和桜の国 入国
「忘れ物はないわね?」
「うん。みんなブラッドボックスに仕舞ったよ」
もうすく船は和桜の国の港へ入港する。
下船の準備も抜かりない。
ちょっとワクワクしてきた。
「しばらくはここを拠点にするから、街の近くで景観のいい場所を見つけて拠点を作りましょう」
「わかった!」
私も拠点の作り方…というか、ブラッドミストから望んだものを具現化する方法は学んだのだけど、まだまだ大きなものは作れない。
精々自分が使う武器を作り出せる程度。
アリスが預かっていてくれた荷物の中に武器類は無かったし…。あったのは石っころや木の実ばかりだった。
長い眠りにつく前に私は何をしてたんだろう?
しかも植物類は毒のあるものが多々あるから、仕舞っておくようにってアリスからきつく言われてる。
ただ、見た目はキレイなものが多いから…もしかしたら気に入って拾っていたのかもしれない。
「王族が降りるまで一般人は下船できないのね。面倒くさいわ…」
「霧になって下りちゃう?」
「…その手があったわ。わざわざ待つ必要なんて無いわね」
よく気がついたわねってアリスに褒められて、二人で霧化して船を抜け出した。
霧になっててもアリスの事は認識できるから、しっかりとついて行く。
船を下りたアリスはそのまま街を通り抜けていく。
ついていかなきゃと思うのだけど、街が綺麗で…そちらに気を取られてしまう。
なんだか懐かしいような、落ち着くような不思議な感覚。
つい、止まって街を眺めてしまった。
”アリサ! 何してるのよ”
ご、ごめんなさい…。なんだか懐かしいような気がして…。
”…そう。拠点を作ったらゆっくり連れてきてあげるから今はついてきなさい”
わかった…。
霧のまま街の外へでて、人気の無い場所で元の姿に。
「アリサもヴァンパイアの能力を上手く使えるようになったわね」
「ほんと? 良かった」
アリスに褒めてもらえると嬉しい。
「街が見渡せるような場所で、こちらが目立たない場所を探さないと」
「建物は目立たないようにできないんだね」
「できなくは無いのよ。ただ、それをすると大きな建物にできないの」
「狭くていいよ。アリスと二人でのんびり出来れば」
「わかったわ。お風呂は?」
「いる!」
「はいはい…」
苦笑いしたアリスと、小高い山の中へ。
「この辺りは人も居ないし、水脈もあって木も多いから楽そうね」
「素材になるものがあると楽なの?」
「それはそうよ。何もないと全てを自身の血から作り出さなきゃいけないから貧血になるのよ」
なるほど…。
試しに枝を手に持って、武器を作ってみる。
「ほんとだ! すごい楽」
「上手くなったわね。 それ、弓?」
「うん! さっき街の中で持ってる人がいたから…」
あ…れ…弓?
痛っ……。
「無理しないの。まだ本調子じゃないのだから。直ぐに拠点を作るから見てなさい」
「うん、わかった…」
アリスはあっという間に拠点を作り上げた。
前のお城とは違う、和桜の国風な建物。
「雰囲気を合わせてみたわ」
「こっちのが私は好きかも」
「そう…。 ほら、中で休みましょう」
拠点の中もどこか見覚えのあるような、そんな懐かしさがあってほっとする。
それでも頭が痛いのは治らない…。
アリスに促されて、敷いてくれた布団へ横になる。
「ゆっくりしてなさい。アタシは少し偵察してくるわ」
「気をつけてね」
「アタシを誰だと思ってるの?」
そうだよね…。
出かけるアリスを見送り、しばらくしたら頭痛も治まった。
そうなると寝てるだけなのは落ち着かなくて…。
布団からでて、拠点を見て回った。
台所やお風呂もチェック。
大きなお風呂は綺麗で、ゆっくり浸かれるくらいに広い。
夜が楽しみだな。
”大人しくしてなさいよ。拠点を出たらダメだから”
わかった…。
アリスの拠点内だからか、私が何してるかもバレバレなのかも。
その後は特にすることもなくて、窓から和桜の国を見下ろしてた。
”メイドを連れて帰るから。細かい事はやらせるけど、アリサもやりたい事があったらしてもいいからね”
うん。でも…記憶も怪しいからよくわかんない。
”焦らなくていいわ。負担がかかるとまた辛くなるわよ”
そうだね…。
しばらく待ってたら、霧化したアリスが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま。いいわね…おかえりって言ってもらえるの」
「そう?」
「ええ。 とりあえず二人連れてきたから細々した事は任せておけばいいわ」
眷属ってやつかな…。
「そうね。魅了してるだけだから血を吸ったりはしてないわ」
「うん?」
「アタシはもうアリサからしか血は吸わないって事よ」
どういう意味だろう…?
「…そっか、アリサはそのあたりを理解してないのね。”この人”って決めた相手がいるなら他人からは吸わないの。人で言うなら浮気にあたるのよ」
「へぇ〜。なら私が他の人から吸ったら…」
「許さないわよ! 浮気なんてしたら酷いんだから」
「しない!」
浮気って何かよくわからないけど、アリスが嫌がる事はしたくない。
虚ろな目をした女の人二人は、表情とは裏腹にテキパキと動く。
「この人たち勝手に連れてきてよかったの…?」
「住み込みとして雇ったから大丈夫。ただ、眷属化しておいた方が思い通りに動くから楽なのよ」
口答えとかもしないもんね。返事もしないけど…。
「今日はゆっくり休んで、明日は観光と食べ歩きするわよ」
「やった…! 和食が食べられるんだね」
「ええ。評判のいい店とかも調べてきたから任せなさい」
それは嬉しいな。
「ありがとうアリス」
「いいのよ。アリサが喜んでくれるならね」




