【短編】浮気相手の女の名前を公開することにいたしました
サバトーリアム王国の貴族が通う学園の掲示板。それは、朝の登校時間にはすでにデカデカと張り出されていた。
その掲示物にみんなが注目し話題になった。
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『来月の初めに臨時総会を開きます。
議題
【ルベグント王子殿下の浮気について】
提起人
【シャルリーラ・カサンドス】
提起了承人
【サバトーリアム国王陛下】
提起内容
○ルベグント王子殿下の現在までのすべての浮気相手の氏名を発表する。対象者は、16歳から22歳までの貴族とする。
○相手については、ルベグント王子殿下につけられた調査員による報告の者を発表する。よって、国王陛下が事実であると認めた者である。
○発表後のその相手への醜聞誹謗中傷などには、王家並びにカサンドス公爵家は一切の責任を持たない。
○その氏名は王城に掲示する。
○浮気と認定される内容。
ルベグント王子殿下からの高額な贈り物。
ルベグント王子殿下との一時間以上の二人きりの密会。
ルベグント王子殿下との口づけまたはそれ以上の行為。
ルベグント王子殿下のパーティーへのエスコート。
ルベグント王子殿下との1パーティーにつき2回以上のダンス。
その他、恋人との逢瀬だと思われるもの全般。
ただし、臨時総会までの間、カサンドス公爵家宛に、家長からの謝罪文及び慰謝料の送金及び贈り物の返品及び本人からの謝罪文が届いた場合は、氏名の発表はしない。慰謝料については各家で決定してもらうが、カサンドス公爵家が不服と思った場合、氏名の発表を行う。
謝罪を受領する旨の手紙を以て、発表有無の返事とする。
謝罪文が混み合い謝罪が受領できない場合でも、王家並びにカサンドス公爵家は責任は一切持たない。
尚、王城にも同様に掲示してある。また、貴族家全家に同様のものが送付されている』
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掲示板の前に群がる生徒たちはそれぞれこれについて話をしている。
提起人の名前:シャルリーラ・カサンドス公爵令嬢はルベグント王子の婚約者であり、政略結婚であることは明白である。だからといって、何をしてもいいわけではない。
ルベグントの女癖の悪さは有名で、とうとうシャルリーラの堪忍袋の緒が切れたのだと皆が判断し、こんな掲示物にも関わらずシャルリーラへの批判の声はない。
「えぐっ!!」
批判ではないが内容への感想はそこここに漏れ出ている。
王城にも掲示してあるなら、女性たちの父親や兄弟たちもこれを読んでいることだろう。さらには、女性たちの婚約者やその家族、これから婚約者になりうるかもしれない男性までもが読んでいるだろう。
ルベグント王子とランチを二人きりでしているくらいなら多くの女子生徒がやっている。細かくは言及されていないので、本人がシャルリーラを傷つけたと考えるかどうか微妙なラインの女子生徒もいるのだ。
それでも、国王陛下に認められた『偽淑女』だと発表され、さらに王城にも張り出すとされているのだ。『略奪狙い女』と揶揄され、嫁ぎ先に困ることになるだろうことは想像に難くない。
調査員はどこまで報告するのだろうか?
口づけを見られているということはかなり深くまで観察されているようだ。
高額な贈り物とはいくらぐらいなのか?
そもそもあの贈り物はいくらなのだ?
いつの間にか二人きりになっていたものはどうするのか?
とにかく急がなければ。『謝罪文を読まれませんでした』では、済まない。
慰謝料とはいくらほどなのだ?
