第6話 勇者一行(2)
「へえ、まあまあおいしいじゃん。雑種獣人の料理だから生ものばっかり出てくるんじゃないかなって思ったけど……全然悪くないな!」
ケンタと名乗った自称勇者は先ほどまで俺が座ってた場所に腰を下ろし、獣人に持ってこさせた料理を咀嚼していた。くちゃくちゃと音を立てて食べるので正直不快だ。
「ま、いつもサーリンが作ってくれる料理の方がおいしいけどな」
勇者はそう言いながら隣の女性に手を回す。神官のような服装をした女性は赤面した。
「き、貴様……!!」
タイバスは全壊した村を呆然と見つめた後、ぎこちない動作で勇者の方に振り返った。その表情は怒りに染まっており、思わず俺が萎縮してしまったほどだ。
「先に喧嘩をふっかけてきたのはお前達の方だろう。被害者面するな下等種族が」
勇者一行のエルフがつばを吐く。
「ゆ……許さん……」
タイバスは牙をむきだし、威嚇した。いつも楽しげなその瞳は真っ赤に燃えている。
「タイバス、落ち着くんだめぇ」
「村長……」
タイバスをたしなめたのはヤギ村長だった。タイバスと同様、勇者一行を噛み殺さんと威嚇する者、粉砕した村を呆然と見つめる者、パニックでひっくり返る者。そんな中小柄なヤギの獣人はまったく臆することなく勇者に話しかけた。
「勇者様、村の者達の、非礼を、許してほしいめぇ。どうぞ、今夜は、ゆっくりしていって欲しいめぇ」
「うむ、苦しゅうない」
さすが、と言うべきか。ここで自称勇者に襲いかかろう者なら村人にまでも被害が行きかねない。組織の長として正しい行動だ。
「くっ……」
タイバスは苦虫をかみつぶしたような表情で引き下がる。
「ん? お前人間か?」
不意に勇者が俺の方を向いてそう聞いてきた。
「あ、はい。人間っす」
「あ、そう」
勇者は興味なさげに何度か頷いた後食事に戻った。
「君、日本人?」
「………」
俺の質問に勇者は食事の手を止めた。
「お前、異世界人か?」
「ああ、まあ……」
「日本人? 何年の時代から来た?」
「日本人ですよ。時代は……2013年」
「じゃあ大分前だな。俺は2048年から来た」
「そんなに未来から!?」
「なんだ、何も知らないのか?」
勇者は小馬鹿にするように笑った。
「異世界人ってのは召喚される年代はバラバラだ。さすがに1000年前みたいなのはいないがな。俺が前会った異世界人は1915年の出身とか言ってた」
20世紀初頭……。第一次世界大戦頃か。
「そんなにもゴロゴロ異世界人っている者なんです?」
「いや、人口比率としては少ないさ。だが、異世界人ってのはユニークスキルを必ず持ってる。その力を使って巨大国家の王だったり凶悪犯罪集団のボスだったりをやってるわけだ」
数は少ないがその名前を轟かせてるってことか。ギャル神曰く、俺がこの世界に召喚された理由は「異世界人の抹殺」らしい。実行するかどうかはおいといて、他の異世界人を探すのは案外楽にすみそうだ。
念のため、こいつの知ってる情報をもう少し探ってみるか。
と、俺がそう思ったとき。
「おじーちゃん!!!!!」
ユーリンが走ってきた。髪もびしょびしょのままである。先ほどの爆音を聞きつけて慌てて走ってきたのだろう。その後ろにアリアとアンゴリーが続く。
「何!? どうなってるの!? む、村が……」
ユーリンは勇者達の方を睨んだ。
「これ……あんた達の仕業?」
「ああ、そうだ」
「殺す!」
ユーリンはその場で高くジャンプすると勇者めがけて飛びかかった。
「ぎゃっ!」
しかし、ユーリンの小さな体は女戦士の鉄槌で地面にたたきつけられる。
「くくっ、威勢の良い兎さんだ。かわいい顔が台無しだぞ」
「黙れっ」
「仲間にしてやろう」
女戦士がユーリンの首根っこをつかみ、勇者の前へと引きずっていく。
「やめろ!」
アンゴリーがユーリンを助けようと動くが、タイバスに阻まれる。
「それでも男か貴様!!」
「俺たちには勝てん!!」
テナガザルとゾウの獣人に力尽くでアンゴリーは取り押さえられた。
「おい、俺の目を見ろ」
「放せ!!」
もがくユーリンは無理矢理髪の毛を捕まれ、勇者と目を合わせられる。
「【魅了】」
勇者の瞳が赤く光った。
○●
「ゆーしゃ様ぁ、ユーリンも冒険について行っていいですかぁ」
「ああ。もちろんだ。その代わり強くなれよ?」
「はいっ! ゆーしゃ様のためなら絶対になってみせます!」
勇者の膝の上に乗ったユーリンは勇者の顔を見上げつつそう言った。
「どうなってるんだこれ」
俺がそっと隣にいるアリア尋ねる。
「催眠か洗脳の類いとは思います。かわいそうに……。鑑定してみてはいかがでしょうか」
「その手があったか」
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種族 人間
レベル4
体力 98/99
魔力 91/91
筋力 83
知力 118
速力 43
スキル
【魅了LV7】
「魅了だってよ。スキル」
「催眠系スキルの一つです。異星の生物を自分に惚れさせる効果があります。レベル7ともなると死ねと言われれば喜んで死ぬでしょうね」
「うわぁ……恐ろしいやらうらやましいやら」
「余計なこと言わない方が良いですよ」
「そうだな」
ユーリンは頬を紅葉させながら、勇者に料理を食べさせている。お供の4人の射貫くような目線を者ともしていないようだ。もっとも、この4人も魅了された口なのだろうが。
「おお、なんじゃなんじゃ。村が消えとると思うたら、おかしなことになっとるのぉ」
「あ、お凜」
一緒に温泉に行っていたはずのお凜が現れた。髪を下ろした姿は新鮮で、いつも以上に艶っぽい。
「ほぉ……」
勇者の目がまがまがしく光った。これはまずいかもしれないな。
【猫娘】
「猫娘について紹介したいと思う」
「初めて聞く妖怪ですね。また【ゲゲゲの鬼太郎】に登場するキャラクターですか?」
「その通り。原作では主人公の仲間の一人ってだけの妖怪だが、近年のアニメ作品では立派なヒロインだ。普段は普通の女の子だが、怒ると猫のような顔になり、猫のような驚異的な身体能力を発揮する」
「戦うヒロインですか。悪くないですね。昔から存在する妖怪なんですか?」
「いいや、猫娘はほとんどゲゲゲの鬼太郎の作者である水木先生の創作キャラだ。『猫娘』という伝承はあることにはあるが、まったく違う妖怪だしな」
「どんな妖怪なんです?」
「夜、男の床に忍び込んで全身をなめ回すって妖怪だ。その舌が猫のようにざらざらしてたから猫娘とも呼ばれるが、実際は『嘗め女』って言う名称の方が通説だ」
「なるほど。確かに不気味な妖怪ですが、なんだか人間にもできそうな悪事ですよね?」
「良い質問だ。この伝説は妖怪の伝説ではなく奇人変人の紹介であると言われている。昔は変わった趣味や趣向を持つ人間も妖怪と認識されてたんだ」
「奇癖も妖怪のうちと。……あんまり掘り下げないようにしましょうか」




