番外編:新side
短いですが、新視点の番外編です。
この会社が第一志望で、並々ならぬ気合を入れて家を出たのに。
電車で人身事故があって、全力で走った。
間に合ったけど、真夏にスーツ着て全力で走ったから汗だくで、後から思えば多分熱中症になりかかってた。
会場に着いたもののぐったりとしてしまって、『これ、ちょっとやばいかも』と思いながら待機していた。
駄目だと思いながら、姿勢を正していられなくなり、膝に肘をついて前のめりになっていたら、首に冷たいスポーツドリンクが押し当てられた。
『大丈夫?これ、さっき買ったばかりで口つけてないしまだ少し冷たいからあげる。面接これからでしょ?汗拭いたほうが良いよ』
『藤原莉子さん。前室に入って待機してください』
『あっ、はい!ごめん。呼ばれたから行くね。もし具合悪かったら係の人に早めに言ったほうが良いよ。じゃあね』
淡い水色のタオルハンカチを俺の手に握らせて、彼女はパタパタと走って行った。
周りは自分の事で精一杯で見て見ぬ振りしてくるやつらばかりだったのに。
この時はぐったりしてて、ちゃんと莉子の顔が見れていなかったけど、研修で『藤原莉子です』と自己紹介している彼女を見て、すぐにわかった。
あのときは礼を言う余裕がなかったけど、俺がこの会社に入社できたのは間違いなく莉子のおかげだ。
研修が始まってすぐ、俺はあのときの礼を言おうと莉子に近づいた。
だけど、あまりにも真剣に課題に打ち込んでいる様子を見て、声をかけたら邪魔をしてしまうと思った。
何度か礼を言うタイミングを計ったが、彼女はいつも何事にも真剣に取り組んでいた。
その様子を見ているうちに、元々高かった彼女への好感度がどんどん高くなっていくのを感じた。
同期の中ではそこまでできるほうではないようで、必死な様子は伝わってきたから、手助けするべきか何度も悩んだ。
俺がそんなことを考えていることなど知らない莉子は、自分の課題が終わっていないのに、手伝ってほしいと声をかけられるとそちらを優先していた。
困っている人を放っておけないたちなのだろう。
「……あっ、やばい。終わらないかも」
他の人を手伝い、自分の机に戻ってきた莉子が、ぼそっと呟いた。
小さな声だったが、斜め前の席を与えられていた俺にははっきり聞こえた。
「……バカだな」
人のことを優先して。
終わらないかもと言いながら、良い表情をしている莉子。
不器用な彼女の親切心が好ましい。
「藤原。なんか手伝えることある?俺もう終わったし、手伝えるよ」
「えっ……えっと、大丈夫」
「貸して。んー……これ、俺が資料集めてくるから先進めてて」
自分から手を伸ばすのが苦手らしい莉子から、莉子に与えられた課題一覧を奪った。
そして、有無を言わさぬよう、資料室へと足を進めた。
後ろから小さく「ありがとう」と声がして、直接あのときの礼はまだ言えていないけど、少しは恩返しができそうだと安堵する。
資料室の窓に映った自分の顔が笑っていたことに、このときはまだ気づいていなかった。