修行中のお堅い令嬢ピアニストと、コミュ障ゲーム実況者の【壁越しの恋】
こんにちは!
はじめて小説を投稿します。
ピアニストを目指すAとゲーム実況者のB。
これまでの人生では接点のないふたりが出会ったときに
不思議な魔法が起こります。
ぜひお楽しみください。
ピアニストの卵のAは師匠のもとから独立して部屋を借りる。
コンクールの受賞を目指して練習に励むつもりだった。
引っ越しもひと段落してピアノを弾いていると…おそろしい怪奇現象が。
壁が揺れ、奇妙な唸り声が聞こえる!
Aは部屋を飛び出し師匠のもとに逃げ帰る。
翌日、あらためて部屋へ。
おそるおそる扉を開けると隣の部屋から爆音のゲーム実況が。
Aは呆れ
壁を叩いて注意する。
「あなたうるさいわよ!」
「うるせい! お前だって昨日うるさかったくせに」
昨日の怪奇現象は隣人Bのせいだったのだ。
Bはゲーム実況を稼業としているが、壁が薄く防音が保てないために
隣の部屋に誰かが引っ越してくるたびにこうして追い出していた。
真実を知ったAは唖然としてBに説教する。
「そんなことをしていいと思ってるの?」
そして、生活のために音が出るのは仕方ないので
活動の時間帯を決めてお互いルールを守ろうと提案するが…
Bは面倒がって断る。
「俺は自分のやりたい時に、やりたいようにやるんだ!」
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困り切ったA。
いまさら別の部屋に引っ越しもできないし
コンクールは近づいている。
仕方ない! と割り切り、おかまいなくピアノを弾くことに。
しかしその直後Bが壁をドンドン叩いて妨害。
相手は男性だしトラブルを起こしたくない気持ちから練習を取り止める。
その晩…
深夜にも関わらず爆音のゲーム実況が!
Aは怒り心頭。
「ちょっとどういうつもり!?」
「わたしは練習をやめたのに、あなただけやりたい放題なわけ?」
Bは「うるせえババア!」とだけ答え…
まだ25歳のAはショックでわなわなと震え
小さい声で「ババアじゃないもん」とつぶやくことしかできなかった。
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(楽器OKだから契約したのに…)
翌朝、Aは隣の部屋のベランダに干してあるバンドTシャツを
うらめしげに見上げた。
そのとき、生来勝ち気なAの血がにわかに騒ぎだす。
「目には目を! 歯には歯を!」
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またしてもゲーム実況をはじめたBにAは反撃!
ショパンの名曲、英雄ポロネーズを高らかに弾きあげると
Bの音声はかすみ…
マイク越しに演奏を聞いた視聴者は突然の乱入に驚き
話題はピアノのことでもちきり。
実況を楽しみにしていた者はログアウトしていった。
Bは観念してAに謝罪する。
「俺が悪かった、このままだと失業する」
「この間言っていたみたいに時間帯を決めよう」
そしてBの父親は音楽関係者だったことを明かし
Aの演奏は技術は素晴らしいが「心がない」と指摘する…。
正直むっとしたAだったが
Bに促されて再度、英雄ポロネーズを演奏。
アドバイスに従って抑揚をつけていくと
自分でも聞き惚れるほどの良い演奏に変わっていくのが分かった。
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あの晩以来、ふたりは直接話をすることはなく
日中はAがコンクールの練習、深夜はBのゲーム実況。
不思議な指導の効果があり
英雄ポロネーズを完璧にマスターしたAは
弾くたびにBのことを思い浮かべるようになる。
またBもAの演奏をひそかに聴いていた。
ある夜、ひとつのゲームがエンディングまでいき
区切りとなったことを知り
Aは壁越しに声をかけてねぎらい、お茶に誘う。
しかしBは
お互いに深く立ち入らないからこそ
いい関係が築けると自論を展開して断る。
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カフェでお茶をしていると
ベランダで見かけたバンドTシャツを着ている男性を見かける。
(彼がBなのね!)
