ビジネスにおける禁断の技を使って何かできないかを考えてみましょう
今回は少し趣向を変えてビジネスにおける禁断の技の話をしたいと思います。
禁断の技というのは、購買意欲という視点からの「なろう」への攻略となります。敢えて「攻略」という言葉を使っているのは、本来経営というのは長期的に物事をみて経営戦略を練るのですが、どちらかというと瞬間勝負をするような手法がビジネスにあります。
いきなりですが、特に関西圏の方々は「本日閉店」の看板を見たことがありませんか? ああ……と思われた方は今回のエッセイで書かれる事をなんとなく分かったかもしれません。この「本日閉店」の事を知っている人からみれば「また、あの店やってるね」で終わるようなネタになります。毎回同じ店が本日閉店……なんの意味があるのでしょうか? 実はこの手法は脳科学を使っています。
脳科学において、感情を司るのに以下の脳内物質が分泌すると言われています。
・アドレナリン:興奮を司る
・セロトニン :平常を司る
・オキシトシン:安心を司る
・ドーパミン :快楽を司る
ビジネス面で簡単に話をしますと、脳内物質と購買には以下の関係があります。
・購入数:アドレナリン、セロトニンに関係する
・顧客単価:オキシトシン、ドーパミンに関係する
そして、以下の公式が成り立つといわれています。
購入数× 客単価= 収益
つまり、「本日閉店」というキーワードにより、いわゆる「衝動買い」を誘っているというのが結論です。アドレナリンとドーパミンを大量に放出させて、セロトニンを減少させることにより、正しく判断することを妨げる事ができ、「衝動買い」に繋げています。
この脳内物質をもう少し詳しく書きます。
・アドレナリン
怒りのホルモンと呼ばれ、痛みや疲れを感じにくくなったり、普段以上に力が出たりするといわれます。過剰分泌は攻撃的な性格になるのですが、「恋」を司るともいわれています。
・セロトニン
心のバランスを整える作用があるホルモンで、「安心のホルモン」と呼ばれています。セロトニンがきちんと分泌されると、ほかの神経伝達物質が暴走するのを抑制し、平常心を持ち続けることができます。
・オキシトシン
スキンシップなどの人と人との親密なコミュニケーションの際に分泌されるようです。親しい人からタッチやハグをされることで、オキシトシンが分泌されると、温かく幸せな気持ちになるといわれています。
・ドーパミン
なにか嬉しい事や良いことが起きると、脳内で分泌され、快感を得ることができると言います。「快感のホルモン」と呼ばれ、ドーパミンが分泌されると人間は意欲が湧いてきて、もっとうれしいことや良いことを行おうとするそうです。そして「夢中」を司るといいます。
では、これらの脳内物質が小説において、どのような効果があるのかを当て嵌めてみましょう。正当な方法だと、物語の質でドーパミンの出し方を上手くコントロールさせれば、この人の小説なら楽しく読めると思わせる事ができるようになるという話なのですが、マーケティング手法ではまず人の目に止まるということをする必要があります。つまりタイトルと書き出しで、この論理を使う事ができれば、読み手様を掴むことが出来る事になります。
「なろう」においてタイトルが長い作品の流れは、この脳科学に繋がっていると私は思っています。もう一度「本日閉店」の話に戻ります。数多く店が並んでいる状況において、ひと際目に引くのが「本日閉店」の文字になります。この本日閉店という話から、2つの症状が発生します。
1.本日閉店なので閉店セールをしているというお得感(ドーパミンの分泌)
2.本日閉店なので今日を逃すと次がないという焦燥感(アドレナリンの分泌)
ビジネスにおいての「本日開店」は、そもそも冷静に考えれば必要がないものでも、いったん店に入ってみようという気持ちにさせて、上手くいけば衝動買いをしてもらおうというものです。
これを読み替えてみましょう。
「数多くの店」=「多くの新着作品」で溢れている状態
「本日閉店で店に入る」=「タイトルによって思わず手に取ってしまう」
「店の中に入って衝動買いをする」=「少し読んで面白いと思ったらブックマークする」
と考えると、なろうのタイトルが長い理由がわかるような気がしませんか?
