トラウマ
「そろそろ復活してください。あれからもう三日ですよ?」
「同じような事を言われて昨日、街へ出たら何人に猫耳くまパンって言われたと思う?」
「…数えるのも面倒臭かったですね」
「だろ? もう外歩けない…」
「可愛らしくなったのはいい事ですが、いい加減仕事をしないと例のお金に手を付ける事になりますよ?」
詩乃姉がオレ名義で貯金してくれたってやつか…。
本人に聞こうにも会うことなんてできねぇしな。
ちょっと待てよ?今がオフラインと仮定して…
「なぁ、ユリノ姉。オンラインってどのタイミングで切り替えれるんだ?」
「はい? おんらいんとは何ですか?」
「おいおい…サポートキャラよ。頼むぜ…」
「何を言っているのかわかりませんがバカにされたのだけは分かりましたよ。良いのですか? コレ、バラ撒きますよ?」
「おまっ…それ! なんで持ってるんだよ!」
「可愛いのでサンプルを貰ってきました」
ふざけんなよ…。なんでカフェで撮った写真が量産されてんだよ。
「ほら、仕事に行きますよ? それとも私に身体で稼いでこいって言いますか?」
「…わかったよ。行けばいいんだろ…」
「なんだかんだと大切に思ってもらえているようで安心いたしました」
由乃姉の顔で泣かれるような事させたくねぇだけだし…。
違うな…ユリノ姉が泣く姿だって見たくはない。
ギルドまでの道中も、えらい数の女の人に声をかけられた。
あれから店にいないから寂しい、とか…今から家に来ない? とか…。
その度にユリノ姉が止めてくれたけど、ギルドに到着する頃にはぐったりだ。
女の人怖い…。
「くまパンはそのへんに座ってなさい。私が仕事を見つけてきますから」
「あ、あぁ…くまパンゆーな。ユリノ姉なんて紐じゃねぇか…」
「…なにか言いましたか?」
「いいえ」
怖い。姉も怖い。怒るくらいならそのへんに放置しないでほしい。
うちの姉といい、ああいうのを見えるところに置くのはどうかと思うぞ?
見てソレとわかるものは見ぬふりできるけど、何かわからず拾ってしまった時のこっちの気持ちも考えてくれ。
ギルドの酒場エリアに空いてる椅子を見つけて座る。
相変わらず混んでるなぁ…。
「あら…貴女、この間の」
「ん? げぇっ…」
「酷いなぁ。尻尾をこう…してあげた仲じゃない」
やめろ。そのぎゅって握る仕草。感覚が残ってて背筋がゾワッてするわ!
「ギルド員だったの?」
「…あぁ。カフェには派遣で行っただけだ」
「どおりであれから会えないわけだわ。貴女かなりの数のファンが出来てるのよ?」
聞きたくない聞きたくない…。
「カフェに、貴女の写真を貼るエリアが出来てるわ」
マジかよ! 剥がしに行きてぇ…。でも二度とあそこには行きたくねぇ…。
「あーっ! こんなとこにいた!」
「この子ギルド員らしいわよ?」
「へぇー。じゃあさ? うちらとクエスト行かない?」
猫耳やだ…尻尾怖い…。
「なんか一人みたいだし、私達で面倒見てあげよう」
「さんせー!」
「はーい、行くよー」
もうメイドはヤダ…メイド怖い。
……………
…………
………
「あれ? ここどこ!?」
「話聞いてなかったの?」
「えっ…」
「うちらとダンジョンに来ていまーす!」
はぁぁ!? 何でそんなことに…
「今はまだ入ったばかりだから良いけど、この先は敵が出てくるから、気をつけないとだめよ?」
「それとも戦闘なんてできない子かなー?」
「弓と回復魔法くらいつかえる!!」
「じゃあ大丈夫ね。援護ヨロシクー」
「怪我したら頼るから!」
何でこうなった…。
あれ? ユリノ姉は…?
「おいてくよー。ダンジョンでハグレたら大変だからね?」
「待ってくれー!」
今はとりあえずこっちに集中しないと…。
顔見知り程度の女の人と初ダンジョンとか難易度高すぎる!
