12.闇コンビニ
明日までに七・六二ミリ弾を千発用意しないといけなくなったら?
起爆に使えて足がつかないプリペイド携帯が欲しくなったら?
手っ取り早くプリンターで一万円札を刷りたくなったら?
みーんな解決、裏社会の味方。
それが闇コンビニ〈ペイルライダー〉だ。
ヤクザ、偽造屋、フリーの殺し屋、大卒覚醒剤密売軍団、中国人のストリート・ギャング。
特殊なお客さまのニーズを満たしてくれる。
それが〈ペイルライダー〉なのだ。
アタルももちろん知っている。
会員カードも自分のものを持っているから、わざわざ波多野のカードにポイントを貯める必要はない。
「しゃっせー」
信じられないのはバイトの挨拶ではなく、そのカウンターの下にカラーボールを備えていることだ。
闇コンビニに果物ナイフ一本で強盗働くものがいるらしい。無知はときどき途方もない代償を要求するものだ。
「アタル先輩。あそこで飾られてるのって、鵺切影近ッスか?」
「知らないけど、きみがそう言うんなら、そうなんだろうね」
「伝説の忍者刀ッスよ。現存してるとは思わなかったッス」
「どれどれ。お値段は……これ、ゼロが多すぎるんじゃないの?」
「いやいや、少ないくらいッス。……アタル先輩、かわいい後輩に何かプレゼントしたくなったんじゃないッスか?」
「なるわけないでしょ。どうせ盗品だよ」
「そうッス。盗まれたッス。織田信長に分捕られて以来、行方が分からなかったッス」
こんなふうに普通のコンビニでは取り扱えないものがここで売られている。
ドラッグはまさにドラッグであり、おにぎりの代わりに各国の制式手榴弾が有明海苔に包まれている。アサルトライフルにつけるアタッチメントの福袋が目立つところに並べてあり、レーザーサイトの電源が切れていないのか、箱のなかから発せられた赤い点が天井にポツンと映っている。あとは旧共産国の拳銃がカートに山積みにされていて、どれでも一丁二千円、三丁で五千円で売っていた。
コンビニと言えば、人気アニメとのコラボはお手の物。
〈ペイルライダー〉ではなんとスナイパーズ・ドクトリンとのコラボ。
「こういうとき、社会人でよかったって思うんだよね」
交換シール欲しさにチョコエッグを大人買いし、限定A4クリアファイルと限定マグカップと限定ネンドロイドと限定.308ウィンチェスター弾を手に入れたアタルはホクホク顔である。
「見て見て、この三〇八。リムにSunaDori!って刻印されてる」
こうした限定商品には転売ヤーがつきものだが、アタルの転売ヤーに対する態度は『一発入魂地獄行き』だ。
「スナドリ・グッズの転売ヤーなら休日出勤のサービス残業でも殺すよ」
「アタル先輩、ときどき殺人鬼になるから困りものッス」
さて、この世のなかには注射器をライフルから発射させようと考えたものたちがいる。
思いついたのはジャンキーで、自分で麻薬を持ち歩かず、スナイパーを雇って、液体化したコカイン注射弾を打ってもらえれば、逮捕はされても、押収のリスクがなくなると考えたのだ。
しかし、スナイパーを雇う金でもっと多くのヘロインコカインアンフェタミンを買えると気づくと、発明者のジャンキーは二束三文で注射弾の特許を手放した。ジャンキーというのは本当にそういうことをする連中であり、コインランドリーの洗濯機を盗むのも、小学生にポケモンのインチキデータを売りつけるのも、全ては危険でご機嫌なアルカロイドを血管に流すためなのだ。
アタルは青酸カリの入った注射弾を五発買った。
「領収書もらえます? ㈱のグッド・キラーズでお願いします」
「っしたー」
次回更新は 2023/2/1 七時過ぎの予定です。




