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うちのやべー家族達

エセ方言が多々混ざりますのでご注意を。

そういうものなのね と広い心でお読みくださると幸いです。



「うっぷ…気持ち悪ぃ…」

あぁ…やっぱりダメだったな。

3D酔いが酷いのに、VRゲームなんてやれるわけねぇよな。


「やっぱ辞めるか。ログアウトってどうやるんだ?」

「その情報はお答えできません」

「なんっでやねん! 基本情報やろ!」

「訛られましてもお答えできないものはできません」

「何なんだよほんとに…無駄にAI発達してんな」

「お褒めに預かり光栄です?」

褒めてねぇよ…。肝心な所で役に立たないサポートキャラとか持て余すわ。


なんか他に方法は…

そういえば、パラパラっと見た説明書になんや緊急用のスイッチがあるとか書いてあったような?見間違いか?


確か、左手の小指辺りだったはず…。

んー連打しているつもりなんだけど、何も起こらないぞ?

「何でスイッチきかへんねや!!」

「いったい何をしておられるのですか?」

「うるせーな。 緊急用のスイッチを押してんだよ。でもな?反応しねぇんだわ」

「…さようですか」

こっちが困ってるのに淡々としてて腹立つな。


いや、待てよ?あの子なんて言ってたっけ… 効きの悪いスイッチがあったから買い替えたとか言ってたか?ふつーはまず使わないスイッチだから大丈夫! とも言ってたような…。

まさか…それがこのスイッチか!?

というか、そもそも押せてるのかすらよくわかんねぇ。コントローラーを握ってるって感覚もない。

キャラも操作してるというよりは思ったとおりに動いてるからな。

例えるなら、現実で自分の身体を動かしているような?

すげーな?最新ゲーム。


でも気持ち悪いのだけは治らねぇ。

「ちくしょーが!! うっぷ…くっそ…」

「言葉遣いを直されたほうがよろしいかと思いますよ?その見た目ですし」

「…うるせぇよ。選んでこの見た目になってるんじゃねぇんだよ!」

大体、見た目の確認もしてないから知らねぇし。


オレがなんでこのVRゲームを始めたか、今しがたゲームのサポートキャラにツッコまれた見た目に関しても、すべての始まりは昨日の放課後に遡る。



〜〜〜〜〜



金曜日の授業も終わり、明日からはゴールデンな休みに入る。

クラスのみんなもそれぞれ遊びの予定を立ててたりと、一週間近くある休みを前にして平日の放課後より活気がある。

オレも誰かと遊びに行くか…?

「ねぇ(れい)くん! ちょっといいかな?」

「あん?」

「少し時間もらえる?」

誰だっけ…同じクラスなのは知ってるけど、名前までは記憶してないな。

なんせオレは女が苦手だ。

当然クラスの女子も極力避けてるし、必要以上に関わろうともしてない。


別に男が好きだからとかそういう理由ではないから、そこは間違えないでほしい。

単純に女が苦手ってだけだ。身内にぶっ飛んだのが四人もいればそうなっても仕方ないと思う。

それは今はいいか。

「聞いてる?」

「あぁ、何か用事か?」

「ここじゃあれだから…ちょっと来て!」

「あ、おい!」

いきなり腕を掴んで引っ張るなよ。 姉といい、どうしてこう強引なんだ?

ホントこっちの都合なんて気にもしないよな。



引っ張られて連れてこられたのは校舎裏。

なんだ?まさか、また姉のケンカに巻き込まれたのかよ!?


「あ、あのね… えっと……好きです! 私と付き合ってください!」

「うん?」

「ほんと!? やった…」

「いや、今のは疑問系の”うん?”であって…」

あまりの予想外の展開に頭がついていかなかっただけだ。

オレからしたら関わりもない、初対面とほぼ変わらない相手にいきなりこんなことを言われたら混乱しても仕方ないと思うんだが。


「…じゃあやっぱり、ダメ? それともお姉さんとの噂って本当なの?付き合ってるって…」

「ちげーから!! やめろよマジで…」

「じゃあいいよね? それに、噂をどうにかしたいなら彼女を作るのが一番いいと思うよ?」

こっちの意見は聞かねぇのな…。 でも確かに、姉の流したおかしな噂をどうにかするのにはいいのか?


