『生まれ故郷くらいあるよ』『人間界withブール』
●生まれ故郷くらいあるよ
勇者は夢を見ると状態異常を起こすらしい。私に悪夢を見たと報告して何処かに去っていく。前回の展開だと夜に私のとこに来て何か押しつけてくるんだけど。
「魔王様!ユーシャの故郷が分かりました!!」
これはチャンスなのだろうか。
部屋に飛び込んできたブールに私は口をぽかんと開いてしまった。
「え?マジで。」
●人間界withブール
「あいつ、本当に人間だったのか。」
「その感想はよく分かります。」
初めて行く場所にはワープが使えないので私とブールは羽を出して空を飛んで移動する。
城のことはエールに任せた。勇者は何処かに出かけているので今のうちにあいつの情報を集めるのだ。
「私達の情報だけ一方的に握られてるからね!」
「本当に、何なんでしょうねー。」
渇いた笑い声が怖いです。
勇者はブールに迷惑をかけすぎだと思う。お風呂のこととか任せちゃってるし、負担が大きそうだ。
「良いんですよ。僕は魔王様の役にさえ立てているなら。」
「ブール……!!」
個人的にはブールの忠誠心にも謎が残るのだけど今までの信頼と実績があるので気にしない。
以前知り合いに悪魔は契約をすることで相手と自分を縛ると言われた。けれど私とブールの間に契約は無いのだ。
「世界の割れ目だ!」
赤い空が青に変わる場所。地面は大きく割れているけれど羽を持つ私たちには意味をなさない。世界の割れ目を超えると人間界に入れるのだ。
ブールが目眩しの術をかけてくれるのでそのまま飛んで進む。
大分人間界でも人口が少ないところを通っていく。
「あいつの故郷が田舎で助かったかもしれませんね。」
問題なく村の近くにひっそり降りたてる。それくらい勇者の故郷は田舎だった。
「あ!見てみて!!なんか変な店がある!!」
「移動販売ですかね。」
車が店になっているようだ。
「でも魔王様?目的を忘れちゃだめですよ?」
「はい……。」
にっこり笑うブール。笑顔で脅してくるってどうなんですかね。
「このあたりに経験値が増えるスキルを持った若い男性がいませんでしたか?」
え?何その聞き方。勇者のスキルって経験値が増えるなんですか?私知らないんだけど。
「うーん。私は知らないです。」
村人に首を傾げられてしまう。村人と別れてからブールに言う。
「よくスキル知ってるね?悪魔だから?」
「え?魔王様知らないんですか?」
うぐっ。
「悪魔だからとかではなく、あいつ平然と言ってましたよ。魔王様には言ってなかったんですね。」
聞いてないよ!!初耳なんですけど!!
勇者とはある程度仲が良かったと思ってたんだけどなあ?
なんか微妙に傷ついた気がするんですが。
「このあたりに経験値が増えるスキルを持った若い男性がいませんでしたか?」
「あー……。もしかしてクリウスのことか。」
ふぉ?!情報持ってる奴いたー!!
若めの男性数人に声をかけたらしい。
(あいつ……クリウスって名前なのか……?)
「あいつ、親いないんだっけ?」
「だいぶ前になくなってた気がするけど。」
「で?あいつに何か用っすか?あいつ一か月くらい前からいないんですよ。出稼ぎにでも行ったんですかね。」
なんか若者の一人が私にそう言ってきた。
やめろ、膝を曲げて視線を合わせるな。自分の身長を思い知らされて悲しくなるだろ。
「一か月前?」
「ええ。」
一か月前なんて勇者が私のところに飛び込んできた頃じゃないか。
いろいろあったとか、仲間がどうこうとか言ってたからてっきり長く旅をしてからこっちに来たのだと思っていたけれど……。
「どういう用件?言ってくれれば力になれるかもしれないよ?あいつ器用貧乏だからさ。」
「器用貧乏?」
「スキルがスキルだからどんなことでも上達は早いんだけど、決め手がないんだよ。」
確かに経験値増加は攻撃力特化でも防御力特化のスキルでもない。
でも勇者のレベルを見れば、器用貧乏だなんて言えないはずなのに。
(一か月前までは、勇者はそんなに強くなかった?)
「それで、君の名前は?」
「は?」
「だから君のな・ま・え!」
何言ってんだこいつ。
ここで本名答えるのも、役職を答えるのもまずい気がする。
魔王です★なんて言えるわけがない。癪だが勇者に付けられた偽名を名乗るか。
「マオだけど」
答えているとグイっと腕を引かれる。
「ブール?」
ポスっと頭がブールの胸元にあたる。ブールは後ろから私を抱き込むようにして言った。
「パートナーの目の前で何してるの?」
「「「ひぇ」」」
目の前の若者たちが情けない悲鳴を上げる。
なんか体感温度が幾分か低くなった気がするぞ。ブール、氷魔法発動させてないよな?
「僕たちは二人で諸国を回れるほど強いんだ。彼女がただの村人と釣り合うわけがないだろう?」
嘘は言ってないか?言ってないな。
人間じゃないだけで実際それくらい強いだろうし。若者たちは一目散に逃げて行った。
「とりあえずユーシャの情報が少しは得られたな!」
ブールにそう言うとため息をつかれてしまう。何かいけないことをしただろうか。
ああ、そうだ!
「ねえブール。」
「何ですか?」
呆れた顔をしながらもしゃがんでくれるブールは優しいと思う。そんな彼の耳元でささやく。
「さっきのは少しドキッとしたよ!」
褒めたつもりだったのだけどブールはその場にうずくまってしまった。
魔「クリウス……。あいつっぽいような、そうじゃないような……。まあ本人に聞いてみないことには何とも言えないが……クリウス。クリウス、クリウス……ねぇ……。あ!次回は『偽名と本名』『見てまずいってわかる奴』だよ!勇者の出番はまだないよ!!」