ああ、家族に自分の不貞が露見してしまう。
あぁ、お母様が悲しむ。お父様に叱られる。
女子生徒たちは頭を悩ませることになった。
『えぐい』まさに言い得て妙である。
数名の女子生徒はすでに顔を青くしている。ちょっとした戯れの気持ち、みんなもやっている、王子様との禁断の恋への憧れ、などなどそれぞれ勝手に言い訳をして、婚約者を持つ者への対応として相応しくない行動をしたと自覚しているのだ。
そして、数名の男子生徒は気になっていた女子生徒が青くなっているのを見て、『ブルータス、お前もか…』と言ったかどうかは定かではないが、ガックリと肩を落としていたのは間違いない。
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休み時間になり3年Aクラスに金髪碧眼で輝くような美貌の男子生徒が険しい顔で後ろのドアから入ってきた。
「シャルリーラ! どういうつもりだ!」
怒鳴っているのはルベグントだ。だが、シャルリーラの返事がない。その代わりに男子生徒が一人立ち上がった。
淡い茶色の髪は後ろに1つにくくられていて藍色の瞳が凛々しく輝き、こちらもルベグントに負けない美貌である。
「ルベグント。シャルリーラは臨時総会まで休学するそうだ。身の危険を感じているんだよ」
「ナダルニトス。お前は何か知っているのか?」
ルベグントは不遜な態度でナダルニトスに詰め寄った。ナダルニトスは王子であるルベグントを呼び捨てにできるだけのことはあり、詰め寄られてもビクともしない。
「掲示板の内容しか知らないよ。休学については、今朝、先生がクラスのみんなが心配しないようにとのご配慮で教えてくださったんだ」
クラス中がウンウンとナダルニトスを肯定した。ルベグントはアウェイ感でたじろいた。
「お、俺は何も聞いてないぞ!」
それでも強気を崩さないところは、王族たる所以か。
「婚約者のくせにこんな大事なことも教えてもらえないくらいの信頼度なのだと、反省したらどうだ? お前の態度が今回の混乱を招いたのはあきらかだろう?」
ルベグントはキョロキョロして味方を探したが、味方になってくれるはずの女子生徒はなぜか全員前を向いてしまい味方になってくれそうもなかった。
「チッ!」
ルベグントは舌打ちをして入ってきたドアから出ていった。学園長のところにでも乗り込むつもりかもしれない。
「国王陛下が認めた掲示物である時点で、学園長にも手出しはできないだろうに」
ナダルニトスは小さな声で呟いた。浅はかな行動をするだろうと予想されるルベグントのことを考えて、ナダルニトスは小さなため息をついた。学園の帰りにはカサンドス公爵邸に寄ってみるつもりだ。
昼休みには掲示板に新たな掲示物が増えていた。
『左の掲示物については学園は詳細を把握していない。
気になる者は、親を通して王城に確認するようにと、言付かっている。
学園長印』
やはりルベグントは学園長に聞きに行ったようだ。王城に問い合わせたらその時点で醜聞になるので、ルベグント以外は聞きにも行けないだろう。
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ナダルニトス・マイキルナ。マイキルナ公爵家次男。父マイキルナ公爵は王弟であり、現在宰相を務めている。
そういうわけで、同学年であるルベグントとシャルリーラとは幼い頃から王宮で遊んだ幼馴染だ。カサンドス公爵邸にも何度も遊びに来ているので執事は笑顔で通してくれた。
執事に案内されたサロンにはすでにリンフィーナ・ディヤル侯爵令嬢が来ていた。
「ニト、わざわざ来てくださったのね。ありがとう」
シャルリーラは紫色の瞳を優しく細めてナダルニトスを笑顔で迎え入れた。頭を軽く傾げると輝く銀髪がサラサラと揺れた。ナダルニトスは眩しそうにシャルリーラを見た。最近ますます美しくなっていくシャルリーラにナダルニトスは自然に見えるように笑顔を向けた。
「シャル。落ち込んではなさそうでよかったよ。まさかこのタイミングだとは、思わなかったけどね」
ナダルニトスは、シャルリーラにウィンクした。シャルリーラはクスクスと笑う。それもまた可愛らしい。リンフィーナもカラカラと笑っている。
ナダルニトスは執事に椅子を引かれて、二人と同じテーブルについた。
「ハハハ、フィナも大変だね」
リンフィーナは赤っぽい茶色の髪と橙色の瞳の美人だが凛々しさを兼ね備え、正義感溢れることが見受けられる女子生徒だ。彼女もナダルニトスとシャルリーラのクラスメートで幼馴染だ。
「三人で相談していたことだもの。驚きはしなかったわ。私はいいタイミングだと思うわよ。夏休み前に解決させた方がいいわ」
一月前に最終学年の三年生になったばかりだ。
「なるほど」
「ルベグント様の成績がはっきりなさいましたから」
シャルリーラは残念だと俯いた。リンフィーナはシャルリーラの肩に手を置いて慰めた。
学園のクラスは成績順で決められる。ここに集う3人はAクラスだが、ルベグントは入学時からBクラスのままであった。
シャルリーラはこれについても再三ルベグントに提言してきた。将来の国王として、勉学が疎かでは他国と渡り合えない。だが、ルベグントは国王唯一の子供であるので、その立場に胡座をかき何事も努力することを嫌う傾向にあった。
先程からの会話にもあるように、今回の作戦については、前々から三人で相談していた。シャルリーラの父親カサンドス公爵にも相談している。
三人は今後の予想や対処などを話し合った。
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その頃王宮では、カサンドス公爵邸に向かうと言うルベグントを騎士たちが国王陛下の命により引き止めていた。
その隣では王妃殿下が泣いていた。
夜には、王都に屋敷は持てないが王城勤務のため王城内に部屋を賜わっている貴族たちが、こぞって学園の女子寮の談話室に押しかけ自家の娘が粗相をしていないかの確認に来ていた。
すでに泣き始めた家長もおり、女子寮はしばらくパニック状態だった。
女子寮の談話室は朝方までごった返していた。保護者とご令嬢が額を擦り寄せて謝罪文を書いていたからだ。
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翌日には、カサンドス公爵邸の前に長い馬車の列ができた。金銭での謝罪ができない子爵家や男爵家の家長たちまたはその代理―主に兄たち―とその本人である娘であった。並んでいることが知られれば、娘の醜聞となる。しかし、娘一人が嫁げなくなることよりも、公爵に睨まれる方が余程家にとっては問題である。公爵に謝れるほどの金銭は持ち合わせておらず、平謝りをして誠心誠意の謝辞を伝えるしかないのだ。
馬車の中の娘たちはみな泣いていた。今頃反省しても遅いというものだ。
国王陛下によりカサンドス公爵邸に派遣された文官もその数には呆れていた。
文官によって身分や謝罪文は検閲され、謝罪度合いを選別される。調査員からの報告書―浮気女名簿―に書かれていないような軽いものはカサンドス家の執事に任せられる。
多くの者たちは文官により慰謝料の分割払い手続きをして、執事から謝罪を受けつけたと証明された文を受け取って帰っていった。
三階の窓から馬車の列を眺めていたシャルリーラは大きなため息をついた。隣にいるリンフィーナも呆れている。
「全く気持ちがわかりませんわ……」
シャルリーラは思わず呟く。
ルベグントはシャルリーラは婚約者なので、わざわざ甘い言葉も贈り物もいらぬだろうと、放置していた。だから、シャルリーラはルベグントを魅力的だと感じたこともないし、慕うようなこともなかったし、友好的だと感じたこともなかった。
「私もわからないわ。
あいつって、傲慢だし、馬鹿だし、ワガママだし、俺様だし、軽薄だしっ! 本当に何がいいのかしら?
