第1話 妖怪ダンジョン出現(2)
「ゲ・ゲ・ゲゲゲのゲ〜」
幼少の頃見たテレビアニメに【ゲゲゲの鬼太郎】というものがある。
悪い妖怪を退治する鬼太郎とその仲間達の活躍は幼い俺の心に強い感銘を与えた。
同じ勧善懲悪モノでも、【仮面ライダー】や【あんぱんまん】からは別にそこまで強い衝撃は受けなかった。妖怪が出るアニメでも【妖怪ウォッチ】には微塵も興味が持てなかった。
俺が興味を持ったのは民俗学に基づいた多種多様な妖怪達。過去に、人々の生活の中で確かに息づいていたそんな生き物たち。
所詮は伝説。不気味な趣味。そんなことを言われたこともあったし痛いほど自覚はしていたが、俺は妖怪の沼にどっぷりとはまっていった。
●○
「そう言うわけで自分で言うのもなんだが、俺は妖怪に関して結構詳しいんだ。だから召喚できるモンスターも妖怪になっちゃったんじゃないかな?」
「うへー。気色悪っ」
「え?」
「素晴らしい教養ですね。感激しました」
アリアがパチパチと手を叩く。
「そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ、早速妖怪を呼び出すか」
俺は最初の方のページを開く。消費DPは50とあった。ちょうどゴブリンと同じだな。
「【一つ目小僧】」
部屋の中央に小坊主が現れた。
「おおっ!」
俺は思わず声を上げる。
いくら妖怪に精通しているからと言って妖怪を実際に目にしたことはない。俺はとてつもない感動を覚えていた。
現れたのは8歳くらいの小坊主。丸刈りの頭に白衣と腰衣。一休さんみたいな見た目だ。
俺の身長と同じくらいの鉄の棒を右手でついていた。
そしてやはり異様なのはその顔。大きな目玉が顔の真ん中に1つだけ付いている。
漫画やアニメの世界と違って実際に目にするとものすごく不気味だ。
「なんと奇怪な……。サイクロプスのような見た目ですね」
アリアが言った。
サイクロプスはギリシア神話に登場する単眼の巨人のことである。この世界には存在するらしい。
「一つ目小僧のステータスを見てみましょう」
「ステータス?」
「ええ。【鑑定】と言えば対象の情報を解析することができます」
よく言ってる意味は分からなかったが、百聞は一見に如かずだ。
「【鑑定】」
俺の目の前に半透明の板が現れた。
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種族 一つ目小僧
レベル1
体力 85/85
魔力 52/52
筋力 60
知力 43
速力 71
スキル
【棒術LV3】
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「おお、ゲームみたいだな」
「ダンジョンマスターにおいて敵味方の力量を見極める力は必要不可欠です。そのためダンジョンマスターは【鑑定】というスキルを持っているのですよ」
「そりゃ便利でありがたいな」
俺は改めて一つ目小僧のステータスを確認する。
「スキルってのは何だ?」
「簡単に言えば技能ですね。何と書かれていますか?」
「えっと……【棒術LV3】って書いてあるな」
「棒術ですか。珍しいですね」
「珍しい?」
「ええ。人間を始め、武道や武術を使える生物にはそのような戦闘スキルが付与されます。【剣術】や【弓術】、あと【魔術】などはよく見ますが【棒術】と言うのは聞いたことがありませんでした」
「俺の元いた世界ではマイナーだけど【棒術】って武道があったからな。その影響かもしれない」
「そうですか。こちらの世界の人にとっては馴染みがない分戦闘を有利に運べるかもしれません」
「レベル3ってのはどう言う意味だ?」
「その武術の熟練度が示されています。レベル10がマックスではありますが歴史上例はありません。レベル8越えればその道ではトップとも言えます。レベル3は十分戦闘できるレベルですよ」
「それは良かった」
「ちなみに、ステータスはどうなっていますか?」
俺はステータスを順番に読み上げた。
「なるほど、なかなか良いですね。ゴブリンより1.5倍ほどの数値が出ているようです。マコト様、あと何匹か更に一つ目小僧を召喚してはいかがでしょうか」
「そうだな、数は多いに越したことはない……でも、他の妖怪じゃなくていいのか?」
「妖怪が当てはまるのかはわかりませんが、基本的にモンスターは同族同士でが最も連携が取りやすいのです。言葉が通じたとしてもキリンやカバと連携は取りにくいでしょう?」
一理ある話だ。
「分かった。じゃああと4人ほど増やしてみよう」
俺は「【一つ目小僧】」と4回繰り返した。
現れたのは4人の一つ目小僧。服は同じだが、顔立ちはそれぞれ違うし身長も違いがある。
更に持っている武器が全然違っていた。1人は剣。1人槍。1人は鎖鎌。1人は手ぶらだ。ステータスを見てみると【剣術】【槍術】【鎖鎌術】【柔術】とある。
「鎖鎌術に柔術……どちらも聞いたことありませんね」
「俺の元いた世界にある武術だけど……鎖鎌術なんてどマイナーにもほどがあるな」
「しかしどれもレベル3はあります。十分な戦力ですね」
「そうだな。ところでこいつら……」
俺は一つ目小僧達をみる。口を一文字に結んでぼんやりと空を見つめていた。
「全く喋らねーな」
「ええ、ダンジョンモンスターには自我がありません。命令がない限りこのままです」
「そりゃ張り合いがないわけだ」
「ただ、一つだけ自我を持たせる方法があります」
「お、まじで?」
「はい。まじです。それは階層ボスに指名することです」
「何じゃそりゃ」
アリア曰く、ダンジョンは二階層、三階層と下へ下へとステージを伸ばせるらしい。
そしてそれぞれの階層にはダンジョンボスというものを設置でき、ダンジョンボスに指定されたモンスターは自我を持てる事になっているそうだ。
「現在は一階層しかないので一匹だけしかダンジョンボスに指名できませんね」
「一つ目小僧の1人をボスにしてもいいが……どうせなら別の妖怪にしてみるか」
俺はパラパラと辞書をめくる。そしてあるページに目を止めた。
「決まりましたか?」
「ああ。ダンジョンボスは消費DP500の【二口女】で行こうと思う」
豆知識コーナー 【一つ目小僧】
「それにしても一つ目の怪物ってのはおどろおどろしいものですね。サイクロプスと言い、この一つ目小僧と言い……」
「確かにな。俺の世界でも単眼の怪物ってのは色々な国の伝承に残されていた。その背景には【単眼症】という障害が深く関わっていると言われている」
「単眼症?」
「ああ、先天的な重症奇形の一つで生まれつき眼球が一つしかないんだ。正確に言えば脳の障害が原因でそうなっちまう。呼吸器系にも問題が生じるため生き延びることはできない」
「そんな痛ましいこともあるんですね。私、知りませんでした」
「医学が発達していない世界では、さぞかし恐ろしく思うはずだ。単眼症に限らず奇形障害に尾ひれがついて生まれた怪物は少なくないだろう」
「なるほど、理解の範疇を超えた現象を説明するために妖怪が生まれた……。そういう訳なんですね」