事件と問答とドジっ子
桜が学校についても今朝のニュースの話ばかりが聞こえてくる。
クラスに入ってもその話題ばかり出ていた。
フローラルな匂いが漂う女子高生二人が喋る。
「マジでやっば……てかここ最近多くね?」
「多いよね……」
男子高校生がスマホで検索する音が聞こえる。
「うっわ、ちょっとこれ見て」
「うわうわうわ、なにこれひっでぇ」
別の女子高生が男子高校生と話している。
「怪我人がいなくてよかったけど、でもこわくね?」
「うん、今年に入ってから急に多くなったよね」
桜は耳から聞こえてくる今朝のニュースと他の事件が少しだけ気になった、けど教師がクラスに来てから「家からあまり出ないように」とか「警察に連絡しなさい」とかそういうありきたりすぎるアドバイスと長話が続いたからうんざりしてメモ帳に今朝のニュースや彩雲市の今年の事件を調べるようにメモした。
その日の授業が終わって帰宅しようとしたら「ねえ、聞きたいことあるけど」と黒と白の長い髪、黄色の目を持った女子高生、源銀子が話しかけてきた。
「……なんですか?」
「あなた、とても高そうで美しそうな杯を見たことある?」
「……?なんですかその一つも具体的な特徴がない言い方は。もうちょっと特徴とかないんですか?」
「ぐっ、い、言えない事情があるのよ!」
「じゃなんで僕に聞いてきたんですか」
「うっ」
銀子は少し黙って冷や汗を流しながら「そ、そうよねっ!あ、あなたに聞くのが間違いだったわね!あ、あはは、じっじゃこ、これで」と震えながら教室から出ようとしたが、近くにあった机の柱に左足の小指をぶつけてうずくまった。
「うぅ………はっ、い、今見たことを忘れなさい!!」
「はぁ」
「それじゃっ」
ガンッ、と近くにあった机の板に頭をぶつけてしまった。
「つぅ………、い、痛い」と本当に泣きそうな声で言った。
「………あの、ゆっくりと行けばいいと思うよ?」
「………………それもそうね。ありがと」
銀子はそう言ってゆっくりと注意深く頭を上げながら少しずつ歩んで教室の扉まで行った。
「今日のことは………お」
「お?」
「………覚えないでよね!!」
「………はい?」
「歯切れわるっ!?」
と言いながら教室からどこかへ行った。
「………帰りますか」
桜は途中まで桜自身の鞄に教科書を詰めていた作業を終わらせ、そのまま教室から下駄箱に行き上履きと靴を履き替え特に気になる話題もなく自転車を止めているところへ行き自転車のカギを開け、家族が待っている家へ帰る。
なんてことはない、ただの日常。
だったはずなのに。