顔? あんなもん、見慣れたらなんてことないわよね?」
リンフィーナのあまりの評価に、シャルリーラは思わず笑ってしまった。
謝罪文の検閲と浮気女名簿との照合は手早く済むものではなく、文官が整理券を配り、大半の馬車は日を分けて訪れることとなった。
馬車が解散していくのを見て、シャルリーラとリンフィーナも窓から離れた。
リンフィーナはシャルリーラを励ますため、掲示された翌日から学園を休学し、カサンドス家に泊まっている。シャルリーラは一人でいたら気落ちするだけであったので、リンフィーナと休みの分の勉強をしたりゆっくりとお茶をすることで気を紛らわせることができ、とても感謝していた。
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ルベグントはシャルリーラのカサンドス公爵邸に行くことを、王城にいたら反対されるので、学園へ通う途中に馭者を脅して向かわせた。しかし、その馬車の長蛇の列を見て慄き、学園にも行かずに王宮へ戻り、三日ほど学園を休んだ。
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一週間もすると、大量の謝罪文がカサンドス公爵邸に届いた。来訪と同様に浮気女名簿に書かれていないような軽いものは、カサンドス家の執事が謝罪を受け入れる文を送った。
それだけでも大量であった。つまり、ご令嬢たちは罪の意識を持ちながらも、ルベグントとの逢瀬を楽しんだのだ。
浮気女名簿に名前がない時点で大したことではないのだが、本人たちは名前が書かれているか書かれていないかなど、知る由もないし調べようもない。『もしかしたら……』と思ったら、謝罪するしかないのだ。
ある侯爵などは100万コイン(100万円程度)を送金してきた。ご令嬢は1回ランチを楽しんだだけなのに高くついたものだ。このご令嬢の名前は浮気女名簿には記載はなかった。
文官たちは、浮気女名簿にある名前の者たちについて、贈り物返品、国王陛下が決めた慰謝料の最低金額に届いているかなどをチェックしていく。
すべてを一覧表にして、カサンドス公爵と国王陛下に報告していった。
二週間もすると、今度は卒業生や社交界で出会ったらしいご令嬢たちからの謝罪文が届いた。ルベグントの節操のなさは留まることを知らないようだ。
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そんなことも知らないルベグントは、三日も王宮で引きこもっていても、何の対策も思いつかず、何の努力もせず、開き直って学園へ行くことにした。
しかし、今までチヤホヤしていた女子生徒たちは近寄って来ないし、元々傲慢なので友人はいない。昼休みが終わるとともに王宮へ戻り、臨時総会当日まで学園を休んだ。そしてその間、市井へお忍びで出かけ遊びまくったのだった。
その報告も国王陛下と王妃殿下には伝えられ、二人は覚悟を決めてある書類にサインをした。
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そして、臨時総会当日となった。会場には、生徒だけでなく多くの保護者が出席していた。さらには、近年の卒業生や成人したご令嬢など心配事がある面々が保護者同伴で出席していた。その他、国の情勢を見守るべく、高位貴族たちも挙って参列していた。
生徒以外は立ち見であったが文句を言う者は誰もいなかった。
生徒会副会長の司会で始まる。生徒会長と学園長のお言葉を賜る。
「では、本日の議題に入ります。提起人シャルリーラ・カサンドスさん、前へどうぞ」
「はい」
会場の一番前の席に座っていたシャルリーラが立ち上がる。階段を上り壇上に用意された席の後に立った。
「ほ、本日は……」
司会の副会長が突然どもりだした。
「提起了承人として、サバトーリアム国王陛下がおいで、く、くださいました。
起立! 最礼!」
ざわつく間もなく副会長から最礼の命が飛び、生徒はみな急いで立ち上がる。そして、最礼の状態で待った。
壇上の奥の扉が開いた気配がして、壇上のシャルリーラの隣あたりに人が動いた気配がする。
「みな、よい。面を上げよ」
威厳あるバリトンボイスが響き渡り、頭を上げた生徒たちは今までになく姿勢を正していた。
ルベグントと同じ金髪碧眼でルベグントと似た面影の美貌を持つが、ルベグントより迫力があり精悍で凛々しく、そっくりが故に格の違いをまざまざと見せつけられた。
そろそろ40歳に近いはずだが、立ち姿はとても若々しく、太めの首は鍛錬を欠かさぬことを示唆していた。
国王陛下をこんなに間近で見たことなどない生徒たちはそれだけで縮み上がった。副会長は司会ができているだけでも強い精神力だと言えよう。
国王陛下が用意されていた椅子に座り司会の副会長へ合図を送る。
