第55話 騒がしい麻央さん
お待たせしました!
ちょっと、シンプル疲れ?夏バテ?で、書くのが遅くなりまして……ありますよね!そーいうの!
少し短めですが、よろしくお願いします!
「カフェはひとつ隣の駅よ! ……反対側に」
「なるほど」
帰る時間が遅くなる件について、まだ悩んでいる所だ。
麻央さんも時間を気にして、いつもの強引さが失われている。
「らしくないですね?」
「え?」
「ほら、いつもの麻央さんなら……『行くわよ!』とか言って強引に行くのに」
「なっ!? そそ、そんな事ないでしょ!」
そんな事しか無いのだが、否定する麻央さん。ちょっと怒ったのか、プイッと改札口へと歩き出した。
「何してるの近江君! 行くわよ!」
「はいはい」
金曜日の放課後だ。高校生ともなれば、少しくらい帰るのが遅くなっても良いだろう。
カフェにデータ集めに行くという麻央さんの手伝い。それを出来るかは分からないが、とりあえずついて行けばそれで良いかという感じで麻央さんの後を追った。
「ほら、すぐ電車来るから急いで!」
隣の駅にあったカフェは、外装は普通だが内装は大人オシャレな感じ……その上、店員さんもオシャレな感じである。総合してオシャレな店だった。
下手にオシャレ過ぎると、俺や麻央さんみたいな人間は緊張してしまうのが悲しい運命。
アールグレイ、ダージリン、アッサム……二人席に案内されてメニューを見て、そんな注文を出来る訳もなく二人してカフェオレとケーキを注文する事になった。
「では、お待ち下さい」
長い髪を後ろで結んだスラッとした女の店員さんが、注文を取って戻っていった。
「……ふぅ。なるほどね」
「参考になります?」
聞いてみたが、その表情を見るに微妙そうだ。たしかに、俺や麻央さんみたいな学生が入るタイプの店ではない。千恵さんみたいな人なら良いのかもしれないけれど……。
周りを見た感じ、やはり客層も大人の年配の人がやや多いくらいだ。
「まぁまぁ、ね」
「でも、落ち着いてて良い雰囲気ではありますよね」
飾ってある写真や絵や置物も、良い雰囲気を醸し出している。木目調のテーブルもとても良い。
「千恵さんって、普段は大学生なんですよね?」
「そうよ! それに、家に居ると家事をやってくれてるし」
「どこでこういうお店を知るんでしょうね? やっぱり大学の友達から仕入れたり?」
大学生は忙しいイメージがある。その上、家では麻央さんの世話となるとそんなに遊んでるイメージは無かった。
だが、こういうお店を知っているという事は華の女子大生を捨ててはいないという事だろうか。
「うーん……知らない! あんまり自分の事を話したりしないのよね」
「そうなんですか」
「そうよ、いつも私にばかり変な質問して……って今のは無し! 別に普通の会話ばっかりよ」
変な質問……とは。
凄く気になるが、ここは流しておこう。麻央さんの弱い部分を突くと、否定する声がどんどん大きくなる傾向にあるからな。
(店の雰囲気を壊さない為にも、ここは頭の中にメモだけしておいて明日にでも千恵さんに聞こうかね)
「あ、明日麻央さんの家にお邪魔するんでお願いしますね」
「えっ!? な、なんで!」
「しぃーっ、ですよ。言ったでしょ? テスト勉強の為です」
テスト勉強と聞いて、どういう表情を浮かべるかと思ったが……意外と嫌そうでは無かった。
学校を出る前に、勉強へのモチベーションを上げておいたのが功を奏したのかもしれない。
「そ、そう……でも急に言われても準備ってものがあるんだけど?」
「あ、それなら大丈夫ですよ! 千恵さんが大丈夫って言ってたんで」
「そうなん……って、なんでッ!?」
麻央さんに自分のスマホの送信履歴を確認して貰い、心当たりの無い電話の履歴で全てを繋げて貰う。
テスト勉強への強引な誘導とか、千恵さんと繋がっていた事とかを。
「ハッ……さては千恵さんの差し金ね! いつから手下になってしまったのかしら!?」
「いや、悪い話という訳でもないし……これも、麻央さんの為ですよ?」
「そんなサプライズはのーせんきゅーよ!!」
そんな話をしている内に、注文を取ってくれた店員さんがカフェオレとケーキを運んで来てくれた。
麻央さんはチーズケーキで、俺はモンブランだ。
舌が肥えている訳でも、コメントが上手い訳でも無い俺は「美味しい」の一言で纏めてしまうのだが、そこは流石の麻央さん。魔界料理がなんたら、魔界ならなんたら……と味の感想を饒舌に語っている。
「良いデータは集まりました?」
「え? データ?」
「ん?」
「あ、あ、も、もちろんよ! その為に来たんだから! ちゃんと頭に入っているに決まっているでしょ、当然じゃない!」
とても怪しい麻央さん。こういう時、嘘というのもだんだんと分かって来たが、面白いからまだ信じているフリをしておく。
下手に突っついて嘘が上手くなられたら、困るのは俺になりそうだし。
「ですよね。てか、この喫茶店は小説に登場するんですか?」
「そうね……この机も魔界に生息するグラントの木で作っているみたいだし、候補としてはアリかもしれないわね……まぁ、懐かしくていろいろと思い出しちゃうってのもあるけど、ね」
遠い目を窓の外に向けている。この喫茶店をお気に入り登録でもしている最中なのかもしれないから、ソッとしておこう。
上の方は既に薄暗くなっていて、そんな夕暮れのオレンジ色が広がる空を見て……麻央さんは満足そうだ。
「何か……アニメとかでよく居る、連れ出して欲しそうな囚われの姫みたいな顔してますよ?」
「姫? ふふっ……軟弱な姫と間違えるなんて、魔王に不敬じゃない? 近江君」
目線だけを俺に向けて、不適に笑った。結んでない髪が流れる姿や、切れ長の瞳……つくづく絵に『は』なる。
「そりゃ、ごめんね。……っと、そろそろ出ようか」
「うん、そうね。そろそろ帰りましょうか」
お会計をして、お店を出る。出る間際に、女の店員さんが余計な一言を言ったせいで麻央さんの顔が朱に染まってしまった。
本人は夕日のせいにしているのだが、ただ単に耐性が無いだけである。
「ま、まったくどこをどう見れば! この闇を統べる私と近江君が、かか……かか、か」
「カップル」
「そう! それに見えると言うのかしらね! まったく、これだから魔力を感じられない一般人には困ってしまうのよね。ね!」
流暢によく喋る麻央さんの声を聞き流しながら、駅に向かい電車に乗る改札で別れた。
――また明日。と、反対ホームにいる麻央さんからジェスチャーと口パクが送られて来た。
それを返すタイミングで、麻央さんの乗る電車が到着。乗り込んでも窓ガラスから顔を覗かせてくる為に、これを無視する訳にもいかず……発車ベルが鳴るまで手を振り続けた。
(最後まで騒がしい麻央さんだな)
明日の勉強が上手くいくか微妙に不安になりながら、俺も到着した電車に乗って、家へと帰った。
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