『とれたて野菜』『勇者は逃げ出した!』
●とれたて野菜
直売所には沢山の作物が置かれていた。
「これ、さっきのトマトだな。」
「こっちは麦の実のところでしょうか。」
勇者はそれを一通り購入した。直売所から少し離れた休憩所に入る。
勇者は籠に野菜を入れて清流に突っ込んだ。曰く、冷やした方が美味しいとか。
何やら緑の植物を加工しようとした勇者は静かに首を振った。
「加工しても意味がないな。そのままの味を知って欲しい。」
そう言って野菜をココの前に置いた。
冷やすくらいは良いけど、加熱したりするのはココに素材の味を再現してもらう上では微妙らしい。
ココは微妙な表情をしながらも野菜を口に入れた。
「?!何ですか?口にしぶしぶする感じが……でもえっと……?!」
「加熱したりしてアクを抜くとその渋々は消えるぞ。」
「何か、魔界の味と違って複雑というか……。え?もしかして……これが……味?!」
まあ、人間界の味という概念を知った時の衝撃はめちゃくちゃよく分かる。
個人的にはその野菜、アク抜きした状態で私にも頂戴?
「こちらが軽く茹でて作ったお浸しだ。」
休憩所の調理スペースで作ったらしい料理を出される。
ていうか、勇者、お前料理できるんだな。
お浸しというものをココと一緒に食べてみる。
「?!」
これは……!この前のパンとかパフェとかとは全く違う味。まったり広がる味をベースに鋭く響く味、上に抜けていく香り、下に残る余韻……。
「これはこれで美味しい!!」
「まあ、これはこれで野菜以外に調味料も色々必要なんだかな。」
勇者は私たちを見て少し口元を緩めると清流から野菜を出した。
「こっちももう良いだろう。」
渡されたのはトマトだ。赤くツヤツヤ光る姿はココが育てたものと変わらない。
勇者は目の前でそのままトマトにかじりついた。ああやって食べる物なのか。
私もトマトを手に持って歯を立ててみる。
ジュワッと溢れる果汁が口に広がり手を伝う。
口の上に伝わる鋭い味の他に舌の奥に伝わる気がする染み込むような味がある。
「全然違う……!」
「これが、本当の味……!!」
勇者は私たちの反応に満足そうに頷いた。
●勇者は逃げ出した!
パフェに乗っていた苺も食べてみたり、ココにパンを食べさせてみたり、お土産にパンと冷凍のパン生地を買ってみたりした。
「そう言えば全部お前が払ってるが大丈夫なのか?」
人間界の通貨は持っていないので支払いは実は全部勇者である。尋ねれば勇者は頷いた。
「以前貯めた分があるからな。」
意外とお金持ちらしい。
そんな事を考えていると勇者が顔色を変えた。
(へ?)
次の瞬間手を強く引かれて、走らされる。
ついでとばかりにココも二の腕を掴まれていた。
「な?!どうした?!」
「今は喋るな。」
勇者が向かう方面と逆の方面に目を向ける。
何やら多くの人間が集まっていて、その中心には金色のゆるい髪をなびかせた男がいた。
(王……族……?)
護衛もいるようだし、身なりもかなり良い。
勇者に手を引かれ、その男が視界から消える一瞬前、その男と目が合ったような気がした。
魔「お前が逃げ出すとか、どういうことだ?」
勇「今は喋らず走れ。」
魔「むむ……。次回は『魔王様の誘惑』『世界の半分をどうこうする権利なんかある訳ないよね!』だよ!!」
勇「どういうタイトルなんだ?!」
魔「お前が仲間になってくれたら世界の半分をお前にあげるよ!って話なんじゃないのか。」
勇「その流れ、バッドエンド感しかしないな?」