「みなさんもお座りください」
副会長の言葉に生徒みなが従った。
「では、今日の議題は『ルベグント王子殿下の浮気について』です」
「異議あり!」
まだ何も始まっていないうちから手が挙がった。まあ、この状況で挙手できるものなど一人しかいない。
「え? えっと……」
副会長は困って生徒会長に視線を送るが、生徒会長はぷるぷると首を振って判断を副会長に委ねた。副会長は顔を青くしてシャルリーラに助けを求める視線を送った。
シャルリーラは副会長に向かって口角を少しだけ上げて頷いていた。副会長がホッとしたのは明らかだった。そして、文官から渡されたメモを見て発言を促した。
「で、では、ルベグントさんどうぞ」
生徒総会では、男女及び爵位に関わらず生徒には「さん」をつけることになっている。そんなことを覚えていないルベグントは、副会長を睨んだ。立ち上がっても副会長を睨んだまま発言した。
「このような個人的な内容が提起されることがおかしいと思うのだが?」
「提起人どうですか?」
「はい」『ダンッ!』
シャルリーラが答えようとしたと同時に、テーブルを強く叩く音がした。舞台に集中している会場内の者たちは叩いたのは誰だかわかっているので、さらに姿勢を正した。
「その提起を私が了承した。何か文句があるか?」
怒鳴ってはいないのに、低く腹の底に響く声に震え上がる男たち。失神する女たち。
「ち、ちちう…え…」
ルベグントはさすがといえばさすがである。一人立ったまま直に視線を合わせても、脂汗はかいているが、倒れることはなかった。
「ここでは、『国王陛下』だ。弁えろ」
「は、はぃ……」
ルベグントは崩れるように椅子に座った。
国王陛下が立ち上がった。
「よいか。シャルリーラ及びカサンドス公爵家は、今回の事を謝罪をしてきた女性側にはこれ以上の咎は与えぬというので、私も引き下がった。
しかし、相手がルベグントとはいえ、王妃となるべく教育を受けしシャルリーラを侮辱するような行為は、本来なら国家転覆罪に問われても文句は言えぬところであるぞ」
バタバタと倒れる音がしている。予想以上の国王陛下のお言葉に、緊張が振り切れた女性たちが倒れた。男たちは膝から崩れ落ちた。すすり泣く声も聞こえた。
『国家転覆罪』は、一族斬首刑と相場は決まっている。そのような覚悟を持ってルベグントと接した者などいない。
「さらには、シャルリーラに対して、嫌がらせやイジメ、無理強いや強要を行った者もおるな。そちらも私の裁定なら一家火炙りの刑だ。
シャルリーラとカサンドス公爵家に感謝するといい」
火炙り刑は斬首刑より痛みが伴う辛い死刑だ。すすり泣く声が号泣に変わる。すすり泣く男性の声まであった。
シャルリーラが身の危険を感じて登校しなかったのは、イジメがこれ以上エスカレートしたら、怪我する恐れがあると感じたからだ。まあ、シャルリーラは護衛を付けていたので、怪我をするのはシャルリーラの方ではないのだが。
調査員によりそれらの犯人もわかっており、その家は多額の慰謝料を払うことになった。
ある男爵家などは、月々の支払いなどとてもできず、爵位を売り払いそれに当てねばならぬことにもなったほどだ。その家の女子生徒は、残念ながらここにはすでにいない。
国王陛下がドカリと座った。
「あ、あの……では、提起人、お願いします」
司会の副会長が震える声でシャルリーラを促した。
「はい。
議題内容は『ルベグント王子殿下の浮気について』ですわ。今回、多くの方に謝罪いただきました。みなさまの心よりのお言葉と捉え、和解に至っております。
しかしながら、調査員からの報告があった方の中で、お一人だけ和解に至らなかった方がいらっしゃいました」
会場中がざわついた。副会長の元に文官が行きメモが渡された。
「アナスタシア・イコートルさん、お立ちください」
「アナシー!」
ルベグントが感動の場面のように立ち上がって会場をみわたした。
「殿下っ!」
立ち上がったアナスタシアも壇上ではなくルベグントを見ていた。
それと同時に、後ろの観客たちの中から夫婦と思われる二人が舞台の前まで来て、シャルリーラに対して土下座した。
間違いなくイコートル子爵夫妻だ。
「む、娘が、本当に申し訳ありません!」
「お父様! わたくしの愛は真実の愛ですわ! あのような掲示物に屈服などいたしません!」
「だ、だまれっ!」
イコートル子爵はアナスタシアを怒鳴るが、アナスタシアには聞こえていないようだ。
ルベグントとアナスタシアはお互いに走りより、ヒシと抱き合った。二人は二人だけの世界にいた。周りの冷たい視線には気が付かない。
「イコートル子爵様、お二人のお気持ちは毎日お通いいただいて承知しておりますわ。しかしながら、和解の条件は本人からの謝罪です。申し訳ありませんが、和解はできません」
