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様子がおかしい

 

「彩乃!後藤がなんか変なんだけど!」

「おはよう。変って?」

「なんか、なんていうか、優しくて変!」

「莉子って今日のランチは外に行ける?」

「へ?うん。行けるけど」

「じゃあランチの時に話そ。ここで新の話はマズイし」


 月曜日、出社してすぐに受付にいる彩乃に突撃して後藤の様子がおかしい事を訴えると、彩乃の話題の急な方向転換に戸惑った。

 でも、たしかに彩乃の言う通りだ。

 この会社の中に、実は後藤狙いの女性社員が結構いるらしい。


 何よりも大人になったら重要なアドバンテージである、仕事ができる男。

 彩乃の話によると、最年少での管理職就任。

 それと、わかりやすく目を引くイケメンではないけど、凛々しい顔立ちでおしゃれ。

 それが後藤という男。

 誰にでも愛想の良いタイプではないから、女子社員からはチャラチャラしてなくて素敵と言われている。


 そういえば、同期だから皆で飲みに行くだけなのに、後輩の女子達に羨ましがられたりして迷惑した時もあった。


 彩乃情報では、一定数から結構本気で狙われているらしい。

 そういう子って、いわゆるガチ勢だから気を付けないといけないって彩乃が言ってたなぁ。と思い出す。


 彩乃には米山君って彼氏がいるのを知らずに、受付にいる彩乃と会社を出入りする後藤がよく話してるのをみて勘違いした子から、彩乃が嫌がらせされたことがあるって聞いて、女って怖いなって思った。


 関係ないけど、この会社は噂がまわるのが早い。社内恋愛のカップルが誕生するとあっという間に噂になるし……。

 会社の中で話すのは気をつけないと。


 お昼になったらすぐに彩乃と会社の近くの、夜は個室居酒屋で昼は定食を出すお店に行った。

 個室になっているから、ゆっくりご飯が食べられるし話もしやすいので、彩乃や結衣ちゃんとランチするときにたまに利用している。

 特別に美味しい訳ではないけど、安くて早い。


 本日の定食メニューの中からそれぞれ注文したら、まだ料理も来ていないのに彩乃は前のめりで聞いてきた。


「金曜日、あれから何があったの?」

「気が付いたら朝で、――後藤の家で寝てた」

「やったの!?」


 彩乃が目を丸くして大きな声を出した。

 自分の声の大きさに驚いたらしい。

浮かせた腰を落ち着けて、少しばつが悪そうな顔をした。


「ううん。やってないらしい」

「らしい?記憶ないんだ?」

「ところどころはあるけど、なんで後藤の家に行くことになったか覚えてない。……しかも起きたら服着てなかったし」

「それなのにやってないの?新に確認したの?」

「うん。そういえばなんで下着姿だったんだろう。やってないってことに安心しちゃって、そこは聞いてないや」

「やろうとしてたのに莉子が寝ちゃったとか?」

「えぇ?」


 下着姿だったことを考えると、可能性としてはある。

 そんな雰囲気になった記憶は全くないけど。

 でも、散々私のことをバカにしていた後藤が私に欲情すると思えない。


「新が変って言ってたけど、どんなふうに?」

「なんていうか、恋人に接するみたいな……」



 ――――家まで送ってもらった後、すぐにベッドに潜り込んだ。

そして、金曜日の夜のことを思い出そうと頑張った。

 だけど、役所まで行った後のことは何も思い出せなかった。

 しかも、思い出そうと考えていたのにいつの間にか寝ていたらしく、起きたら夕方だった。

 二日酔いは治っていたけど、自分の部屋の散らかり具合を見て、整頓された後藤の部屋を思い出す。


 駅近で少し広めのワンルーム。

 昇給したから学生の時の狭いアパートからちょっと良いアパートに引っ越した私の城だ。

 のそのそと起きて、掃除をして、軽くご飯を食べて、お風呂から出ると後藤からメッセージが届いていた。


 [二日酔い治った?]

 [治った。ご迷惑をお掛けしました]

 [明日、十時にアパートまで迎えに行く。暖かい格好しておいて]


 十時にアパートまで迎えに行く??暖かい格好??