それに…いつまでも女が苦手とか言ってたら、一生彼女もできないままジジィになりそうだし。


ただ、いくつか確認しておきたいことがあるのも事実だ。

「なぁ?なんでオレなんだ?」

「顔がめっちゃタイプ!」

「は?」

「私、中性的な可愛い男の子がタイプなの!」

可愛いとか言うな! 父親からの遺伝なんだから仕方ねぇだろうが!

しかもうちの母親みたいなこと言いやがって。

うちの父親はそれで母親の毒牙にかかったらしいからな。



「うちの姉の事を知ってるのなら、オレと付き合うってのがどういう意味か知ってるよな?」

「もちろん! 理乃先輩には許可もらってるよ!」

あぁ…理乃姉の許可ってのは、この学校内でなら免罪符だな。

学校内でならな!!

学校を一歩出てみろ…更にやべーのがいるからな?


というか、理乃姉にまで手を回されてるとなると、下手な対応をしたらどうなるかわらんぞ…。

仕方ない、押し切られるような成り行きだけど、ものは試しだ。

もし、この子がいい子なら苦手意識も克服できるかもしれない。

「わかった…まだ君の事を何も知らないし、まずはお互いを知るところから始めよう」

「うん! ありがとう!」

やったーとか言いながら走り去ったぞ…。ちゃんと話し聞いてたか?あと、せめて名前くらい教えてほしかった。

いや、クラスメイトなら知ってて当たり前か。オレが悪いな。



その日の夜、当たり前のようにスマホにメッセージが送られてきた。

理乃姉だろうな、連絡先教えたの。

”私のこと知りたいって言ってたよね? 明日デートしよう! 待ち合わせは駅前で、時間は十時ね!”

オレに選択肢があるとは思えない一方的なメッセージ。

姉達で慣れてるからいいけどな。

”わかった”と返事をしてたら、キッチンから詩乃姉が呼んでる。

「ご飯できたわよ〜」

「わかった、今行く!」



リビングにお皿を並べてる詩乃姉を手伝ってたら、なんか少し不機嫌そうな理乃姉がやってきた。

「オッケーしたんだって? …可愛かったでしょ?あの子」

「理乃姉…大丈夫なのか?由乃姉にはなんて言ったんだよ」

「…言うわけないでしょ。 零もバレないようにね。 命大事に。だから」

マジかよ…。 



ここで、うちの家族構成を説明しておこう。

まずは両親。

元ヤンの母親、麻乃(まの)と、そのヤンキーに捕食された父親、(けい)は、うちの一階にある店舗で”パン屋・マオウ”を経営している。 

数年前に母親が会社をやめて、母親の命令でずっと主夫をしていた父親を、今度は突然パン屋の店主に仕立て上げた。

「貴方の腕なら間違いないから、やれ」 って。本音は父親のパンを母親が好きな時に食べたいだけな気がしないでもない。

いや、違うな。母親の仕事柄、何度か引っ越すはめになってたから、それを止めてくれたんだと思う。

たぶん…。

おかげでオレは姉たちより転校回数は少ないし。



因みに母親のが父親より十センチほど背が高い。

可愛いもの好きな母親に、中性的な父親の外見はどストライクだった様で、あっさり捕まり、そのまま結婚したとかなんとか…。


パン屋は地元のみならず他県からも買いに来る人がいるほど人気の店で、常に忙しいから休みの日はオレも手伝ったりしている。いい小遣い稼ぎになるんだよな。


それに、確かにパンは美味いんだよ。うちの父親は料理が上手いから。 

ちなみに母親の料理は壊滅的。台所は荒れ地と化し、食った人間が気を失う。


店の名前の由来は母親の若い時のあだ名から。

父親はその中性的な見た目で、店に来る客から、一人でいる時は娘に。オレがいると母親に間違われたことも一度や二度ではない。

それを気にしてか、母親は短かかった髪を伸ばして、今は黒髪ロングになっている。



長女の詩乃(しの)