被害者であるシャルリーラが大変残念そうにイコートル子爵夫妻の土下座を見ている。そんなシャルリーラに会場中が心打たれる。自分たちも慈悲を受けたのだと実感する。
「縁を切ります! アナスタシアとは、縁を切ります! その上で、みなさんと同等の慰謝料をお支払いいたします! どうかどうか、領民は守らせてくださいませ」
イコートル子爵は顔を上げて発言し、再び頭を床に擦り付けた。夫人はずっと頭を床に擦り付けたままであった。
シャルリーラは困った顔で国王陛下を見た。国王陛下はシャルリーラに任せると頷いた。
「では、そちらの書類を確認し、サインをしてください。アナスタシアさんの離縁証明書と我が公爵家との慰謝料分割払い証と和解承諾書ですわ」
文官がまるで決まっていたかのように盆に載った書類を持ってイコートル子爵の前に立った。イコートル子爵はシャルリーラを信用しているとのアピールを込めて、内容の確認などせず床で全てにサインをした。
「では、アナスタシアさんは我が校の生徒ではなくなりましたな」
司会席の隣に座っていた学園長が立ち上がり高らかに宣言した。ここは貴族専用の学園であるので当然であった。
「そ、そんな!」
アナスタシアはルベグントに縋るようにルベグントの胸で泣いた。ルベグントは学園長を睨んだ。
「ルベグント」
「はいっ!」
国王陛下の呼びかけにルベグントはアナスタシアを抱く手に力を込めて大きな声で返事をした。
「そなたとシャルリーラの婚約を白紙とし、そなたらの結婚をこの場で認めよう」
アナスタシアはびっくりして顔を上げた。涙などどこにも見当たらなかった。
会場もざわつく。『まさか、謝罪せずに我を通せば、王族になるのか』と訝しんでいる者もいた。
「そこにサインせよ」
またしても文官が盆を持って現れた。笑顔のルベグントは文官に盆を支えさせてサインをし、アナスタシアにペンを渡す。アナスタシアも笑顔であり、ルベグントに習ってサインをした。再び二人は抱き合った。
文官がキチンと確認をして国王陛下に向き直りキチンと礼をして下がった。滞りないということであろう。
「え? これ、今言うのですか?」
舞台の上では、文官にメモを渡された副会長がビクビクしていた。メモを渡した文官は、大きく頷いた。
「あ、ルベグントさんは昨日付けですでに平民となっているので、現在、我が校の生徒ではないそうです」
ルベグントとアナスタシアが固まった。ルベグントは最初の指名の際に氏を言われていないことに気がついていなかった。
「平民の二人に告ぐ。貴族に対する侮辱罪と国家に対する反逆罪で、国外追放とする。連れて行け」
国王陛下の一言で、十人ほどの騎士たちがなだれ込み、二人を連行していった。騎士たちに持ち上げられた二人は何か喚いていたが、よく聞き取れないまま猿轡がされ会場を出ていった。
国王陛下が立ち上がった。
「私の跡継ぎに関しては、後日発表する。以上だ」
文官に急かされて、副会長が命を出した。
「起立! 最礼!」
ザワザワとしていた会場が一気に静まり、生徒たちは急いで立ち上がり、皆が頭を下げた。国王陛下が入ってきたドアから出ていく気配がした。
「な、直れ! では、解散です」
副会長は命を出すとその場で尻もちをついた。緊張の糸が切れたのだ。文官は労うように副会長の肩を叩いた。
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掲示板にもあるように、臨時総会の前から国王陛下もシャルリーラの味方であった。
遡ること、二年前。学園に入学して半年、国王陛下はシャルリーラから相談を受けてすぐに護衛騎士たちにルベグントの行動について報告させた。すると、シャルリーラの言った通りであり、王妃殿下は一週間ほど寝込んだ。
すぐに護衛騎士以外の調査員もルベグントにつけ、ご令嬢たちについても逐一報告がされるようになった。国王陛下はすぐに親を通して、女性たちに注意しようとしたが『まずはルベグントの矯正が先である』と、宰相である王弟マイキルナ公爵と財務大臣のカサンドス公爵から止められた。
各家には注意しないが、ルベグントには何度も何度も注意した。ルベグントは二週間ほどは反省するがすぐに元の木阿弥となっていった。いつしか国王陛下もルベグントに注意しなくなった。特にシャルリーラとのお茶会の後は必ずと言っていいほど外泊をしてきた。そのお相手も報告されている。
一年に渡る矯正教育に成果がないと判断したカサンドス公爵は、『そんな浮気男に嫁がせる必要性はないので』と婚約白紙を求めることにした。
しかし、今度は王家からストップがかかった。『三学年になるまで待ってほしい』と国王陛下と王妃殿下にお願いされては、臣下である公爵家にはこれ以上強くは言えず、それを待つことになった。
