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綾瀬withペトリコール2

 教室の前に立つと、わいわいと騒いでいる声が聞こえる。

 

 今はちょうど休み時間みたいだ。

 教室の扉が開いているから、私が扉を開く音でみんなの視線を浴びることはなさそうで安心する。

 

 ぜひとも私のために、扉はいつも開きっぱなしにしていてほしいものだ。

 

 怪しいものじゃないですよーと頭の中でぶつぶつ呟きながら、教室に足を踏み入れてクラスを一望する。

 久岐と小峰はいたけれど、近くにかえでの姿は見えない。

 トイレにでも行ったのか。来ていないのか。


 自分の席につくとちょうどチャイムが鳴った。

 ちらっとかえでの席を見る。

 やっぱりそこには誰も座っていない。

 

 先生が教室に入ってきて出席を取った後に数学の授業が始まった。

 中学までは勉強をしっかりやっていたこともあって今のところ授業にはついていけそうだ。

 十五歳になってバイトを始めてからは勉強を全然しなくなったから、授業においていかれるのも時間の問題だけれど。

 

 特に問題もなく三時間目が終わり、四時間目もつつがなく始まる。

 かえでの席は依然として誰も座っていない。今日は学校に来なさそうだ。

 

 もしかして体調を崩して熱でも出しているんだろうか。最近寒くなってきたし、寒暖の差で風邪をひいてもおかしくなさそうだ。

 あるいは……単に学校をサボっているだけだろうか。

 正直、そっちのほうがしっくりくるし、九割以上の確率でサボりだとは思う。

 けど万が一のこともある。

 体調を崩したんじゃないかと考えついて心配してしまえば、事実を確認をするまでその不安はずっと心に根付いてしまうものだ。

 

 もし、本当にかえでが体調を崩しているなら、私は何をしてあげられるだろう?

 何かお見舞いにゼリーでも買っていってあげようか。

 でも私はかえでの家を知らないからそれは無理だなと即却下される。

 それどころか私はかえでの携帯アドレスすら知らないのだ。

 

 お見舞いも無理で、体調を気遣うメールを送ることもできないなら私にできることってなんだろう。

 いくらかえでのことを心配に思っても、一人で頭を悩ませることくらいしか私にはできなさそうだった。

 

 そう考えると心に何か纏わりついているかのような感覚になって、どんどんと胸が重くなっていく。

 かえでとの今までの関係が良いとは思う。けれど、こういうのはなんだか嫌だった。

 

 昼休みが始まると部活っこ達が元気よく教室を飛び出していく。

 他の生徒も学食を食べにふらふらと教室を出ていった。

 だから教室に残るのは友達と喋りながらお弁当を食べる人くらいだ。

 その人達は自分の席を離れて、各々のグループに集まって机で島を作り談笑を始める。

 すぐに楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 

 さすがにその中で一人でいるのは居心地が悪い。

 いつもなら私も学食に向かい食堂で時間を潰すけれど、今日はどうしよう。

 

 公園から学校に来る途中、私は時間調整のためにコンビニに寄った。休み時間中に登校するためだ。

 そこで食べたおにぎりがまだおなかに残っている。

 たかだかおにぎりの一個しか食べていないからお腹がいっぱいになっているわけではない。

 むしろ少し物足りないくらいだけど、この状態で学食を食べるとお腹が少し苦しくなってしまう気がする。

 学食を食べても食べなくても、私の胃が幸せと感じる量には到底なりえそうになかった。


 もう一度コンビニに行ってサラダとか、何か軽いものを買おうかなと思う。

 またイートインスペースで時間を潰して五時間目が始まるまでに戻ってくればいいし。


 まるでこの居心地悪い空間から逃げ出すように、鞄を手に取って廊下にでた。

 

 一年生の教室は三階なので一階まで降りなければならない。

 いったい私は一日に何回昇り降りしなくてはならないのだろうか。それだけでコンビニに行くのも一気に億劫になる。

 

 廊下の端まで歩いていき、階段を下りるべく角を曲がる。

 すると肩にぽんっと誰かの手が乗った。

 

 やばっ。先生にばれた?

 

 この学校は校則で登校以降は下校までは外出しちゃいけないことになっている。

 だから昼休みに鞄を持って教室を出る私は不自然すぎる。というか勝手に外出する気満満なのが溢れ出ていると思う。

 

 それともかえでが廊下の反対側の階段を登って登校してきていて、私が帰る姿をみつけたから声を掛けに来てくれたのだろうか?

 

 期待半分、不安半分で恐る恐る振り向いてみると、期待は外れてしまう。

 残念ながら不安半分の方だった。

 しかも予想にはしていない不安。

 

「よっ。久しぶり」

 

 私の肩を叩いたのは久岐だった。

 隣に小峰も立っていて、じっと私の目を見つめている。

 目を見つめられるのは苦手で、反射的に目を逸らしてしまった。

 

「えっと……何の用?」

 

 昨日、怪我した手のひらに爪が食い込んで痛い。思わず鞄の取っ手を強く握りすぎたみたいだ。

 

「綾瀬さん」

 

 小峰の透き通るような声が私の名前を呼ぶ。

 小峰の温度感を感じさせない声がなんだか怖い。

 

「放課後、話……あるから。一緒に帰ろう」

「それじゃまた後でな」


 今なんと言われた? 冗談でしょう?

 

 呆気に取られて返事がすぐにできない。そんな私の返事を待たずして二人はくるりと踵を返して教室へと戻っていく。

 

 そうして一人、私は階段に残された。

読んでくれてありがとうございます!

ちょっと短いですが、もう少し書いちゃうと切りが悪いので許してください!

綾瀬withペトリコール編は次で終わる予定です


感想、評価、レビュー、作者のモチベーション向上に繋がりますので宜しければ是非お願いします!

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