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第5話 部活ってけっこうあるんですね

よろしくお願いします!


 


 掃除の場所はそれぞれ振り分けられていた。

 教室だったり廊下だったり、理科室だったり。

 移動しなくても良い自分達の教室が掃除場所になった俺は、(ほうき)で床を()いていった。


「魔剣ホウキニュウム……久しいわね」


 勿論、これに関してはノータッチだ。

 今は掃除の時間であって、宇野宮さんの通訳をする時間ではない。

 それに、そういう注意喚起くらいは委員長達がやってくれるだろうし。


「あの、山野君……だよね? その、悪いんだけど……宇野宮さんに掃除をするように言って貰えるかな?」

「あー……えっと、佐藤さん? 申し訳無いけど一回だけチャレンジして貰っても良いかな? 副委員長からなら宇野宮さんもちゃんと聞いてくれると思うし」


 副委員長の気持ちも分からなくは無いけど、全てに関して宇野宮さんとの間に俺が入ってしまうのは、この先を考えると良いことでは無いだろう。

 宇野宮さんと他の人に距離が出来てしまうし、彼女が中二病というのは諦めても、会話までは諦めて欲しくはないと思っている。

 ……とりあえず今はまだ、だけど。


「分かった、そうだよね! でも、駄目だったらお願いね?」

「お、おぉ……それは任せて!」

(ふぅ……ヤバイな、これが萌えってヤツなのかもしれない。三次元も中々に破壊力がある)


 両手をちょこんと合わせて、首をちょこんと(かし)げる副委員長は……何だか可愛い生き物だった。


 これはきっと、俺じゃなくても男心をくすぐられた事だろう。……この感じだと、クラスの男子から人気を得るのも時間の問題だな。

 見た目だって小動物を思わせる、庇護欲が出てくる可愛さだしな。


 副委員長が宇野宮さんの所に行って、言葉を交わしている様子を心配しながら見守る。

 会話をしているはずなのに、宇野宮さんが目元に『右手の法則ポーズ』を作っている。やけに似合っているのが腹立たしい。

 それでも一応、副委員長の頑張りで会話は成立しているみたいだった。


「さて、掃除掃除……今日は帰って部屋の掃除もしないとだし」

「あの、山野君……宇野宮さんって日本語喋ってるんだよね?」


 ……うん。どうやら会話をしている風だっただけで、実際は駄目だったらしい。

 この後、めちゃくちゃ通訳したが、俺まで変人を見る目で見られたのは『解せぬ……』という気分になった。



 ◇◇◇



「えー、では皆さん。明日は健康診断がありますから体操服を忘れないようにしてください。それと、授業も始まっていきますから頑張っていきましょう」


 帰りのホームルームもあっさりと終わり、明日から本格的に授業かと思うと先が不安になってくる。

 勉強は苦手という訳でもないが中学の時よりも、断然レベルが上がっているからだ。

 高校の合格を貰ってから少しだけ高校の内容も予習していたし、最初の方だけならとりあえずは大丈夫だとは思う。

 だが、(ネットに)聞くところによると、数学が特に難しくなっていくから油断は出来ないらしい。


 部活に入るのならそれとの両立も考えないといけない。

 運動はそこまで得意じゃないし、文化系の幽霊部員とかは良い感じかもしれない。


「っしゃあ……やっと放課後だな! そうだ山野、部活って決めてんのか?」

「あっ、え……っと、まだだけど……文化系かなぁ~って」

「俺はもう野球部に決めてるぜ? お前も悩んでるなら見て回れば良いぞ? ここだけの話……これは昨日見学に行った時にたまたま知り合いの先輩から聞いた話なんだが……」


 声を小さくして、三宅君はとある情報を教えてくれた。


「この学校は可愛い子が結構多いらしい」

「ほぅ……それはそれは。良い情報をありがとう」


 三宅君は俺にその事を伝えると、野球部の部活を見に行った。

 他のクラスメイト達も各々(おのおの)動き出している中、俺は先日配られたプリントをクリアファイルから取り出して、静かに眺め始めた。

 その紙にはこの学校に在る部活動の種類が記載されており、運動部系と文化部系……よく見ると、思ってたより多くの部活が存在していた。


 文化系に目を向けると、美術部や吹奏楽部や書道部みたいな王道から、写真部や華道部や新聞部まで幅広くあり……人が減ってしまった部に関しては、部室が与えられない同好会に降格となっているみたいだ。

