第45話 秘密会議
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授業と授業の間の休み時間、ノートの余白を埋めるかの様に絵を描いて――そして、昼休み。
授業と休みとのオンオフ。その切り替えは得意だ。
今日は珍しく宇野宮さんからの茶々もなく、集中出来ていた。唯一の気がかりといえば……やはり、周囲の反応だろうか?
隣の席の野田君も、今日はあまり話し掛けて来ない……。知らぬまに、何かやらかしてしまったのだろうか?
(ん? 宇野宮さんからのメールだ……なになに? 秘密会議をするから、特別棟の上の階段に集合?)
秘密会議、とは。
何やら格好い……気になるキーワードだ。
一応、お昼ご飯もそこで食べるという流れで良いのだろうか?
「あれ、山野君どっか行くの?」
「まぁ、呼ば……いや、何となくね」
「そ、そう。宇野宮さんも居ないみたいだけど……一緒かい?」
ここで一緒と言ってしまうと、秘密会議がただの会議に成り下がってしまうだろう。
はたしてそれは、格好良さ的にどうだろうか……ナンセンスというやつになってしまうかもしれない。
「別、だけど?」
「そう……あ、うん。いってらっしゃい」
「行ってきますね」
そう言ってお弁当を片手に、教室を後にして理科室や音感室のある特別棟へと向かった。
◇◇
「――なぁなぁ、今日の近江おかしくねぇ?」
「あぁ、やっぱり三宅君もそう思う? どちらかと言うと宇野宮さんの方がおとなしいって気がするけど」
「そうだよなぁ……なんか、休み前に喧嘩してたらしいじゃん?」
「僕も噂で聞いたけど、二人が言い争いながらそのまま教室を出ていったらしいよ」
隣の席に座ってて、近江君の様子がおかしいとは思えなかった。
いつもなら休み時間の度に宇野宮さんが近江君の背後に立って、何かを話しているのに、今日はそれすら無かった。
二人の仲の良さは、このクラスでは公認カップル並みと認識されている。
だからこそ、休み前の喧嘩話と今日の二人の距離感で、教室中が変な空気になっていた。
……当の本人達はそれに気付いている様子は無いみたいだけど。
「おいおい、近江には宇野宮さんが居る。だから、アイツが変にモテずに済んでるんだぜ? 野田っちもその意味が分かるだろ?」
「そうだね……山野君を格好いいと言ってる人も居れば、宇野宮さんの隠れファンも居るらしいし」
「宇野宮さんを野放しにしても混乱が増えるばかりだしなぁ……」
「そうだね……何とかしないとねぇ」
どうにか出来る問題かは分からないけど、二人の仲が良くならないとクラス全体で困るからね。
あと……面白い事が減るのは勿体無いし。
◇◇
渡り廊下を渡り、特別棟に入って階段を上がっていく。
三階から屋上に続く階段の一番上、その踊り場に麻央さんは君臨していた。
階段の一番上で足を組み、勇者を待ち続けた魔王の様に座っていた。
(ギリギリでパンツが見えない足の組み方……狙ってやってるのかな?)