〜〜〜〜〜〜
「おかしいですね…待ってるように言ったはずですが」
ギルド内を見渡しても赤い髪の小柄な女の子はいません。
私がレイアを見間違うなんてあり得ませんし…。
「おう、久しぶりじゃねぇか」
「いつぞやは気にかけていただいてありがとうございました」
「いいって事よ。同じギルドの仲間だからな。 それより珍しいな? いつもひっついてるちっこい嬢ちゃんはどうした?」
「それが…」
依頼を探すため、少し目を離したスキに見失ったと説明。
「普段ならおとなしく待っているのですが…」
「ギルド内で誘拐とかは有り得ねぇだろうが…ちょっと待ってろ。聞いてきてやる。アンタ達は目立つからな、誰か見てるだろう」
目立つのですか? 私達は…
レイアは確かに可愛らしいですからね。見た目と口調のギャップも最近は癖になってきましたし。
それにしても、一人でフラフラとどこへ行ったのやら。
まさかお菓子で釣られて? いえ、流石にそこまでは…。
ではナンパ? それこそついて行くとは思えません。
……………
…………
………
「おう、待たせたな。どうやらルリマリについて行ったらしいぞ?」
「誰ですかそれは!!」
「お、落ち着けって…ルリとマリンっていう二人組の女パーティでな? 悪い奴らじゃないし、腕も立つ。アンタ達に紹介しようと思ってたやつらだな」
なんでそんな二人にレイアが?
基本的に知らない人は苦手なはずですよね? それが…どうして?
「どこへ向かったかは?」
「そこまではわかんねぇな。ギルドは緊急でもない限り、他人の受けた依頼の内容はあかしてはくれねぇ」
「緊急です! レイアが連れ去られたのですよ!!」
「二人と手を繋いで仲良さそうに出発したって聞いたぞ?」
手を繋いで!? 私ですらしたこと無いのに!!
ギルドの受付に掛け合うも、緊急性なしと言われて行き先も教えてもらえず…。
レイア、貴女なにしてるのですか…。
まさか、私はもういらないと? そういう事ですか?
あまりのショックにどれくらいぼーっとしてたのでしょう。
レイアの幻覚まで見えるようになりました…。
「ユリノ姉! ただいま! 勝手にいなくなってごめん!!」
「いえ…、私は捨てられましたから」
「捨ててねぇから!! おーい、しっかりしてくれ!」
「ごめんね、てっきり一人だと思って…」
「いや、オレもぼーっとしててちゃんと話を聞いてなかったからな」
「これ心配し過ぎてこわれてない?」
「うっそだろ!? ユリノ姉! ユリノ姉ってば!!」
揺すっても反応がない。どうしたらいいんだこれ…。
「なにかショック療法でも試さないと無理じゃない?」
「なんだよそれ…まさか殴れっていうのか?」
「いやいや。そんなのじゃなくていいから。喜びそうな事とか知らないの?」
喜びそうな事…。 あぁ、あるじゃん一つ。
「ユリノ姉、ただいま」
そう言いながら撫ぜる。
「うわっ…」
なんだ!? なんでポロポロと泣き出した? 失敗だったか?
でも、これ以外思いつかねぇんだよ…。
「レイア…レイア!!」
「ぐえっ…ちょ…し…しぬっ…」
「あはは。良かった、復活したみたいね、じゃあ私達はこれで…」
「待ちなさい…私が納得する説明をするまであなた達は何処にも行かせませんよ!」
「「ひいっ…」」
ユリノ姉、これマジギレのやつ! 由乃姉と同じ雰囲気!
巻き込まれたら…命の危険がちょー危ない!
「レイアもそこに座りなさい!」
「はい…」
知ってた。逃げられるわけねぇって…。
……………
…………
………
オレ、椅子に座ったまんま夜を明かしたのか…。
前にもあったなこういう事。
バレンタインに義理でもらっただけのチョコに三人の姉がキレたんだ。
根掘り葉掘り聞かれたけど、大して知りもしない相手に貰ったものをどう説明しろと?
中身がチョコボーロだったから義理だと納得したけど、もし手作りだったらオレはどうなってたんだろうな。
姉達からはすっごいチョコやケーキをもらったけどな…。
それからは義理でも絶対受け取らないようにしてる。
だから学校ではチョコ嫌いってことになってる筈。好きなのに…
ダンジョンでは活躍した二人も、今は口からなんかもわぁ〜って出て白目向いてる。
「いいですか? 何度も言いますが、私とレイアは相棒なんです! 二人で一人なんです。それを引き離すのは誰であろうと許しませんよ!」
それもう何百回も聞いた…。オレが悪かったから。
「ユリノ姉、ごめん…オレもう無理…」
ダンジョン大変だったんだぞ…罠はあるし、敵はいるし…くらいし。
ユリノ姉はいないし…
「レイア!?」