国王陛下と王妃殿下は婚約白紙を求められたことで甘くしてきたことをさらに反省し、時間的にも猶予がなかった為、家庭教師を付けて厳しく指導をしていくつもりだった。しかし実際には、家庭教師たちはやる気のないルベグントに匙を投げ、どの家庭教師も一月と持たずに辞めていった。もうルベグントの家庭教師になる者がいなかった。
なので、入学時Bクラスの上位であったルベグントは、三年生になる際はBクラスの中の最下位で、なんとかCクラスにはならずに済んだ程度であった。
国王陛下はルベグントが三年生になるのを待たずして、今回の臨時総会の計画を立てていき、ルベグントが三年Bクラスになった時、決行を決定した。だが、この時点では十年ほど幽閉して再教育の予定であった。
最後のひと押しをさせたのは、この一月のルベグントの態度であった。『ルベグントは何があっても反省しない』そう思わせるには充分だった。
国王陛下と王妃殿下がサインをしたのは離縁証明書であった。
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王妃殿下は、執務室の机に座り引き出しから一枚の報告書を取り出した。それはシャルリーラとのお茶会の後のものであった。
【『あいつは何でもできてしまってつまらんのだ』と女性の胸の中でおっしゃい、長い口づけの後、奥の部屋へと消えました】
「ルベグント……。あなたにとって、シャルリーラはプレッシャーであったのですね。でも、そのプレッシャーを受け止めねば、王にはなれぬのです。あなたはプレッシャーに負けたのです……」
王妃殿下は誰に言うでもなく呟いた。王妃は、ルベグントとシャルリーラが初めて顔を合わせた日のことを思い出していた。ルベグントの一目惚れで決まった婚約だったのだ。
「ルベグント……。貴方はシャルリーラが好きだったのではなくて? 好きだったから、手が出せず、そのはけ口を外に求めたのではなくて?
恋の仕方も教えてあげられなくて、ごめんなさいね」
周りは政略結婚だと思っていたこの婚約には、王子の片思いという裏があったようだ。
王妃は、一人、つぶやきながら涙を流していた。
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翌日、カサンドス公爵家には山程の手紙と山程の贈り物と山程の釣り書が送られてきた。外に並んだ馬車には、執事たちが1台1台にお名前をいただき、贈り物を受け取り、お礼と受領証を渡してお引取りいただいた。
「わかってはいたけど、シャルってモテるのねぇ」
三階の窓から馬車の列を眺めいていたリンフィーナは大きなため息をついた。隣にいるシャルリーラも呆れている。
二人はメイドに促されて、窓から離れてソファーに座った。香りのいい紅茶に落ち着きを戻してもらう。
「ソナリスっ! 随分と上手になったのね。この短い期間にすごいわ!」
シャルリーラはお茶を一口いただくと、大変驚いていた。ずっとカサンドス公爵家に泊まっているリンフィーナも同意していた。
「皆様に親切に教えていただいております」
ソナリスと呼ばれた少女は笑顔で小さく頭を下げた。その笑顔には憂いも心配もなく、心からシャルリーラのお世話をしていた。
ソナリスは浮気女の一人で、シャルリーラにルベグントと別れてほしいと頼んだこともあるのだ。その当時、『シャルリーラでは、ルベグントは心が休まらないのだ』とシャルリーラに言い募った。
ソナリスにそこまでさせても、ルベグントは飽きっぽく、一月後には全く誘われなくなった。
そんなソナリスの男爵家の家族を、カサンドス公爵は上級使用人として引取り、元夫人は公爵夫人の専属侍女に、ソナリスはシャルリーラの専属侍女に、男爵は執事にしたのだ。二週間前から三人はカサンドス公爵邸の庭内の隅にある離れの家で暮らしている。
臨時総会の会場にいなかった元令嬢とは、ソナリスのことである。
例の文書が掲示された日、男爵は領内の行商人とともに王都で仕事をしていたので、王城の掲示物も領地に届いた手紙も知らなかった。
夕方、男爵の泊まる宿にソナリスが駆け込んできて、ソナリスから聞いた話にはびっくりした。しかし、ソナリスの不貞を知るも、お金はない。男爵は類に漏れず、翌日の早朝には公爵邸に赴いた。
ソナリスは半年以上前、ルベグントと肉体関係があり、さらにはルベグントと別れを強請った。なので、しっかりと浮気女名簿に名前があった。
文官より、慰謝料の相場を聞いた男爵は、その場で爵位をカサンドス公爵に買っていただく決意をした。しかし、その金額は男爵家の爵位をカサンドス公爵家に買ってもらっても足りない。無一文で隣国へ逃げるよりは生き延びる可能性が高いとの理由で、ソナリスと夫人を娼館に売り男爵はどこかの下男になるところであったのだ。ソナリスは泣いて母親に詫び、自分も娼館に行く覚悟をしていた。
