幕間・綾瀬茜は夢を見る
理想の夢を見た。
舞台は高校の教室で時間は昼休み。
私の机を超えた先にはよく知っている女の子がいて、私はその子から「はいこれ。プレゼント」といわれてイヤリングを渡される。
私が呆気に取られていると、彼女はイヤリングを取って私の耳に顔を近つけてくる。
彼女の冷たい手がもそもそと私の耳をいじくり回して、少しくすぐったい。
私が耳に微かな重量感を感じると、彼女の顔が離れていった。
「おっ、やっぱり似合うね。私の見立てに間違いなかったよ」
そう言って、彼女は手鏡を見せてくれた。
鏡に浮かぶ私の顔。
耳にはイルカの形をしたイヤリングがぶら下がっていて、そこに映る髪の毛は一面真っ黒だった。
「そう……かな? ほんとに似合ってる?」
「似合ってるって! 私がほかの誰でもない茜のために選んだんだから自信もってよ。私を信じてさ」
彼女は胸をとんっと叩いてドヤ顔をしている。なんとも余裕のありげな表情だ。
「怜がそういってくれるなら本当にそうなんだね。ありがとう。大切にする」
「うん。そうしてくれなきゃ困るよ」
彼女はもっとよく見せなさいと言わんばかりに私の髪を耳からどけて顔を近つけてくる。
「やっぱり、よく似合ってるね」
そういわれた私の心はすぐに紅潮して、鏡に映っている私の顔も嬉しさのせいか恥ずかしさのせいか、それともはたまた別の何かのせいか赤く染めあげられていく。
「かわいいなぁ……髪もすんごいサラサラしてるね。触ってると落ち着くよ」
褒める対象がイヤリングから髪に移り変わったようで、私の髪を何度も手ですいてくる。
「ちょ、もう! あんまり触らないで!」
こうして触られていると普通は落ち着くのかもしれないけれど、それ以上に恥ずかしさが勝ってしまって彼女の手を握って机の上に戻した。
「えー。嫌だったなら謝るけどさ~。うーん。それじゃあもう二度と触らないほうがいい?」
「それは――また話が違うというか……たまになら……」
そう私が答えると、彼女の目は少し細くなって口角がつりあがった。ひどく優しい表情がそこには見える。
「正直まんざらでもないんでしょ?」
「っ……」
嫌なはずはなかった。ただあまりに距離が近くて、ほてっていく私の体温が彼女に伝わってしまいそうで。
「照れちゃってかわいいな~! 甘えんぼさんめ~!」
うりうり~と私の頬を怜が両手でこねくり回してくる。
「ひょ、ひゃめ、ひゃめへ~!」
こうやって怜と話していると心がこそばゆくて、気が抜けてしまう。
手からも力が抜けてしまったみたいで、手から鏡がすり落ちた。
慌てて掴もうとしたけれど、私の手は空を切る。
鏡はそのまま机にバウンドして床に向かって落ちてゆく。
床に落ちる直前、鏡が教室のドアを映し出す。
そこに映っていたのは久岐と小峰と話しながら教室に入ってくるかえでの姿だった。
かしゃん。
鏡は砕けて音が鳴って、私は夢から目が覚める。
体はどこか火照っていて、少し汗ばんでいるのが分かった。
――朝からひどい気分にさせられた。
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