ここで重要なのは、最初にドーパミンをしっかりと出させる必要があるということです。「本日閉店」で店の中に入っても、商品が明らかに必要なければ、結局は買ってもらえません。「なろう」でも同じく掴みが重要になるという話であるといえるのではないでしょうか?
まとめると脳内物質の放出の原理を使えば、以下のようにすることで読み手様を掴むことができるかもしれません。(エンディングを決めていない長編を前提にしています)
1.プロローグをしっかり書き切る。
2.プロローグは軽くてもストレスを与える所まで書き切り、読み手のアドレナリンが出るようにする。
3.タイトルにどのような物語でどこにドーパミンポイントがあるかを示す。
4.宣伝になるように、朝、昼、夕方と最初だけ同日に投稿する。※3話で世界が分かるようにする。
5.そしてプロローグが終わったところで、後書きに応援ポイントが欲しいと書く。
6.連載して完結する。
購入数× 客単価= 収益の公式を成り立たせるためには、アドレナリンも必要です。タイトル一つで「ストレスポイント」と「幸福ポイント」を示してしまうのもありです。「追放=(アドレナリンポイント)」「もう遅い=(ドーパミンポイント)」などの組み合わせが読まれやすい理由もその辺りにあるのではないかと思います。
このように脳科学的ルールに基づけば、読み手様に作品を手に取って頂き、ポイントが入るという好循環を作る確率が高くなるのではないかと考えます。重要なのは「手に取られる」確率を上げるということです。これを卑怯な手だと考える人はいないと思います。上記5項目に酷いことは書いていません。本当に酷いというのは元読み手の立場からいうと以下の感じです。
A.面白そうだなと思って手に取るが、書き出しの締まりがなくてストレスがたまったまま。
B.タイトルに思わせぶりな事を書いて、結局タイトル通りの展開の物語でない。
C.毎回のように応援して欲しいと書いて応援したのに最後にエタる。
1-6ができる人と、A-Cをやっている人、どちらがダメな書き手でしょうか? 「本日閉店」の店は毎日見ている人からすると信用できる店だと思いますか? 「本日閉店」のビジネスモデルは、在庫を処分する業者が一手に色々な店から買い取り、たまに「掘り出し物」を提供できている事と、観光地といわれる場所だからできるモデルです。単純に使っては、個人営業をしているのと同じ「なろう」においてはビジネス理論的に使い物になりません。
また、この手のビジネスモデルは最初にすることに効果があります。大手企業のビジネスモデルに同質化という二番煎じで勝てるモデルが存在します。同質化は同じようなものをマネするモデルなので、書籍化作家様などが流行りに乗ってきたら、新規の書き手などはひとたまりもありません。
「この作家なら安心して読める」「この作家の作品好き」はセロトニンによる非常に強力な武器です。それに対して無名の書き手が後発でテンプレ作品をつくって同じようなタイトルを興しても、脳科学的に「アドレナリン」も「ドーパミン」も放出されず、多数の作品に埋もれるだけになります。
閑話休題となりますが、私はタイトルが長い作品を読む場合において、最初に書き手様の作品一覧をみるようにしています。そして、完結作品がない場合は冷静に見直すようにしています。エタる書き手様の作品は私には別のストレスになるので読まない事にしています。
あと、書き出しだけ書いてよかったら長編書きますよっていう書き手様もいますが、私は短編で一度完結した状態にして、よかったら長編書きますよというのが正しい方法だと思っています。「書き出し祭り」の企画以外ではやらない方がよいと思います。
連載漫画でも月刊誌の読み切りが、週刊誌の連載になったりするので、先に短編を書くのは一般的にある手法です。
最後にオキシトシンの話をしていませんでしたが、これは握手会やコンサートに該当します。作者に近いということは、非常に嬉しいことになります。これは「読み手様を蔑ろにしない」ということも示しているのではないでしょうか? 感想を書いたけど反応しない等の方法は脳科学的にはNGであることも頭の片隅に置いて頂ければと思います。
いかがでしたでしょうか? 「なろう」の世界をビジネスとして捉え、「まだまだPT獲得にやれることがある!」と思われた方がいらっしゃれば、書いた甲斐があったかなぁと感じております