そこに、カサンドス公爵からの救いの手が差し伸べられた。
元男爵は公爵にお願いして休暇をもらい、臨時総会を見学に行っていた。国王陛下の言葉を受けさらに公爵家への忠誠を誓い、家族にもそれをしっかりと伝えた。三人は無事で三人で暮らせていることに感謝して涙した。
元男爵家の使用人たちは二人だけだったが、カサンドス公爵家の別荘として元男爵邸の管理をさせている。さらに、男爵は、今、執事の勉強と領地管理の勉強をカサンドス公爵の元でしており、それの合格を貰えれば、元男爵領の管理者となることになっている。
ソナリスはカサンドス公爵家に仕えられることに感謝していたし、ここ二週間でシャルリーラの素晴らしさを理解した。この女性を差し置いて自分と浮気したルベグントが信じられなかった。
シャルリーラは決して相手に安らぎを与えない女性ではなかった。いつも温和で使用人には笑顔を向け傲慢なところなど微塵もないのだ。
今回のことでも、カサンドス公爵家が赦しているのはシャルリーラの進言のおかげだと、はっきりと理解した。
シャルリーラとリンフィーナは紅茶を置きお菓子に手を伸ばした。料理長がシャルリーラの労いをお菓子に込めていて、最近は手が込んだお菓子が多い。
紅茶に合うお菓子を摘めば自然と頬がほころぶ。
リンフィーナはまだ開けられていない贈り物に目をやった。
「ふふふ。シャル、我慢をしていたのはこの方たちだけではないわよ。身近なところに潜んでいる熱い視線がどうするのかが楽しみね」
リンフィーナの言葉はシャルリーラには理解できなかった。
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臨時総会で司会をした副会長は、子爵家の3男ながら学力で生徒会入りをしている才子だ。さらに、あの場で最後まで立っていた根性を見学に来ていたとある侯爵に気に入られ、その侯爵家の令嬢が一年生にいたため、婿養子になることが決定した。
また、文官たちにも気に入られ、卒業までまだ一年半もあるにも関わらず政務局への就職が決まった。
副会長の両親は大変喜んでいた。
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最西の国境門から二十キロほど国外へ出た場所で、カバン一つと一泊の宿代だけで捨て置かれたルベグントとアナスタシアがどうなったのかは、誰も知らない。
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各家からもらった慰謝料は街道整備に充てられた。カサンドス公爵領地への街道だけではなく、王都から四方に広がる街道の整備に均等に充てられたことに、これまたカサンドス公爵家の評判が上がった。
数年後、王都から四方20キロの街道はリラ街道と呼ばれ、リラ東街道、リラ北街道などと呼ばれるようになる。
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掲示板事件から二月後、学園はすでに夏休みになっていた。王都のカサンドス公爵家では、シャルリーラがサロンでお茶をしていた。
向かい側には、ナダルニトスが笑顔で座っている。藍色の瞳はまっすぐにシャルリーラを見つめていた。今まで見たことがない熱の籠もった視線にシャルリーラは戸惑っていた。
三日前は、ナダルニトスの兄がそこに座っていた。二週間前は、前王の王弟を祖父とする公爵家のご長男が座り、一週間前はその方の弟君が座っていた。
「僕が四番目って酷いと思わないかい?」
ナダルニトスは微笑ながら拗ねたように呟いた。
「公平に見るようにと、国王陛下には言われていますもの。ニトは幼馴染の分、よく知っているでしょう」
紫の瞳はナダルニトスからの熱い視線に気がついてから、戸惑いで少しだけ潤んでいた。それがさらに紫の瞳を輝かせ、ナダルニトスはシャルリーラの美しさに気が遠くなりそうだった。
だが、そんなことをしている暇はない。
「そっか! じゃあ、僕は一番有利な位置にいるんだね。
よし! やっと口説けるんだもんなっ! がんばろう!」
ナダルニトスの『やっと』という意味が理解できずに、シャルリーラは首を傾げた。
国王陛下は貴族たちに、次期国王選定の方法を発表した。なぜこの方法がなくなってしまったのかは定かではないが、5代前まで採用されていた方法である。
王妃教育は大変であるし、極秘事項もある。女性が自分の生活を全てかけて成す教育なのだ。
なので、何人にも施すわけにはいかない。
そこで、国王に一人目の男の子が生まれ、王子が十歳になったら、次期王妃をまずは決める。王子と年が近く王位継承権を持つ者の中から、次期王妃が次期国王を選ぶ、というものであった。