 なんで?とか、何の冗談?とか、困るとか送ってもそれ以上返事が来なかった。


 全く意味がわからない。私に予定があったらどうするつもりだったんだ。

 連絡が取れないし念のため出かけられる準備をしておいたら、十時の五分前に[アパート前に着いた]と連絡が来た。


 アパートの前に黒のSUV。

 前日に見たばかりの車。

 私がアパートの下まで来たことに気づくと、後藤はわざわざ車から降りてきた。


「おはよう」

「おはよう、じゃなくて!なにこれ?なんで?」

「ちゃんと防寒してきたな?まずは乗って」


 しっかり出掛ける準備もしちゃってるし、言われた通りに防寒もしてある。

 助手席のドアを開けて待たれると乗らないわけにいかない……。

 渋々乗り込むと直ぐに「閉めるよ」と言われてドアを閉められた。


「一応ブランケットあるけど、使う?」

「ううん、いらない」


 何このお姫様待遇。

 この人、女の人にはいつもこうなの?

 戸惑うんだけど……。


 それにしても、昨日初めて乗った車に二日連続で乗ることになるとは。


「ねぇ、ほんとになんなの?どこに向かってるの?」

「鎌倉」

「は?鎌倉!?なんで?」

「デートにちょうどいいだろ?車で一時間半位だし」

「でえと?」

「結婚前に一回くらいはデートしておいたほうが良くないか?」


 結婚って、まだ言ってる。

昨日は、酔っ払って迷惑かけたのに何も覚えていない私に意地悪してるかからかっているんじゃないかと考えた。

 もしくは、売り言葉に買い言葉で意地になってるだけで、時間が経てば冷静になって、何もなかったようになるのではないかと思ったのに。


「結婚って、どこまで本気で言ってるの?」

「どこまでもも何も、本気も本気だけど。大真面目だ」


もしかして、私が婚活してるの知ってるから?

ダメ男に引っかかったばかりだって知ってるから?


「……同情してるの?」

「は?何でだよ。結婚したいからするんだ」


 だから、それの意味がわからないんですけど。

 なんで?

 実は後藤も婚活してるとか?

 もしかしてうちの会社って、未だに未婚の人より既婚者の方が出世に有利とかあるのかな。

 だから、結婚を焦ってるの?


「たまご食べられたよな?」

「え?うん。食べられるけど」

「ランチ、玉子焼きの店でどう?」

「なんでもいいよ」


 って、何普通に会話してるんだ私は。

 結婚の話は?

 蒸し返しても多分後藤の真意なんてわからないから、もうスルーしようかな……。

 きっともっと時間が経てば冷静になって、なかった事になるだろう。


 あれだ。

 お互い四十歳までに独身だったら結婚するか!とか、異性の友達とふざけて言うやつ。

 あれだよね、きっと。

そうだ。うん。きっとそう!


