんで、オレはどこに連れて行かれるんだか…。
まさか…次は肉体言語で勉強だ! とか言わねぇよな!?
確か女王様ってめちゃくちゃ強い妖狐なんだろ?
…うちのお母さんとどっちがやべぇんだろう。
…………
戦う二人を想像したら、特撮映画みたいな怪獣大戦争になったから止めとこう…。