Aは男性に話しかけ夕食に誘う。
一緒に食事を楽しみ、いい雰囲気になったところで
隣の部屋のドアがあく音が聞こえる。
人違いに気づいたAは
困惑する男性を慌てて追い出した。
その晩Bは男性を連れ込んでいた恨み言を。
「あいつと付き合えばいい」と一方的に言われたAは
「彼氏でもなんでもないのに口出ししないで」と
心にもないことを言い返してしまう。
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ゲーム実況の収益だけでは生活が苦しく
企画を売り込みにいくも
テレビ局の担当者に「目新しさが足りない」と断られ
Bはガッカリして帰宅する。
そんなある日
師匠CがAのもとにレッスンしに訪れる。
引っ越しから1ヶ月…
さぞかし進歩していることだろう。
Aは英雄ポロネーズを完璧に弾いてCを感心させるが、
もうひとつの課題曲であるピアノ協奏曲になると一転。
譜読みすら怪しいといった調子。
Bのことが気になり、浮わついたAは
英雄ポロネーズばかり練習していたのだ。
大事なコンクール前なのに…
激怒したCはAを激しく叱責。
課題曲の指導をはじめる。
Cの指導を受けるうちに
萎縮したAの演奏は
ふたたびかつてのように固いものと変化していく。
Aがトイレに立つフリをして泣いていると
耐えかねたBが、振動と唸り声でCを脅かして追い出そうとする。
CはAの仕業だと勘違い。
「わたしを馬鹿にして! 気に食わないなら直接言えばいいのに」
「ええ、もう2度とあなたの面倒は見ません」
「自力で頑張ってください」
コンクール前に師匠を失ってしまったA。
「この間の仕返しのつもり!?」
「わたしはおかげで人生台無しよ!」
よかれと思ってしたことが思わぬ結果となり
抗議されたBは、無言を貫くしかなかった。
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独学で迎えたコンクールの日。
師匠のCも客席で見守るなか
Aはピアノ協奏曲を指導通りに堅苦しく弾く。
次は英雄ポロネーズ…。
ふと客席に目をやると、
あのバンドTシャツを着た人物が目に入り
勇気づけられたAは
師匠の指導、そしてBのアドバイスも忘れ
自分自身の気持ちをこめて英雄ポロネーズを弾きあげ
観客は感動し
演奏が終わると拍手喝采を受ける。
ステージを降りたAにCが駆け寄り
破門になったとはいえ
自分を裏切るような演奏だったヒステリックに責める。
「今まで育ててやった恩を忘れたの!?」
「失礼な子」
ふっきれたAは
Cに頭突きをお見舞いし
選考の結果を待たずに逃げるように帰宅。
実は会場では
正式な演奏とはいえないため
”特別賞”に選ばれていたのだが…
Aが知ることはなかった。
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アパートに戻ったAはひとり吹き出し
Bに
「Cを追い出してくれてありがとう」
「おかげで楽しいコンクールになったわ」と話しかける。
喧嘩別れとなり
ふさぎこむ日々を送っていたBは
部屋を飛び出し
はじめて顔をあわせてふたりは
抱きしめあってキスをする。
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その後…
クラシックピアノの道を断念したAは
なんとBのゲーム実況の専属ピアニストに。
ゲームと本格的なピアノ演奏。
意外な組み合わせが好評を得て
チャンネルの登録者は爆増。
企画の売り込みを断った担当者が
専属契約を持ちかけ
ふたりは今や億万長者に。
結婚を機に
壁の薄い安アパートから引っ越し
実況用の防音設備もバッチリ整った大豪邸で
子どもにも恵まれ
週末には恩師であるCを呼んでホームパーティーを開き
末長く幸せに暮らした。
最後まで読んでくださり
ありがとうございました!
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