「へぇー、玉子焼きがメイン料理なんだ。珍しいね」

「折角だからな。どうせなら少し鎌倉っぽく和な感じが良いかと思って」

「うん。いいね」


 駐車場に車を停めてから小町通りを歩き、玉子焼きのお店に連れて来てくれた。

 鎌倉には今時なおしゃれなお店も多いけど、私は折角ならその街らしい雰囲気を味わいたい。

 だから、こういうお店は嬉しい。

 後藤もそうなのかな。案外好みが合うじゃない。


「この後、寺巡りするか江ノ島行くかどっちが良い?」

「鎌倉って何回か来たことあるけど何気にお寺巡りってちゃんとしたことないかも。昔、紫陽花を見に来たことはあるけど」

「じゃあ寺巡りにするか」


 このとき、自分の中に帰るという選択肢が浮かんでこなかったことに、このときは気づかなかった。


 ご飯を食べた後、江ノ電に乗って何箇所かのお寺を巡った。

 途中で「寒くないか?」とか「足疲れてないか?」と気遣ってくれるし、私が軽く石畳に躓いたときには「ほら、掴まって」と手を出してくれて。

 後藤の優しさに調子が狂う。


 だけど……楽しい。

 お守りを見たいなと思っていると「見るか」と付き合ってくれるし、気になって視線を向けた欄間を同じように見て「細工が凄いな」と同じことを思う。

 他にも興味を示すポイントとか、じっくり見たい場所が似ているのか、ペースが合っていた。

あの建物凄いなと見ていたら「あれが建ったのは――」と説明してくれて、それが押し付けがましくなく、興味深く聞けた。

……控えめに言っても楽しかった。

 後藤とのお寺巡りがこんなに楽しいとは。


「そろそろ休憩するか」と連れてきてくれたのは、お店が江ノ電の線路に面した風情ある古民家の甘味処だった。思いっきり雰囲気を味わえるお店だ。

 線路のすぐ横を通ってお店に入るのも特別感があって良い。


 よくこんなお店知ってるな。

 有名なお店なのかな。

 あ、元カノと来た場所?

 というか、後藤って今は彼女いないんだよね?

 そういえば、そういう話を全然聞いたことないな。

 全然興味なかったからなぁ。


「わぁ!すごい、江ノ電が目の前を通って行く。よくこんなお店知ってるね!?」


 ぱっと後藤の方を振り返って見ると、優しく微笑んでこちらを見ていたからドキッとした。


「ちょっと混んでるから待ちそうだな」

「日曜日だしね。こういうところだと待ってる時間も楽しいよ」

「そうだな。寒いだろ?ほら、ちゃんとストール巻け」


 緩んでいたストールを後藤が巻き直そうとしてくれる。

 甲斐甲斐しく私のストールを巻いている後藤を見上げると、伏せられた睫毛が影を作っている。

 こうしてみると、鼻筋が通ってて整った顔しているなぁと思う。

 自分の好みの顔立ちではなくても、イケメンに分類されるんだろうというのはわかる。


 入社後の研修で初めて会った時は『わ、モテそうな人いる』と意識したし、ちょっと緊張した。

 それも『バカだな』の一言を聞いてからは、私が意識しても無駄だと思って緊張も意識もしなくなったけど。


「なんだこれ?どうなってるんだ?」と私の巻いてるストールと格闘しているところをじっと見上げていたら、目が合った。

 日本人にしては少し色素が薄そうな明るい茶色の瞳。


「ん?なに?」

「……身長何センチ?」


考えていたことを悟られたくなくて、誤魔化してしまった。


「178。よし、できた」

「180とか切りよくさば読まないんだ」


 二センチくらいならとさばを読む男性も多そうなのに。

 結構正直者なのね。と思っていると、お店から上品な奥様方が出てきた。


「あらぁ。マフラーを直してくれるなんて、素敵な旦那様ねっ。二枚目だし羨ましいわぁ!」

「いえ、まだ婚約者です」


 はっ!?婚約者!?


 今、後藤はサラッと「まだ婚約者です」って……!?

 しかも、何その見てる方が照れちゃうような、今が幸せいっぱいですみたいな顔は!?

 えっ?えっ?何でそんな顔してるの?


「あら。これからなのねぇ。お幸せに」

「ありがとうございます」


 私が目を泳がせていると、「うふふ。彼女さん照れちゃって。いいわねぇ若い人は」と何人かで言い合いながら奥様方が去っていった。


「ちょっと、なに?婚約者って!」

「婚約者だろ?」

「なんでよ!?」


 真顔で言うのはやめてほしい。

 なんか、退路を絶たれている気になって怖い。思わず一歩後ずさった。


「結婚する約束してるから。結婚の約束をしている者同士を婚約者って言うだろ?」

「そうだけど。違くない?」

「何が?俺は早く結婚したいんだけど」

「なに言っ――」

「二名でお待ちの後藤様、お待たせしました。お席の準備ができました」

「空いたって。行こう」


 確かに酔った勢いで結婚の約束はした……ような気もしなくもなくもない。ない。ないが、婚約した覚えはないんだけど。

 それにプロポーズだってされてないし……。


 その後、車でみなとみらいへ行って夜景を見て、レストランで晩御飯を食べることになった。


「この後みなとみらいに行こう」と言われた時に、「なんでそんなカップルがいっぱいいそうなロマンチックな所に」と漏らしてしまって、「初デートだから、いかにもな場所でもいいだろ。良い思い出にしたいし。そういうの好きじゃない?」とさらりと言われてしまった。


