私の偽物に弟子が出来ました。
てってれてー☆
続きですよ☆
(途中台詞が続いて読みにくいです)
前の奴→https://ncode.syosetu.com/n3610ij/
マズい。非常にマズい。
あ、良い事思い付いた。
◇◇◇
「私を捕まえて何する気!?」
(うるさ)
捕まりそうになって、一人の少女を逆に捕まえて絶賛逃走中。正直耳が持たない。
「何でお姫様抱っこ!?」
(別に良いでしょ横抱きでも)
「何か言って!?」
(この人捕まえたの失敗だったかも)
「あわっ!?」
私は無言で彼女の口を塞ごうとした。横抱きなので落としそうになった。
「あびゃあ!落ちそうになったっちゃじゃん!」
(いや、何て言ったの?)
私は明かりを背に、路地裏から逃げている真っ最中。だからこの状況で顔が見えることは無い。
でも五月蠅いのは癪だから、周りに誰もいない事を確認してから紙袋を被せた。
「!?……あ、良い匂い」
(この状況で!?)
彼女は突然袋を被せられたのに驚いている。
いや、私も凄いビックリしてるよ?だってここまで肝が据わってる人見たこと無いし。
因みに紙袋はチーズタルトの奴。本部から貰った。
普段から貧乏性を発症しているせいで、お高い物にお目にかかるのは久々だった。
すごくおいしかった。
「チーズの良い匂いする。しかも結構高い奴。これ何かのチーズ?」
(アタリ)
「焼けた香ばしい匂いもするし。これ何かの生地?」
(アタリ)
「これは……ベイクドチーズケーキ?」
(ギリハズレ)
そうして目的地に辿り着いた私は、紙袋を被ったまま独り言を発している不審者を腕から下ろした。
◇◇◇
縄で動けない状態にして、床に座らせる。
被せた紙袋を外し、呼吸のしやすい状況にした。
「ぷはぁ……助かった……」
スマホのメモ機能に文字を入力し、それを見せる。
『貴女は誰なんですか?』
勿論スマホはデータが無いまっさらな物だ。
「誰とか、教える訳無いでしょ!?」
『声が大きいです。死んじゃいますよ?』
カランビットナイフを器用にくるくると回す。リングが付いている物で、暇な人差し指のお供にピッタリ。因みに練習用のおもちゃである。
「……っ」
『もう一度訊きます。貴女は誰ですか?』
「……」
それっきり何も答えなくなった。
(面倒臭いからもうやっちゃおうかな。怒られるかな。もう眠いし失敗してもそれはそれで)
スマホの表面に指を滑らせる。入力音が五月蠅いのでミュートした。
『殺した方が楽ですかね?眠いですし』
「殺す、って……!それに、この状況で眠い……!?」
『どこかにマイクが隠されてそうですが。わざと質問内容を読み上げているのは?』
「!?」
『死ぬ前に訊きます』
「……」
私は彼女に近づき、彼女に付いたマイクと発信器を取り除いた。
目の前の少女はスマホから顔を上げて、私の方を見た。
街頭の逆光で顔は認識できないだろう。認識できたとして死ぬのは時間の問題だ。
暗闇に爛々と輝く赤色の瞳。風に揺れるツインテール。小さな赤いリボン。夜に溶け込むゴスロリ調の黒い服。いつもの服装で少女を問い詰める。
『貴女は何者ですか?』
「……」
それでも目の前の少女は答える素振りを見せない。どころか、少し俯いてしまった。
『では、質問を変えましょう』
「……」
少女の視線が一瞬こちらに向けられる。そしてすぐにスマホに視線が移った。
『貴女は、何がしたいですか?』
少女は首を傾げ、困惑の色を示した。
「それってどう言う……」
『そのままです』
俯いた。考えた。十秒。一分。答えた。
「……私は、一つだけ、」
少女は、普段聞かないような言葉を発した。
「一つだけ、願うなら。私は、復讐がしたいです」
その言葉に私は少々驚いた。執念を背負っているようにも、深い闇を抱えているようにも、見えなかったから。……そして単に急に敬語になったから。
『そうですか。何故ですか?そして誰のですか?』
