『勇者の呼び方』
●勇者の呼び方
「お前!私に睡眠魔法かけやがったな?!」
朝起きて第一声がそれである。
勇者は悪びれず頷くと
「睡眠も状態異常だからな。」
と言った。
つまり私を魔法で状態異常に出来るこいつは、私に睡眠魔法をかけたのだ。
「不眠は健康に良くないからな。」
「勇者に状態異常付与で眠りに落とされたくないんだけど?!」
「じゃあさっさと眠れば良かったんだ。」
「大体全部お前のせいだからな?」
ため息をつきながらとりあえず魔法で着替える。
寝坊するとエールが部屋まで来るからな。
「おい、お前とりあえずここから出るなよ。」
「まあペットとしてその言いつけは守ろう。」
「お前のことペットだって認めたわけじゃないからな?」
「そこでだ。」
「どこだよ。」
「エールたちにペットと聞かれた時に色々面倒だろう。俺の呼び名を再考するべきなのではないだろうか。」
「私の言葉はスルーなのな?」
「勇者様は駄目らしいし」
「お前は魔王に様付けで呼ばれたいのか。」
「……やぶさかではない。」
「聞いたこっちが悪かった。とんだ藪蛇です。」
「でもまあ、お前を魔王様と呼びたくないからな。妥協しよう。」
「ペットを志願するなら魔王様って呼べよ?」
「妥協して……名前っぽい感じで……」
「スルーか。」
「とりあえず、ユーシャでどうだろう。」
「ユーシャ?」
「種族人間で、名前はユーシャ。それっぽくなってきたな!」
「それっぽいって何?!」
私に人間を飼う趣味は無い!!
強くそう思えば顔に出ていたのか、勇者が口を開く。
「それくらい知ってる。」
「知ってるならやめてくれよ……。」
勇者は少し考えて
「番犬……用心棒的な役割を期待したペットということにしよう。最悪、俺の実力を疑った連中には思い知らせてやれば良いし。」
と言った。
確かに変な趣味を持ってると思われるよりはマシだけど……
「あれ?」
何か私、流されてない?
魔「ユーシャって安直すぎないか?」
勇「意外にばれないもんだろう。名前と職業が一致している人物もそこまでいるわけじゃないし。」
魔「そんなもんですかねえー?」
勇(それより個人的にはお前の騙されやすさとかお人好し加減の方が気になって仕方がないんだが)
魔「後は様付けで呼ばれたい欲求に恐怖しか感じない。魔王を倒して屈服させたい系勇者なのか?とんでもなく身に危険しか感じないんだけど。」
勇「とりあえず次は『魔人エール』『悪魔ブール』だ。」
魔「私の味方が増える予感がするっ!」