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第54話 悪魔の囁き……というか脅し


お待たせしました!

よろしくお願いします!(´ω`)



 


「ちょっと……ひとつ良い? こんな時代というかご時世にさ、公園で小さい女の子と居るってなんなの? あまり外聞の悪い事はしないで欲しいんだけど?」


 帰宅した俺に待っていたのは、そんな妹様からのお叱りだった。

 先程声を掛けられた女の子以外にも……それも身内に見られていたというのは、ちょっと痛い。


「いや、あの子はライバルで……」

「キモッ……。捕まるのだけはやめてよね……あと、カフェオレ作って持ってきて」

「あ、はい」


 晩飯前だが、急いでカフェオレを作って妹様へ持っていく。

 兄妹というのは、そういうもの――千恵さんと麻央さんの従姉妹とて、上の方がお世話をするという例に(かんが)みても……『知らないだろうけど、他の兄妹もそれが基本だから』という妹様の言い分は、もしかすると間違っていないのかもしれない。


「兄貴の明日は?」

「え? 家にいるけど?」

「ふーん」


 中学生の頃は、無意味な程に外へ出掛けていた。

 夕陽を背景に歩く為、近所の公園の木に登る為、架空の敵と戦う為に……。

 それを卒業したという事で、妹様には悪いけど今後も基本的に家に居ることになる。誰かとな遊ぶ予定でも入れない限りは。


「コップくらいは自分で片付けてね?」

「それくらいするっての」


 妹様の部屋から出て、自分の部屋へと戻る。

 晩御飯前に、日課となっている麻央さんへのメールをしなければならない。

 話す事は前よりも薄くなってきた気がしない訳ではないが、それでもやり取りは続けている。

 四月、五月となり、麻央さんについても少しは知れたとは思うが、まだまだその全貌は明らかになってない。

 中二病と一括りに出来ない訳ではないが……悲しい事に、アニメや漫画の様な周りを巻き込む程の影響力も無ければ、人望も無いに等しい。

 唯一動かせるのが、これまた悲しい事に俺だけしか居ない。

 だから、中二病というよりは――『痛い子』。今はまだ、これがしっくりとくるだろうか。


「さて、ゲームの続きでもしますか」



 ◇◇◇



 五月も終わり六月に入ったものの、学校行事は流れる様に過ぎていった。もう七月も目の前に迫っている。

 高校総体や生徒会選挙も終わり、七月の体育祭に向けての準備が始まった。

 だが、運動部でな無く、生徒会を敵対視していたり、そもそも協調性に欠けてたりする要素が集まってしまった結果――俺と麻央さんにとっては、ただの梅雨時でしかない六月だった。