「私の、父親です」
『どうかなさったんですか?』
「殺されました。数週間前です。衆議院議員でした。分かりますよね?」
『あぁ、あの人ですか。亡くなったっていう』
数週間前、私が手に掛けた衆議院議員。
彼はグループを立ち上げ、悪事に限りを尽くした。
彼の死後、情報を集めていく時、動機だけが一切の不明だった。
唯一残された家族である彼の娘から情報を入手すると同時に、彼の後を継ぐ可能性があるとして、仕事命令が下った。
その娘こそが、目の前の少女だった。
「私は、父子家庭でした。幼い頃から父親の手一つで、育てられてきたんです」
「でも父親はそれが原因で、悪事に手を染め始めました。今となっては考えられませんが、昔はうちは貧乏で。仕事の苦痛に耐えかねたのかと思います」
「その力を借りて、衆議院の議員になって。もう足を洗おう、とも言っていたのですが」
「今までのしがらみもあって、抜け出せ切れなかったんです」
「父親は優しかったです。悪知恵を働かせている時も」
「あの眼だけは穏やかで。私はその狂ったまでの優しさに、育てられました」
「そんな父親の事情も知らない人に、私の父親は殺されました」
「殺されるべきなのは私の筈なのに。だから、私を育ててくれて、理不尽に殺された父親の」
「仇を討ちたい」
少女は泣いていた。少女の正義感と信念は砕ける程小さくは無かった。
「だから、貴女の弟子にしてください」
(!?)
「貴女の弟子になって、いずれ父親を殺した人を殺したい」
『何故私?』
「強いんですよね?」
『恐らくは』
嘘である。強い訳でも何でもない。何なら非力過ぎて普段から困っている。
では何故少女を横抱き出来るのか。あれは火事場の馬鹿力と言う謎の力であって、私の力ではない。多分。
「じゃあ……!」
『復讐は何も生まないと聞きますが』
「……良いんです」
『では復讐したとします。そうしたらどうするんです?』
「私は。多分死ぬと思います」
『身勝手ですね』
「よく言われます」
彼女の意志を汲んでしまう辺り、私もまだまだだなと思った。
私は嘘を吐いて、こう文字を打った。
『貴女の父親を殺した人を、私は知っています』
「本当、ですか……!?」
『ですが、貴女が私に勝てるようになるまで、教えません』
◇◇◇
『IFAS-HQ』に連絡を入れる。すると、すぐ返答が返ってきた。暇なのかな。
そして以下が暇人二人による会話履歴。
『終わりました』
『そうですか。成果はどうです?』
『なんか仲間になってくれそうです』
『???』
『仲間です。ナカーマ』
『どう言う事です?』
『質問をしたんですが、一つ目から答えて貰えなかったので』
『殺したんですか?』
『いえ、代わりに最後に何がしたいか訊いたら『復讐』って言われました』
『訊く内容と返答が少々おかしいですが、それで?』
『なんか弟子入りを志願してきました』
『ところで復讐って何です?』
『父親の仇を討つそうです』
『その父親を殺したのは誰ですか?』
『私ですね』
『それ、貴女死にません?』
『ですね』
『師匠以前に、父親の仇ですよね?』
『ついでに一人の警察官の仇も追加で』
『そう言えば、情報は出てこなかった、って事で』
『いえ、何か話してたらポロッと言ってくれました。嘘の可能性はありますがそれは無いかと』
追加でボイスメモのデータを添付した。
“ボイスメモ—780.2KB”
『ご苦労様ですね』
『ところで、彼女はどうするべきです?』
『確かにもう遅いですし。寝泊まりする場所もありませんよね。貴女の家と言うのもあれですし』
『はい』
『近くのホテルとかに泊まったりしたらどうですか?二人で』
『はい?』
『予約しときますね』
『はい!?』
◇◇◇
「予約のお客様ですか?」
ホテルのフロントに辿り着くなり私は、無言で受付嬢の人にスマホの予約画面を見せた。
(どうしよう、絶対面倒臭い人だと思われる……!)
