第7話 村づくり(2)
ダンジョンに戻ると俺は急いで獣人達の居住区の作成を計画した。
「獣人達はどれくらいの人数いるんだ?」
「副村長よりデータを預かっています。獣人は全部で89名。世帯数は21件です。14軒が全壊、3軒が半壊しました」
「なるほどな。部屋の作りはどうしたら良いと思う?」
「ヤギ村長の様に体が小さい方もいますがタイバスさんの様に体が大きい方もいますなるべくいえば広く作った方が良いかと」
「トイレや風呂は」
「獣人族は風呂というより水浴びを主に行いますから……」
●◯
不眠不休で村の作成を続け、ようやく村が完成した。アリアに時間を確認すると1日半ほど時間が経っていたらしい。
「だいぶ時間をつかっちまったな……。なんだか疲れた」
「そりゃそうですよ。いくらダンジョンマスターとは言え休息は必要です」
「そうか……」
2階層の巨大迷路を作った時はこんなに疲れなかったんだがな……。
「村の方々を呼びに使いを出しますので、マコト様はお休みください」
「んあー……そうするか」
俺は床に寝転がると目を閉じた。そして、いつのまにか泥沼の様な睡魔に沈んでいったのである。
●◯
「よっ! 久しぶりじゃんダンジョンマスター様っ!」
気がつくと俺はクリーム色の空間……神の前に立っていた。神と言っても前回同様ガングロの時代遅れのギャルだが。
「いやー、なんだかんだあーしもこの格好気に入っちゃってね。まあ、ちょっと時代遅れでもよくね。ほら、よく言うじゃん。温故知新って!」
それはちょっと使い方が違う様な。
「まーそんな事は置いといてさ。まこぴょん、やるじゃんアンタ! いきなり転移者をぶっ殺しちゃうなんて!」
自称勇者のケンタ。やはり転移者だったのか。
「スキル【催眠LV7】。ま、転移者の中じゃ小物だけど、なかなか卑劣な奴だったからねー。ほんと助かった」
お凛が催眠にかかっていれば相当苦労しただろうが……運が良かったと言うべきだろう。
「でも、これからの転移者はそうはいかないかもね。もちろんユニークスキルのレベルも違うけど……なにより相手が悪人とも限らねーから」
「………大丈夫ですよ」
「だよね。そのために【倫理観】を弱めてるんだから」
「なるほど……助かります」
「いーや、助からないんだな。これが」
ギャル神は長いつけ爪を器用に使い頭をかいた。
「まこぴょん【鑑定】できるっしょ。一回自分にやってみ」
「……【鑑定】」
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名前 カギヌマ マコト
種族 ダンジョンマスター
レベル1
体力 83/83
魔力 0/0
筋力 65
知力 123
速力 78
スキル
【言語能力LV10】
【鑑定LV4】
【非・倫理観LV1】
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「非・倫理観?」
「そー。あーしが無理くりつけたスキルね。文字通り倫理観を弱めるわけなんだけど、こいつのレベルが上がるとかなりまずいのよ」
「まずいって……どーゆー事すか」
「スキルのレベルマックスが10ってのは知ってるよね。ぶっちゃけ【非・倫理観】に関しては1から9までの差はない。ただ、10になった時がマジで終わり。倫理の欠如した破壊と絶望の使徒としてあの世界を混沌の闇に葬り去る……」
そこまで一息にギャル神が捲し立てたところでコツンと頭を叩いた。
「いっけね、あーしってばうっかりむずい言葉使い過ぎたわ。ま、つまりはあんまりモラルない行動しすぎたら闇落ちするから気をつけとけよって事!」
「まあまあやばくないですか……?」
「やばいよ! きゃははは!」
倫理観が下がった状態でモラルある行動を取る。なかなか難しいが、今の俺にはアリアを始め常識人がたくさんいる。みんなの意見を取り入れればギャル神の言うような最悪の事態は避けれるだろう。
「それからもう一つ。まこぴょんが倒した転移者の持ってた【催眠】のスキル。ダンジョンコアに言えば好きなモンスター……まこぴょんの場合は妖怪だっけ? そいつに付けれるから」
「本当ですか!?」
「ガチガチ。ま、さすがにLV7は無理だけどね。LV5くらいになると思うけど」
「十分です」
ギャル神はニヤリと笑った。
「じゃあ、さっさとダンジョンでっかくして転移者殺しまくってね。【非・倫理観】は育てすぎないように。あんまり時間がないから、急ぎなよ」
「時間?」
転移者の駆逐には時間制限があるのか?
そう疑問に思ったが視界は暗転した。
●◯
「マコト様お目覚めですか。まだ30分ほどしか立ってませんが」
「ああ、どうやら俺の体が疲れてたんじゃなくて神様が呼び出してたみたいだな」
「神様ですか!?」
「相変わらずド派手な格好だったよ」
俺はギャル神との話をアリアに打ち明けた。
「倫理観、時間制限……。どうやら私たちの知らない事情があるようですね」
「みたいだな。ところで、村の連中は来たのか?」
「もう直ぐいらっしゃると思います。とりあえず少数での来訪らしいですよ」
「その方がいいな。細かいすり合わせもしたいし。村の様子も気になるしな」
「鬼の話をしたい」
「結構前にしましたよね? 別の妖怪でよくないですか?」
「何を言う!! 鬼は日本の至る地域で伝説が残る妖怪の中の妖怪だ! その形態は多種多様で話題の種は尽きる事はない!!」
「分かりましたから唾飛ばさないでください!」
「分かればいい。鬼は人間とは違う体色をしているよな」
「確かに、ダンジョンの鬼は赤、青、黄色ですね」
「実は鬼の体色はそれぞれ特別な意味が込められているんだ。鬼の体色はちなみに5つ、赤青黄緑黒だ」
「案外レパートリーは少ないんですね。どんな意味なんです?」
「赤は貪欲を意味している」
「非常に欲が深い事ですね」
「青は瞋恚」
「人を恨んだり憎んだりする事ですね」
「黄色は掉挙・悪作」
「平常心を失っている事、それにより後悔する事ですね」
「緑はは惛沈・睡眠」
「だらだらと怠ける事です」
「そして黒は疑惑を意味する」
「他人や自分を疑う事ですか」
「こんなふうに鬼は悪いイメージが強いんだ。だから元の国では2月8日になると鬼に豆をぶつける」
「狂った風習ですね。石とかが良いでしょ。普通に考えて」