背は家族の中で一番低く、ぱっと見の印象は優しそうで大人しい。そんな雰囲気。

忙しい両親に代わり、家事全般をこなす家庭的で、女子力の高い姉だ。

ただし! 壊滅的に方向音痴で、一人で買い物に行かせたら一人で帰る事はない…。

例えそれが近所のスーパーでもだ。


何度かそれで夕飯抜きになった挙げ句、他県の警察から連絡があって迎えに行った。

ちなみにキレたらヤバい。これは、詩乃姉だけじゃなく全員の特徴か。 

料理の腕は父親似で、方向音痴と、キレたらヤバいのは母親似。

うちの母親は、若い頃にケンカをふっかけてきた相手を返り討ちにし、そいつから奪ったバイクで走り出して、行き先もわからないまま、数週間行方不明になった伝説があるらしいからな。



次女の由乃(ゆの)

スタイルがよく、モデルの勧誘もあったとか聞いたことがある。

今は女子大生で大学が遠いから帰りも遅い。

寮に入ればいいのに、遠くても家に帰ってくる。

オレにとって、一番身近な驚異でもある。

”零くんの初めてはうちが絶対もらうから。うちもそれまでキレイなままでいる!”と、周りにまで豪語してるちょっと頭のおかしい姉だ。おかげでオレと付き合っているとかいう噂が流れてる。


両親も止めないし、詩乃姉は”あらあら…”って笑ってるだけ。

唯一、理乃姉だけが”姉弟でそれはおかしい”って止めてくれてる。

だからだろうな…今日、あの子がオレに告白するのを理乃姉が許可したのは。


由乃姉には何度も風呂へ入ってこられたり、布団に潜り込まれたりと、身の危機は日常茶飯事。

気を抜いたら…喰われる!



三女の理乃(りの)

母親に一番外見が似ているのが理乃姉。背も母親の次に高く、スレンダー。

気にしてるらしいから、そこに触れたら死あるのみ。ジ・エンドだ。

うちの高校の三年生で、学校の所謂ボス的存在だ。

何でそうなってるかといったら、理乃姉が高校に入学して早々、上級生から告白されたのが始まり。

確かにうちの姉達は外見はいい。かなりの美人と言っていいだろう。これは、母親に似たからだろうけど…。


「俺が付き合ってやるから、俺のものになれ。可愛がってやる」

そう言って告白されたらしい。

ブチギレた理乃姉はその場でボッコボコにした。

それが学校を仕切っていたヤツだったらしく、それ以降、ケンカして勝てば付き合えるっていう変な噂が流れて…結果、今や理乃姉が学校のボスになってる訳だ。

何度かオレも巻き込まれて、人質にされた事がある。 

ブチギレた理乃姉が助けてくれたけど…。

”あっさり人質にならないでくれる?めんどくさいから” ってオレまで殴られた。

殴った後に”無事で良かったよ”ってハグするのはずるいよな。一時的とはいえ殴られたのを忘れるんだよ。

キレても理乃姉だけは口調がかわらずに普通。それが逆に怖さを助長してる。



末っ子がオレ、(れい)

うちの家族構成を見てもらえば、女が苦手になる理由はわかってもらえたと思う。

オレは基本無気力で、なるようになるだろってスタンス。

全員ベクトルの違うぶっ飛んだ姉とはいえ、みんな高スペックだから、同じ様に期待されてもオレはそれに答えられない。

まぁそれは言い訳か。

わかってても、今更何かを必死に頑張ろうとも思えない。

それでも世界は回ってるし、明日はやってくる。

なるようにしかならねぇんだよ。







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