途中で着替えたからまだ良いものの、あの服だと流石に目立つ。
それに、隣の彼女に至っては、サングラスを掛けている。
「こちら、部屋の鍵になります。それではごゆっくり」
渡された鍵は、半透明のプラスチックの棒っぽい奴に415と書かれている。
「これって……」
『多分そうですね』
渡された鍵は一つだった。
(同性だからまだ良いけど普通プライベートってもんがあるよね?しかも初対面だし)
と言う旨のメッセージを本部に送ったところ、
『経費キツいから許してちょ☆』
と返って来たので(※ガチ)、
『キッッッツ』
と送ってやった。
部屋に辿り着くや否や、私は視界を覆い、ベッドにダイブした。
(ふっかふかだぁ~)
たまにはホテルも良いか、と思った。
◇◇◇
師匠(勝手に読んでるだけ)と部屋に入った私は、すぐさま上着を一枚脱いだ。
「この服暑い……」
クリーム色のニットのセーター(萌え袖もあるよ!)はサイズこそ合うものの、普段着の上に即席で一枚来ている形なので、暑い。圧倒的暑い。師匠に関してはパーカーを着て、マスクをしたままベッドの上に寝っ転がっている。絶対暑さでくたばるってあれ。
「ところでお風呂先に入りますか?」
「……」
「あの?」
「…………」
私の師匠たる少女がベッドに顔を埋めたまま、返事が全く無い。
体を揺すっても反応が無い。
(まさか窒息!?)
あり得ないと思いつつ、布団を捲る。
バサッバサバサッボワッガサガサッファサァッ
師匠が乗っていてあまりに動かなかったから、何度も布団を動かした。
すると師匠が仰向けで現れた。息はしてたけど、
(いつアイマスクを……?)
鼻から顎にかけて白いマスク、目には黒いアイマスクをしていた。笑ってしまった。
そして恐らく寝ている。呼吸が寝ている時のそれだから。
ふとマスクの下が気になって、近づいた。
(寝てるから、バレないよね?)
のそのそと近づき、そっとマスクに指を掛ける。
そこまでしてから、こういう時は大体起きている展開が多い事を思い出した。
(もう遅いか)
そう思ってマスクをゆっくり外した。
ん、と言う声と共にピクリと体が動いた気がしたが、すぐに寝息を立て始めた。
口と鼻が露になる。その調子でアイマスクにも指を掛ける。一瞬指が耳に触れた時は焦ったが、危なげなく任務を完了した。
(うわぁ……)
何と言うか、普通に顔が良かった。白のプルオーバーパーカーが絶妙にマッチしている。美が付くタイプの少女で、さっきまで殺意マシマシだったとは思えなかった。すぅすぅと言う寝息がかわいらしかった。
マスクは邪魔だったから机の上に放り投げた。
(そうだ、お風呂……)
そのまま何事も無く風呂に入って、何事も無く風呂から出る。
最小限音を小さくしてドライヤーを使っていた。
(髪、乾かないなぁ)
不意に父親の事を思い出した。優しかった父親。悪党だった父親。沼から抜け出せないままに死んだ父親。その仇を討つと決めた。
(私、死なないよね……?)
思えばいつでも逃げるようとする事は出来た。
師匠が誰かに連絡している時。
個室で師匠が着替えている時。
師匠が自販機で何かを買った時。
ホテルへと歩いている時。
(逃げて、たまるもんか)
逃げる事は自分のプライドと、父親への感謝が許さなかった。
思えばどうせ死ぬ人間なのだ。今更もう恐れる事は無い、そう固く決心したまま、ベッドに寝た。
◇◇◇
翌朝は酷く平和だった。
「おはよ」
それが初めて聞いた、彼女の声だった。
彼女、師匠はホットミルクの入ったカップを口元に近づけてそれを飲み、そしてひげが出来た所を舌で舐めた。マナー関係無しに可愛かった。
「顔と声、知られたからには逃がさないよ?関津 朱音さん?」
彼女はもう一度舌で唇を舐めた。
ども。私です。
暗殺系って書いてると楽しいんですよ。でも。
「これ読んでる側面白いか?」
となるので一度悩む始末です。
よくある(?)自分のネタで笑っておいて冷静考えると面白くないって奴です。
もう面白いと思って書くしかないですねこれは。