『魔王ちゃんの部屋』
●魔王ちゃんの部屋
ダッシュで帰ってきて滑り込むように部屋に飛び込んだ。
「任務達成!!」
「ご苦労。」
忘れていたわけじゃないけど部屋に戻って来て早々にこれだよ。
偉そうだな?この勇者。
「ていうか城に置いてくれって言われて、すぐに『はいそうですか』ってなると思うなよ?」
「個人的には先ほども言った通りペット待遇を希望なんだが。」
「さっきから言ってるそのペットってなんなの?自分より年下の女の子のペットになりたい願望でもあるの?」
「見た目の話だろ。153歳のお前は俺より7倍くらい年上じゃないか。」
「なんで私の詳細な年齢を知ってるかなあ?!」
どうして私は見知らぬ人間の勇者に、こんなに情報を握られているんだろう。
あれ?私の個人情報を悪用した奴は始末するってエールもブールも言ってなかったっけ?
「ああ、そう言えば窓ガラス直しておいたぞ。」
「え?!」
一応修復魔法とかも使えたのか、こいつ。
そう思いながら窓ガラスに目をやる。
「ファンシー!!!!」
私の部屋は基本的に魔王って感じなので黒と赤でシックでカッコいい感じに作ってあるのだ。
なのにこいつが直した窓枠」はピンクっぽい金属でハートとかデフォルメされた羽とか星とかの装飾が施されている。
(というか、無駄に凝ってるな?!)
「知らないのか?それはピンクゴールドって言うんだぞ?」
「そういう話じゃないんだよなあ?!」
私は勇者に詰め寄る。
「私は魔王なんだぞ!!部屋のイメージは黒と赤のシックでカッコいい感じ!!統一感大事!!」
勇者は私の言葉に首を傾げる。
「でもお前、こういうの好きだろ?!」
「好きじゃないよ!!?そもそもここまでファンシーな感じなのは初見だよ!!」
(まあ良く見れば確かに何か胸にグッと、キュンとするものがあるけれど……!!)
「お前の好みに合わせて作ったんだが。」
「私が知らない私の好みを今日会った勇者に把握されてたまるか!!」
勇者は少し何かを考えてから
「そう言えば風呂を借りたぞ。」
などと言い出した。
「お前本当に自由だな?!」
「まあ風呂は良いんだが……入浴剤が血の池地獄の湯ってどうなんだ?!」
「勝手に使って文句言わないでくれる?」
「それから角も綺麗になるシャンプーってどうなんだ?」
「魔族的には需要があるんですー!!」
かくいう私も、頭の横から黒い角が左右1本生えている。赤いロングヘア―に映えるように髪磨きにも角磨きにも気を使っているのだ。
「お前の角にツヤがあるのはこのシャンプーのおかげなのか。」
勇者はそう言って私の角に手を伸ばしてくる。私は咄嗟にそれを躱した。
「勝手に触らないでよね!!」
勇者は私の言葉にまた少し何かを考えてから
「よし。明日からお前の角を磨いてやろう。」
と言い放った。
「は?」
「磨いてる時なら角に触ってもいいだろう。」
「どうしてそうなるかな?!嫌だよ!!」
断ると勇者は良い笑顔で剣に手をかけた。
「……お願いします。」
魔「黒と赤のシックでカッコいい感じ!これが魔王ルーム!!」
勇「黒と赤がお前のイメージカラーであることは認めるが、もっと可愛い方が好みだろう?」
魔「魔界にそんなものは無い。お前に断定される筋合いもない。」
勇「……。次回は『初めての夜』だ。」
魔「お前が窓ガラスを割った時点ですでに夜だけどな。」