王位継承権を持つ者なら厳しい教育は受けていることは当然であり、次期国王と指名されてから極秘事項の勉強をすれば良いとの考えだ。
次期王妃が学園卒業の際に、次期国王を指名することになっている。
今回の次期王妃とはもちろんシャルリーラである。今回の王位継承権を持つ者は四人。ナダルニトスもその一人だ。
国王陛下からこの発表がされ、さすがに釣り書は来なくなった。
「僕はもう遠慮しないから覚悟しといてよ。シャル!」
ナダルニトスは妖艶な笑みでシャルリーラを見つめていた。
しかし、シャルリーラはナダルニトスの微笑みの意味はわからない。小さな頃から婚約者のいたシャルリーラには恋とはよくわからないものだった。なので、ナダルニトスの熱い視線も妖艶な笑みも、困惑するだけだった。シャルリーラは四人のことを、誰が次期国王に相応しいかという選定をするつもりだった。
シャルリーラの瞳に変化がないと覚ったナダルニトスは、シャルリーラの隣に座った。
「ニ、ニトっ! 幼馴染とはいえ、流石に近すぎるのではなくって?」
シャルリーラは声をひっくり返して、体を下げて距離を保とうとした。ナダルニトスはまた距離を縮める。シャルリーラに下がる場所がなくなった。ナダルニトスはシャルリーラの手を握った。シャルリーラは不快には思わなかった。
「シャル。君が疎いということはもうわかったからね。もっとわかりやすく言うね。
僕は幼馴染だけじゃ嫌なんだよ。君がずっと好きだったんだ。
シャルは男としての僕をどう思う?」
「だ、だって……ニトをそんな風に考えたことはありませんもの……」
「そっかぁ。
じゃあ、これから、僕のことをいっぱい考えてよ。僕も今まで以上にシャルのことを考えるよ」
紫の瞳と藍色の瞳が見つめ合う。我慢しきれずに頬を染めてうつむいたのはシャルリーラだった。ナダルニトスはシャルリーラの手にキスをした。
シャルリーラはルベグントにはそんなことをされたことがなく、婚約者がいるのに他の人にそんなことを許すシャルリーラではない。なので、シャルリーラにとって何もかもかもが初体験で、一瞬で顔が真っ赤になっていた。
シャルリーラが頬を染めたことに、今日のところは満足するべきだとナダルニトスは考えた。
「ふふふ。シャルったら、可愛いな」
考えと欲求はイコールではなく、ナダルニトスがシャルリーラの頬に右手を当てようとした。
「ナダルニトス様、お嬢様からもう少しお離れくださいませ」
ソナリスは静かなしかし厳しい声を出し、二人の間に手を挟んだ。
「わかったよ、ソナリス。君はすっかりシャルの侍女だね」
「ありがとうございます。最高のお褒めの言葉にございます」
ナダルニトスがシャルリーラの手を離したのを確認して、ソナリスが壁まで下がった。
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翌日から、ナダルニトスはシャルリーラに他の三人の王位継承権を持つ者との逢瀬の約束が無い日には、毎日のように現れた。
『勉強を一緒にしよう』という言い訳なので誰も文句は言わなかった。いや、シャルリーラが拒否をしている様子がないので誰も反対しなかった。
近すぎさえしなければ、ソナリスも見守ってくれたのだ。
夏休みが終わる頃には、帰りの挨拶で手に口づけされることを、シャルリーラも笑顔で受け入れるようになっていた。
ナダルニトスは、シャルリーラに内緒で家庭教師も増やし、気合い充分だ。
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夏休み明けの三年Aクラスでは、気合いの入ったナダルニトスを見たリンフィーナが嬉しそうに笑っていた。
シャルリーラは以前リンフィーナが言った言葉の意味を理解した。
「フィナったらっ! 知っていたなら教えてくださればよかったのに」
シャルリーラはリンフィーナに口を尖らせてスネたふりをした。
「そんなことをしたら、ニトに怒られるわよ。以前の貴女なら『わたくしには婚約者がおります』って断ったでしょう? 本人が何も言わないのにフラレたら可哀想じゃないの」
生真面目なシャルリーラは決してナダルニトスの心に答えなかったであろう。
「そ、そうね……」
シャルリーラ本人も思い当たり過ぎて納得するしかなかった。
「ニト、がんばっているじゃないの」
「そうね」
シャルリーラは困惑顔から聖母の笑顔になった。そんな笑顔にさせているのがナダルニトスであると気がつくのはまだ先の話だ。
シャルリーラとリンフィーナがナダルニトスを見ていることに、ナダルニトスが気がついた。満面の笑みでこちらに急いでやって来る。
シャルリーラは、藍色の熱い思いをぶつけられることに喜びを感じているこの頃であった。
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