 確かに、そういうベタなデートに憧れはあるけど。

 学生の時以来、彼氏もいないし、そもそもドライブデートってのが初めてで、楽しいけど。

 今日は事あるごとに勘違いしそうなことを言ってくるので戸惑う。

 後藤は一体何を考えているんだろう。


 みなとみらいに行く前、トイレ休憩がてら対岸からの夜景を見るのに公園に寄った。


「はい。ミルクティー」

「あ、ありがとう。お金……」

「いい。それより、莉子」

「…………」

「って、呼んでいいか?」

「別に。良いけど」


 私がトイレに行ってる間に、後藤が買っておいてくれたのがホットのミルクティーだった。

 後藤は缶コーヒーを手にしている。

 私がコーヒーが駄目なのは、入社当時は同期たちと飲んだりランチして話したことあると思うし、それで覚えていたのかな……と考えていたら、名前を呼ばれてドキッした。

 平静を装っているけど、ドキッ!どころではなかった。

 ドッキリしすぎてガチーンと固まってしまった。

 平静を装おうとしたら、酷くぶっきらぼうで高飛車な言い方になってしまった。


「莉子」

「なに?」

「みなとみらいで晩御飯って言ったけど、明日から仕事だし遅くなってもあれだから、都内に戻ってから食べるか」

「そうだね。甘味食べてそんなに経ってないからまだそこまでお腹空いてないし、それがいいと思う」

「じゃあ行こう、莉子」

「うん」


 ねぇ!なんで急に何回も名前を呼ぶわけ!?

 藤原って呼んでたときはそんなに名前呼ばなかったのに!

 しかもちょっと甘く響かせるのは何!?

 と詰め寄りたいけど、返り討ちに合いそうな気がして平気なフリを続けている。


「莉子。寒くないか?エアコンの温度、ここで調節できるから、好きに変えていいよ」

「大丈夫。快適」

「そう?なら良いけど。我慢するなよ、莉子」

「うん」


 一日中様子のおかしな後藤をチラチラ見たくなってしまうけど、昨日『バックミラーに映ってる』って言われたから、見ることができない。

 動揺していると悟られたくなくて、前と左を流れる景色に集中した。


「莉子」

「なに?」

「疲れてない?」

「大丈夫」

「莉子は今日、楽しかった?」

「……うん。楽しかったよ。お寺巡りも甘味処も良かったし。あ、ランチも美味しかった」

「なら良かった。莉子が好きそうだと思ったけど正解だったんだな。調べた甲斐があった」


 隣でふっと安堵したように後藤が息を吐いた。


「ん?もしかしてリサーチしたの?」

「うん、まぁ」

「え……そうなんだ」


 てっきり、元カノとか女の人と行った場所だから知っていたのかと思っていたのに。

 もしかして、私を楽しませるために調べたってこと?


「何?デートの場所を調べるとかダサかった?喜んでもらいたいから調べるのは当然だろ」


 そんなふうに思うんだ。

 後藤って、付き合ったら彼女のことを大切にするんだろうなと頭に浮かんだ。

 酷い扱いを受けたばかりだったから、少し後藤の彼女たちが羨ましいと思ってしまった。


「……元カノと行った場所だから知ってるのかと思ってた」

「そんな無神経なことはしないし」

「無神経?」

「元カノと行った場所に初デートで行くとか、無神経だろ。田舎で他に行く場所がない訳でもないのに」


 確かに、言われてみたらそうかも。

 テーマパークとか被ってしまう場所もあるけど、敢えてわざわざ元カノと行った場所に狙って初回から行くことはないよね。


「それに、暫くいないから、そういう相手」

「えっ、そうなの!?」


 驚いて後藤の横顔を見ると、呆れたようにちらりと横目で見られた。


「……わかってたけど、莉子って俺に興味無さ過ぎじゃないか?」

「だって後藤ってモテるじゃん」

「それとこれは関係ないだろ」

「あぁそう。モテることは認めるんだ。でも関係はあるでしょ。モテモテならよりどりみどりの選び放題で遊び放題じゃん。困ることなんてないでしょ?」

「人をクズみたいに言うな。俺がいつそんな非道なことをした」


 さっきも私がトイレの間にホットミルクティー買っておいてくれたり、女の子が喜びそうなお店に連れて行ってくれたり、こっちが言う前にトイレ休憩したり寒くないか気を使ってくれるし。