「ふふっ、待ちくたびれたわ」
「麻央さん、パンツ見えてる」
「えっ? あ、わっ! サイテーよ! 近江君の変態ィィ!!」
慌てて足を戻した麻央さんだが……これは謝らないといけない。
俺が言ってからその戻す際に、チラッと本当にピンク色の布地が視界に入ってしまった。
「じょ、冗談だよ! 冗談!!」
「嘘っ! だってその角度だもん!!」
「いや、分かってるなら最初から足閉じててくださいね!? いや、見えてないけど……油断しないで」
「変態! 近江君、変態!!」
「よし……戻りますね」
「あー! うぅー……あぁ……」
来た道を戻る雰囲気だけ出して、言い過ぎた事を秒で後悔している麻央さんの隣へと、階段を上がって向かう。
「冗談ですよ。するんでしょ? 秘密会議」
「――うん! 座って、座って! ここは人が来ないから、秘密会議にはピッタリなのよ!」
自分の隣の場所をポンポンと叩いて、招いてくれる。
麻央さんの後ろに、チラッと弁当箱が見える。持ってきて正解だったみたいだ。
「それで、秘密会議って何をするんですか?」
「えーーっ……と」
「無いんですね……」
「あ、あるわ! あるに決まってるでしょ? えー……ちょっとまってね?」
「あははー……先に、お昼にしましょうか」
場所が変わっただけで、麻央さんとお昼を食べるという事は変わらない。秘密会議もきっと、いつも背後でボソボソと話している内容とそう変わらないと思われる。
つまり、いつも通りだ。周りにクラスメイトが居ない分、話しやすい雰囲気ではあるけれど。
「あ、そうだ。昨日、液タブ使ってみましたよ」
麻央さんから話題がどうも出る様子がなく、俺から振ってみる事にした。
「そ、それよっ! その感想を聞こうと思ったの」
「そうですか。……まぁ、あれです。結構楽しかったですよ」
「なら、良かったわ。私の方も面白い設定が授業中にポンポン浮かんで大変だったの。でも、ちゃんと休み時間にメモしてたの」
――どうりで静かだった訳である。
俺も絵を描いていたし、今日はいつもより創作を頑張っている俺達だな。この調子だと、午後からも同じ感じになりそうだ。
「メモは大事ですよね」
「そうよ、私のアイデアの忘却は……終末を呼ぶ理になるからね」
「ならちゃんと、終末の手記者の役目を果たさないとね」
「うにぇっ!? ……さ、さらっと恥ずかしい台詞言わないでよっ! もうっ!!」
いや、「恥ずかしい事」とか言われてもピンと来ないんだが……麻央さんの琴線に触れる事を言ってしまったらしいな。
モグモグと食べているサンドイッチの食べる速さが、ちょっと上がった。
「……あ、そうだ。麻央さんって呼んでますけど、教室で話す時って宇野宮さんでも大丈夫ですか?」
「……ぅぎぎぎぎ。ま、まぁ……そう、そうよね……仕方なくね」
「嫌なんですね」
「…………嫌、かも」
よく見れば、ちゃんと変わっている表情。雰囲気もどちらかと言えば嫌という感じが伝わってくる。
クラスメイトにどう思われるか……『あいつらデキてんじゃね!?』と、かわれるのがちょっと恥ずかしい。そう思って苗字呼びを提案してみたのだが、別に我慢すれば――そう、俺が頑張って我慢すれば大丈夫な話だ。
(頑張って我慢しようとする時点で、恥ずかしさが絶対に出ちゃうやつだよな~これ……)
周りに他の人か居ない状況なら、名前を呼ぶのも抵抗は無くなってきた……が、それでもまだナチュラルには呼べてはいないのだ。
呼ぶ前にまだ『っ麻央さん』と自分しか分からないくらいの、小さい溜めがどうしても入ってしまう。
きっと他に誰かが居る状況なら、慣れるまでの数回は『ま、麻央さん』と変な感じになるだろう。
周りの全員が気にしないでくれていたらそれが一番良いのだろうけど、女子を名前で呼びに変えたりした男子が居たら……そこに興味を持つに決まっている。
クラスの誰かがそんな風になっていたとするなら、人に話し掛けるのが得意じゃない俺でもきっと、興味本意で見るくらいはするだろうし。
「たぶん、最初は変な感じになると思うけどさ……教室でも麻央さんって呼んでいきますね」
「……良いの?」
「頑張って、そこは……なんとか!!」
「へへ……ありがとう近江君」
結局、秘密会議という会議は何も無かったけど昼休みが終わるまで秘密の踊り場で時間を過ごした。
魔力を高めてから教室に戻ると言った……おそらくトイレだろう麻央さんは先に行き、俺は真っ直ぐ教室へと戻っていった。
「あっ、山野君おかえり」
「ただいま。野田君、次の授業って何だっけ?」
「古典だよ。それはそうと……くっ、僕には不用意に聞けない」
「ん? どうしたの?」
野田君が何かを聞きたそうにしているけど、なんだろうか。
まぁ……良いか。聞きたい事があれば聞いてくるか。今は麻央さんといつ呼ぶ機会があるか分からないから、その時の為に心の準備をしておかないとな。
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