蒟蒻ミルクティー2
家に着くと「ただいまー」とだけ言って自分の部屋へ向かった。
服を脱ぐのすら億劫で、鞄は床に放りタピオカは机に置いて制服のままベットに飛び込む。
着替えなきゃ汚いよなーとか思うけど、今日か明日にでもシーツ洗濯する予定だし大丈夫だろうと納得させる。
納得しなかったとしてもあと数分はこの状態でいないと動けそうにない。
枕に顔をうずめると、からだの奥から大きなため息が湧いて出た。
すると廊下からパタパタと足音が聞こえてきて、わたしの部屋に近づいてくる。
ガチャバーーーーン! と扉を豪快に開け、ずけずけと部屋の中に入ってきた。
足音の軽さと、それに似合わない効果音の多さで、妹の唯がきたんだなと分かる。
「おねーちゃんおかえり! 遊んで!」
「お姉ちゃん今日ちょっと疲れてるんだけど……」
今年で小学六年生になった唯も、わたしと同じで学校があったはずなのに元気そうだ。
わたしなんて午後しか行ってないのに、こんなにも疲れている。
そんなのはお構いなしに、わたしの横にきて脇腹をツンツンされる。
くすぐったくて反射的にからだをよじってしまう。
「ちょっ、くすぐったいって」
「おねーちゃんつんつんつーん」
ただでさえ疲れてるのにこんなことされてはたまったものじゃない。
立ちながらつんつんしてくる唯の腕を掴み、無理やりベットに引き摺り込んだ。
「わわっ!?」とか声を漏らしてる唯を強引に抱きしめて動けなくさせる。
小六らしい身長も相まって、思ったより抱き枕適性高いかもしれない。
「お姉ちゃん、今日は疲れてるから大人しく寝ようねー」
「さっきまでお昼寝してたからやだ〜」
やだ〜 とは言いつつも暴れ出さない。むしろわたしの身体にぎゅっと抱きついてきたので満更でもないのだろう。
かと言っても体感で十分くらい経つと、「やっぱり遊んで」とせがんでくる。
まだわたしは元気をチャージできたわけじゃあない。
「あー。そうだ。飲みかけだけどそれ、飲んでみる?」
家に帰る頃にはすっかりぬるくなっていたタピオカミルクティーを指さした。
これでも頑張って半分くらいは飲み終わっている。
唯の興味もそちらへ向いたようで、わたしから離れて机の上に置いてあるミルクティーの方へと歩いていった。
「なにこれ? なんか黒いの浮いてる……苦そう」
「タピオカミルクティーってやつ。めちゃ甘いから味の心配はしなくて良いよ」
おそるおそる手を伸ばした唯は神妙な面持ちでストローを加えた。
表情がどこか大げさでおっかなびっくりしながらも楽しそうな雰囲気が感じられる。
透明なストローを液体がゆっくりゆっくりと上っていって、唯の口に入っていく。
「あっまーい!」と目をぱあっと輝かせながらぴょんぴょんと跳ねる。
かと思いきやそのまま部屋から出ていった。どこ行ったんだあいつ。
部屋に取り残されたわたし。
当初の目的通り、休むことにした。
唯が出て行ったあと、疲れたなぁと思って昼寝をした。
けれどすぐに唯に叩き起こされる。ご飯の時間らしい。
いつも通り、母と父、唯の家族全員で食卓を囲んで夕飯を食べた。
今日は唯の大好きなハンバーグだったけど、タピオカのせいでいっぱい食べれなさそうだった。
疲労困憊の姉につんつんした罰だろう。
ハンバーグを食べ終わると、お風呂に入った。
あがったら昼間してあげれなかった、唯とテレビを見たり一緒にゲームをしたりして、唯が疲れて寝たら部屋まで運んだ。
育ち盛りなこともあって、わたしが運ぶのはそろそろ限界かもしれない。
ベットにのせた後、丁寧にタオルケットをかけてあげる。
目を閉じて、栗みたいな口をしながら、すやすやと聞こえてきそうなほどに寝入ってる唯。
そのほっぺを少し押してみる。
ぷにっ。
おー。幼いだけあって柔らかい。小学生ともなると、肌のみずみずしさというか、弾力というか、何かが決定的にわたし達と違う気がする。
ぷにっ。ぷにっ。
昼間の仕返しのように、何回押してみてもやわらかい感触が返ってくるだけ。わたしがこんなことやられたら確実に目を覚ます自信がある。
このまま、どこまでやったら起きるのか試してみたくなったけど、気持ちを抑えて唯の部屋を後にする。
パタパタと忙しなく唯が走っていたルートをそのままゆっくりと歩き、わたしの部屋に向かった。
そして、特にやることもないから寝ることに決める。授業の予習とか復習とか、そういうのもやる気にはならない。
もそもそと布団に潜り、目を瞑る。
一度仮眠を取ったとはいえ、今日もよく眠れそうだ。
家に帰ってからはいつも通りの日常。イレギュラーは昼の時だけ。
まぁわたし発端ではあるんだけどね。
「疲れた、なぁ」
ぼそっとぼやくのと同時くらいに、わたしの意識は遠のいていった。
パラパラと音が聞こえてきて目が覚める。
アラームで起きなかったことに少し違和感を覚えながらもカーテンを捲る。予想通り雨が降っていた。
スマホの電源を入れると時刻は九時四十三分。
どうやらアラームはなってくれなかったらしい。アラームを止めた記憶はもちろんなかった。
とても一時間目に間に合うような時間ではない。
それどころか二時間目も始まっている。
「今日は、無理そうだなぁ」
公園には到底行けそうにない。
綾瀬に一応連絡を入れておこうと思ってLINEを開く。チャットをチラッと一瞥して、あっ、と思う。
そういえば綾瀬と連絡先を交換してなかった。
綾瀬と出会ってからはほぼ毎日公園で時間を潰して、たまーに「明日は学校行くかなぁ」とか言ったりして。
わたし達の間でこれは必要なかったから、すっかり気がつかなかった。
でも、流石にこれだけ雨が降っていれば、綾瀬も大人しく学校に行くかサボるなりしているだろう。
わたしだったらそうするし、綾瀬はわたしとは違うけれど、まぁさすがに、ね。
やっぱり、わたし達にこれは必要ないのかもしれないな。
わたしはもう一度、布団の中へ潜ることにした。
読んでくださりありがとうございます!
今までの話は、かえでにとっても、綾瀬にとっても、とても大きな一日となっておりました! ド派手にイベントが起きたわけではないですが、これを機に二人の関係は少しずつ変化していく……のかな? それとも?
次回は「幕間・綾瀬茜は夢を見る」です!
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