 なんか全てスマートで、てっきり彼女を切らしたことがないタイプかと思っていたのに。


 でも、言われてみたら入社してから一度も本人から恋人の話は聞いたことがない。

 私が知らないだけかと思っていたし、私たちの前では言わなかっただけじゃないんだ。

 設計企画部って忙しそうだし、仕事に打ち込んでて恋人を作る余裕がなかったとか?


「莉子。晩御飯はデートらしくちょっと良い店行くか?それとも気楽な店がいい?」

「気楽な店がいいな。いいお店に行くような服ではないし」

「わかった。何系がいい?」

「ん〜……」


 本当は寒いしラーメンが食べたい。

 しかもガッツリ系のラーメンを食べたいところだけど、なんとなく言い辛いな。

 今までだったら後藤相手なら気を使うこともなく迷わず言えたのに。

 認めたくないけどデートだという意識がそうさせるのだろうか。


「ラーメン?」

「……なんでわかったの?」

「莉子はラーメン好きだから。夜景観て冷えただろうし」

「うん。ラーメンがいいかな」

「了解。がっつり?あっさり?どっちにする?」

「……がっつり」


 ラーメン好きなことまで覚えられているとは。

 ……何でそんなに私のことを知ってるんだろう?

 怖い。



 ――車を停めて繁華街にある人気のラーメン屋さんに行くと、外まで並んでいた。


「莉子」

「ん?」

「手、貸して」

「ん?手?」

「手」

「手?」


 いきなり手と言われてよくわからなかったけど、両手を差し出すと後藤の手が私の手を包み込んだ。


「やっぱり冷えてるな」

「!? ちょ、人が見てるから」

「不倫な訳でもないし、婚約してるんだから構わないだろ」


 そう言われて咄嗟に返す言葉が見つからず、口籠もっている間に、左手に私の手には少し大きい手袋がはめられた。

 右手は後藤に握られたまま、後藤のコートのポケットへとイン。

 あっという間に、はたからみると行列に並んでいる間もいちゃつくカップルのできあがりだった。

 恥ずかしい。


 手をポケットから出したくても、ポケットの中でしっかり握られているから全然離せない。

 本当に何考えてるの!?

 もしかして、うざ絡みしたことへの意趣返し?


「暖かくない?」

「暖かいけど、誰かに見られたら――」

「見られても良いだろ別に」


 もしも、会社の人に見られたら噂になるかもしれないし、後藤狙いの女の子に見られでもしたら……恐ろしい。


 ◇


 ――――という事があったと、ランチを食べながら日曜日の出来事を彩乃に話した。


「ふぅ〜ん。なるほど。新にはそんな一面がねぇ。でもさぁ、莉子は新のこと変って言ってたけど、新はずっと莉子には甘かったよ?」

「はえ?」


 彩乃から信じられない言葉が飛び出してきた。

 思わず口に運ぼうとしていた唐揚げを落としてしまう。

 運良く皿の上に落ちて助かった。


「入社直後の研修中からずっと、莉子には甘かったよ。研修中に上手くできたら褒めるのも、励ますのも、フォローするのも基本的に莉子にだけだし。今だって、他の女性社員には結構冷たいというか素っ気ないじゃん?まぁ新ファンは新のそういうところが良いらしいけど」

「え。でも、バカにされてたのに。バカすぎだから仕方なくじゃなくて?意外と面倒見良いみたいだし。それに、他の人のことは知らないけど彩乃と私で接し方変わらなくない?」

「私は同期で和哉の彼女だから、仲間枠だと思う。それよりも、新が莉子にバカって言ってる時の顔、見たことある?」

「仲間枠ってんなら私も一緒じゃん。――そういえばないかな。いつもボソッと言ってるのが聞こえてくるだけだし」

「機会があれば見たらわかるよ」

「どういう意味?」


 彩乃にははぐらかされてどういう意味か分からないまま、お昼休憩が終わってしまった。



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