 クラスでの立ち位置やクラスでのグループ、クラス内の雰囲気が定まって来た中……変わらずに麻央さんは、麻央さんをしていた。


「ふふっ……梅雨が明けるわね」

「天気予報では今年の梅雨って、七月の頭まで続くらしいですよ」


 六月の席替えでまたしても窓辺になった俺の背後に、今日も麻央さんは立っている。

 しかも今日は金曜日で雨、アンニュイな気分に浸るにはうってつけの日だろう。


「七月に体育祭あるじゃないですか?」

「そうね……まったくもって時間の無駄と言えるかしら。愚かな人間が競い合う姿は見ていて愉快だけどね」

「で、夏休みになる訳ですよ」


 そう考えると一学期も終わりが見えている。早いような遅いような……やはり、一年生は次の二年生への準備期間と言えるのかもしれない。

 二年生で楽しい学園生活を送る為にも、この一年間は知り合いを増やす為の期間。今のところ……それが出来ているかは微妙だけど。


「夏休み、ね。……よ、予定立てなきゃね! どうする近江君!?」

「いや、違います。その前に……期末テストがあるって話です!!」

「くっ……忌まわしき~忌まわしき~! 嫌な話はノーセンキューよ!」


 テンションを上げて下げて申し訳ないが、そうも言ってられない。

 夏休みに補習で呼び出されない為にも、麻央さんには越えなければならない壁となる。

 前回の中間も含めた範囲となる訳で、当然ハードルは上がる。中間テストの返って来た麻央さんの点数は、予想していた通りに残念な結果だった。

 それでも前よりはマシという事で喜んでいたが、それで満足していたら成長は望めない。


「ですが、予定を立てても補習で計画は崩れますよ?」

「うぬぬ……やっぱり勉強しなきゃ……ダメ?」


 座っている俺に対して背中を合わせて立つ麻央さん……その背中で物理的な圧を掛けてくる。

 可愛い言い方をしたが、ただ体重を乗せて抗議しているだけだ。


「するかしないかは自己責任です。その結果も……当然、ね」

「はぁ……そうね。そうね。夏に補習は嫌だし……遊ぶ為にはやらないと~、でもやっぱり嫌ぁ~」


 勉強と運動は苦手、でも最近は部活を頑張っている麻央さん。

 学生にとって、運動はともかく勉強は避けて通れない道だ。


「そう……やらないといけないんですよ。実はもう、テスト勉強は決定事項なのです」

「えっ? それはつまり……闇の囁き的な事、かしら?」


 中間テストでは月見川さんに負けた俺も俺で、リベンジに気合いが入っている。

 ……というのは個人的な思いで、実は昨日麻央さんのスマホから電話が届いていた。

 電話の相手は千恵さん……麻央さんの従姉で家事担当をしている、ちょっと掴みどころの無い人からだ。

 着信履歴を見ておらず、千恵さんも言っていないから麻央さんは知らないのだろうけど、その内容というのが「麻央の期末テスト、期待しているよ! 勉強会なら(うち)でしていいからね!」というものだった。

 返事をする前に一方的に切られ、その上、最後に囁く様に「頼んだよ? 近江君……」と言われる恐怖を味わされた。

 ご両親は成績の事に関してかなり楽観的に考えているみたいだが……大学に通っている千恵さんは麻央さんの学力をかなり心配しているみたいだ。俺に電話で脅しをかけるくらいに。


「まぁ、当たらずともハズしてない……って感じですかね」


 あの声のトーンは闇の囁きと言うか、悪魔の囁きとでも表現して間違いないだろう。


(……っ。なんか、一瞬寒気が……?)


「ふっ、流石は近江君ね」

「幸い、俺と麻央さんは体育祭関連では忙しくないですし、部活も勉強しやすいですから……『赤点なし』そこを目指していきましょう」


 今日はブロッサム先輩に予定があるという事で、部活には行かず放課後をどうするか……という話をしていた筈なのに、だいぶ逸れてしまった。

 雨が上がって、麻央さんの梅雨明けという台詞だ。やはり、スマホの天気予報を信じて教室で待機していたのは正解だった。


「頑張る! だから、頼むわよ近江君!!」

「はいはい……そろそろ帰りますか?」

「あっ、そうだ! 千恵さんにお洒落なカフェを教えて貰ったの。人間界の調査の一環として……あ、あと小説の取材と言うことで……その……で、デー……」

「データ集めですか? 良いですよ、案内はお願いしますね」

「う、うん! 行きましょ…………はぁ……」


 外に出ると、梅雨特有のジメッとした空気やアスファルトから感じられるモワッとした熱気が肌を通して不快感を与えてくる。

 だが、隣には麻央さんが居る。それだけで……不思議と雲の切れ間から注ぐ太陽の光が心地好く感じられた。

 自称闇属性なのに、なんだか光属性っぽく朝も昼も夜も基本的に明るい……よく考えれば変な麻央さんだな。


「そういえば、そのカフェって遠いんですか?」

「そんなに遠くないと思うけど……帰るの遅くなっちゃうかもしれないわね」


 顔を見合わせて、「どうする?」とお互いに問い掛ける。

 明日という選択肢が脳裏に浮かぶが、それも込みで問い掛けている。


「……ねぇ?」

「……まぁ、そうだけどねぇ?」


 お互いに駅まで、とりあえずの変な雰囲気で歩いて行った。

 明日という選択肢が出た事で、なんとなく気持ちが揺らいでしまうのは仕方ないと思う。だが、今日の内にという気持ちが無い訳でもない。

 ――さて、どっちが良いだろうかな?






誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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