 運動部系より文化系の方が部活の種類は多い。

 運動系の勧誘が凄いのはイメージがあるけど、これはきっと文化系の方も勧誘が凄くなりそうだな。


「近江君……いえ、『終末の手記者(ワールドウォーカー)』。闇の足音が聞こえし頃に、約束の地へと至らん……(まだ帰らないの?)」

「いや、えっと……その宇野宮さん? 放課後とはいえ人がまだ居る時にその名で呼ばないで欲しいかなぁ~って。ほ、ほら! 仮の名じゃないとね……」


 自分で何を言ってるのか頭で反芻(はんすう)させて、恥ずかしくなる。

 百歩譲って真名は良いとしよう。

 だが、それで堂々と呼ばれたら「やっぱり、山野君も……」となってしまう。それはマズい。巻き込まれ事故だ。

 苦し紛れに付け足した言い訳を理解してくれたのか、数回頷いた後に近江君呼びに戻った。


「それで近江君……その紙媒体(レコード)はいったい……?」

「これは、あれだよ。昨日貰った部活の載ってるやつ。美じ……どこか見に行ってみようか……な!?」

「ん? どうかしたの……まさか、敵!?」

「いや、違う! ちょっと思ったより……その、近……く、て?」


 俺が見てた紙は宇野宮さんも持っている筈だが、後ろから覗き込む様にして見てくる宇野宮さん。

 ちょっとだけ近付いた顔に、思わず首の動く範囲で距離を取ってしまった。

 言動が変とはいえ、女の子。言動が変とはいえ、可愛い部類の宇野宮さんだ……ドキッとしたのは微妙に悔しいのだが。


「そ、そういえば。宇野宮さんって部活とか入るの? いろんな部活があるみたいだけど?」

「そうね、とても悩ましいわ。闇魔術研究会を発足(ほっそく)するか、否かを……二人だと部にはならないだろうし」

(ん? 今、聞き間違えじゃなければ二人って言ったか? ……まさか?)


 嫌な予感とは経験から来るものだと思っている。

『このまま進めば失敗する』だとか『これをしたら怪我をする』だとか。

 だから、嫌な予感というのは良い予感よりも当たりやすい。今回の嫌な予感もその例に漏れず、嫌な予感が当たってしまうという直感があった。


「えっと……一応聞くけど、二人って?」

「ん! ん!」


 自分を指差した時には一本だった指が、俺を指差した後には二本となっていた。

 ビックリするほど良い笑顔をしていらっしゃる。

 闇魔術研究会なんてよく分からない部活が認められるとは、到底思えない。流石に部活を作りやすい環境の学校とはいえ、だ。


 せいぜい宇野宮さんが落ち着くのは文芸部か手芸部あたりだろう。なんなら、漫画アニメ研究部とかもあり得るかもしれない。

 ……というか、同好会じゃなくちゃんと部活としてあるんだな、アニ研。


「そんな怪しげな組織……コホン。部活には誰も入らないって」

「なら、どうしたら良いの? ヘルプよ! 近江君」


 いや、知らんけども。

 どうもこうも、()めてしまえば良いと思っている。

 部活選びというのは、今後の高校生活においても非常に重要な分岐点(ポイント)となるだろう。

 そこで出会う人や体験する事が、その後の自分の人生に大きく影響していく。

 単純に今やりたい事をするのだって良いと思うし、将来の為に学んでおきたい事をするのだって良いだろう。

 だから部活は自分で決める事であって、決められるものじゃない。


「宇野宮さんもさ、好きなのに入れば良いと思うよ。でもまずは美人たんさ……じゃなく! 情報収集を、ね! 基本でしょ?」

「情報収集! 行く! 行きましょ近江君!」

「お、おぉ……う」


 俺と宇野宮さんは鞄を肩に掛けて、教室を出ていく。

 幸いにして、クラスメイト達の大半は既に教室を出ており、一緒に帰っていると思われずに済みそうだった。

 どうせ一日では見て回れ無い事は分かっているし、まずは運動部から順に見ていくつもりでいた。

 ひとつの部活につき数分。美人が居れば延長で。


「くくっ………部活に偽装した『光の組織(エネミー)』がいないか確認もしておかないとね」

「ははっ、ちょっと離れて歩こうか」


 俺と宇野宮さんの目的は全く違うのだが、目的地という目的地が無い者同士、一緒に部活の見学に向かうことにした。

 そこで小さな俺と宇野宮さんのバトル。俺が歩くペースを上げれば宇野宮さんも上げ、下げれば下げる。

 それが、靴を履き替える玄関まで続き、外に出てからも続いた。


「なにあれ、可愛いい~」

「ラブラブねぇ」


 上級生らしき女子生徒の横を通った後の背後から、そんな声が聞こえてきた。

 たまたま俺を追い抜いていた宇野宮さんにはギリ聞こえなかったのだろう、ペースをあからさまに落とした俺を振り返って不思議そうに視ていた。


「なに? 戯れはもう終わりかしら?」

(やめて! やめてやめて!)


 急に恥ずかしくなって、先輩達から距離を取るも、宇野宮さんが止まる事はない。

 変なポーズに変なポーズ。変なポーズを繰り返していく。

 声が出ていなくても、動きはどこからでも見られている。


(宇野宮さんには羞恥心がないのか!? というか、俺が恥ずかしいんだけど……)


 どこからともなく笑い声が聞こえてくる。

 それは宇野宮さんへだろう。周囲を見ると、人がチラホラ居る。

 俺は関係ない。このまま然り気無く移動すれば、何事もなく終わるだろう。

 なのに、俺は……少ない人数とはいえ視線を集めている宇野宮さんの前まで歩いて行っていた。


「我が同朋?(どうしたの?)」

「はぁ……まったく。注目されてますから、行きましょうよ」

「……死の舞踊(ワルツ)でも披露すべきかしら?」


 死ぬのは踊っている宇野宮さんと、巻き込まれる俺なのはやらなくても分かる。

 静かにならない彼女の腕を取って、俺は走った。

 色っぽい関係に見える人がもしかすると居るかも知れないが、残念。ただのお守りなのである……。




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)

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