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第7話 村づくり

話し合いの席は全部で4つ。


事件の当事者であるエルフの女——確か名前はエルトリアとか言ったか——と村の代表であるヤギ村長。それから副村長のシカの獣人。そして俺とアリアの席だ。


「まずは謝罪させてください。皆様の村を破壊してしまい、本当に申し訳ありません」

「謝って、済む問題では、ない、めぇ」


温和な性格のヤギ村長だが、意外にも強硬な姿勢でエルトリアを睨みつける。


「はい、今宵は獣人族の神、スティファンガーを称える日。その様な日に我々部外者が土足で祭りに上がり込むだけでも恐れ多い。ましてやこの様な常軌を逸した蛮行。謝罪で済ますつもりはございません」


スティファンガー……ああ、さっきのヤギ村長の長話の中で出てきた獣人の英雄だっけか。


ヤギ村長堅く口を一文字に結んでいたがシカ副村長はやや驚いた顔をしている。反応から察するに獣人族の神の名を記憶しているエルトリアに驚いた様だ。


「何か事情が、ある様だ、めぇ。話を聞かせてもらう、めぇ」


●◯


エルトリアはここから西に200キロメートルほど離れた森に暮らすエルフ族の一員らしい。彼女はエルフ族の中でも狩猟を担う若者(年齢は100歳を超えてるそうだが)であり、いつもの様に獲物を求めて森の中を徘徊していた。


そこで勇者一向に出会ってしまった。どうやら、森の中で遭難していたらしく、エルトリアに助けを求めた。掟により村に招き入れることは不可能なので、エリトリアは手に持っていた3羽の兎を分け与え、森の出口に案内した。


そこで、勇者の歯牙にかかったのである。


「私は一族の財宝を盗み、森を出ました。本来エルフ族は催眠スキルは一切受け付けないはず。今更おめおめ戻っても待っているのは処刑台のみです」


エルトリアは自嘲気味にそう笑う。


「お願いがあるのです。私をこの地で殺してしまっても構いません。街へ行けばエルフの奴隷など高値で売れるでしょう。そのお金で村の再建の足しにされても良いでしょう」


エリトリアは小さく深呼吸した。


「どうか、あの3人は助けてあげられないでしょうか。彼女達は地獄の様な日々を数年に渡って続けてきたのです。もう心が壊れています。せめて、せめて幸福な死を与えてあげたいのです」


そう言って涙ぐんだ。


「同情の、余地のある、話だ、めぇ」

「でもよ、村ひとつぶっ潰されたのも事実だ。金がなけりゃどうにもならんから、申し訳ないけどこのエルトリアさんの言うとおりにしたらどうだ?」

「そ、そんな!」


アリアが話に割り込んできた。目は真っ赤になっており、今にも泣き出しそうだ。


「あんまりでしょう!彼女も被害者なんです。これ以上の辱めを受けるなど、同じ女性として看過できません!」

「でもな、村の人たちはどうなるんだ。住処を破壊されて、泣き寝入りするのか? 現実的にも精神的にも処罰なしってのは無理だろ」


アリアは言葉に詰まった。ダンジョンサポーターにしては情に厚すぎるな。


「どうせ残りの3人もまともな人生は送れないでしょう。魔法使いの子は精神崩壊してるみたいだし。ここは4人まとめて売っ払ってさっさと村の再建を……」

「マコト様……!」


アリアが椅子から立ち上がった。


「目を覚ましてください!!」


俺の顔面にアリアのドロップキックが突き刺さった。


●◯


「よし、ではこうしよう」


鼻血が止まった俺は話を切り出す。居心地が悪そうにするアリアはさておき、床に頭を打ち付けた拍子に思いついた策を提案する。


「うちのダンジョン内に村の移設を行う。恐らくだが数日のうちにはそれなりの居住区が作れるはずだ。エルトリア達はその間村の復興のため力を貸してもらおう。その後の処分は村側に任せるが、少なくとも命の保証はダンジョンにより保障させてもらう」


俺達は村人達がダンジョン内を出入りすることで安定したDPを得られる。

村人達は直ぐに居住区の再建が可能で、さらにダンジョンモンスターが村の警備の役割を担う。

エルトリア達はとりあえずの命の保証を得られる。


どの立場からもメリットのある提案だ。


「我々としても、ありがたい提案です、めぇ」

「私からも願ったり叶ったりの条件です」


ヤギ村長とエルトリアが同意し、話し合いは終わった。


●◯


話し合いの席をたち、外に出る。獣人達は瓦礫の山に登り、まだ使えそうな生活用品やらを取り出していた。


改めて見るとものすごい火力だ。大体40メートルほどか。地面ごとえぐり返されている。


「【滅火の叫び】炎魔法の中でも相当な破壊力を誇る魔法です。それを使いこなせるとなると、あの少女かなりの魔法使いですね」

「だろうな……。あんな魔法そこらのガキがホイホイ使えてたまるか」

「自殺しようとした聖職者はスリナミ教会の服を着てました。大賢者スリナミ・グリファニーの子孫でしょうね。女剣士の方の鎧はランドール王国親衛隊の紋章が入っています。かなりの手練れと見て良いでしょう」

「はは、あの自称勇者、なかなか見る目があるみたいだな」

「いや、弱い仲間は死んでいったのでは?」

「……あるな」


ちらりと後ろを振り返る。副村長に案内されるエルトリアの背中を数々の獣人が射殺す様なめで睨み付けていた。事情を知らないとは言え、なかなか軋轢は深そうだ。


「ん……?」


そんな中、ユーリンは穏やかで、そして少し嬉しそうにエルトリアの背中を見つめていた。

「いよいよ、エルフの解説だな」

「やけに気合が入っていますね」

「俺の世界ではエルフはファンタジー世界を代表する種族だ」

「へぇ、確かに美形で長寿。さらに高度な魔法使いですから……ある意味人間にとっては憧れの存在とも言えますね」

「俺のもといた世界でもほとんど同じ認識だな」

「ですが、長寿な分保守的で頑固。かなり排他的で選民思想が根深く残っています」

「へぇ、やっぱり俺の世界の認識と似ているが……元の世界の元ネタとはかけ離れているな」

「元ネタ?」

「もとはヨーロッパに伝わる神だ」

「か、神様なんですか!?」

「ああ、主に自然や豊かさを司っている。とは言え、ヨーロッパでもいろいろな伝説に分かれている。個人的には妖精に近い概念だな。ちなみに耳は別に尖っていない」

「ならばどうして現在のイメージになったのですか?」

「諸説あるが『指輪物語』というファンタジー小説がそのイメージを生み出したと言われている。発行部数は1億5000万冊。世界で最も有名な小説の一つだ」

「その小説がエルフ像の構成に影響したわけですね。優れた文学の力とは恐ろしいものです」

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