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第44話 気遣いと優しさ


お待たせしました!

よろしくお願いします!



 


 ――本当に遠回りされて、だけど、ちゃんと家まで送って貰った。


「ありがとうございました」

「うん。また、家においでね。麻央も待ってるし」

「別に待ってないけどっ! でも、近江君が来たいって言うなら、招いてあげても良いのよ」

「あ、じゃあ……大丈夫です」

「何でよッ!!」


 軽いやり取りをして、勇馬さんと麻央さんと挨拶を交わして車を見送った。


「だいぶ遅くなっちゃったな」


 遊びに出掛け、夜八時を越える事なんて今までに無かった。

 連絡したとはいえ、もしかしたら心配性の母さんが倒れているかもしれない。


(……流石に無いか。早くシャワーでも浴びて、絵でも描こう)


 家に入り、ただいまと言いながら靴を脱いでいると、母さんが出迎えに来てくれた。

 やはり心配だったのか、ホッとした表情を浮かべていた。厳しい両親では無いからこそ、心配させるのは少し心苦しくなる。


「ただいま」

「おかえり、近江ちゃん」

「うん。宇野宮さんの所で遊んでた……それだけ」

「そう。良かったわね」


 母親からすると、やはり息子が外で遊んで来るのは良いことなのだろう。

 今までだって外で遊ぶことはあったのだが……一人だった。知られていないと思っていたけど、中二病だったからそれは、察してくれていたのだろう。

 今になって優しさに気付くと、めっちゃ恥ずかしいな。


「まぁ……楽しかったけど。じゃあ、シャワー浴びて部屋に戻るね?」

「今、未来ちゃんが入ってるわよ?」

「あ、そうなんだ。なら、後にするよ」


 前にちょっとお風呂イベント的な事を兄妹でやらかして、気まずい空気だけが生まれるという現象が発生した。

 だから気をつけないと、次は本格的に妹様から嫌われかねない。

 俺は風呂場へと向かう体を方向転換させ、自室へと向った。


 ――机の上に、知らない飲み物が置いてある。

 部屋の明かりを点けて、最初に意識を持っていかれたのがソレだった。麻央さんに頂いた液タブを同じ机の上に置いて、飲みかけのペットボトルに手を伸ばした。


(飲み物的に妹様のっぽいけど……どうして俺の部屋に?)


 今日の朝には無かった筈だからきっと、俺が家を出た後に侵入したという事になる。

 部屋にある漫画なら、最新巻まで既に読み終えている筈だ。つまり……どういう事なんだ?

 流石に妹様とはいえ、プライベート空間を荒らされるのは勘弁して欲しいのだが。


「まぁ、それは後で聞くとして……とりあえず液タブをパソコンに繋げたりしないとな」


 借りた液タブの入った箱と一緒に入っていた説明書を読みながら、コードを繋げたりなんやりをし始めた。

 ダウンロードやセットアップが無事に終わり、実際に液タブに試し描きとしてペンを走らせてみる。紙に描くのとはまた違う感覚だが、これはこれで楽しいものがある。


「お風呂空いたけど?」

「おうぇッ!?」


 滑るような描き心地を楽しんでいると、部屋のドアがノックされる事もなく、突然開いた。

 悪い事も、隠さねばならない事をしている訳でもないのに、素っ頓狂な声を上げてしまった。こんなのはもう、妹様へからかって下さいと言っている様なものだ。

 振り返るとそこに、彼女は居る。ニヤッとした表情を浮かべながら。


(ヤバイ……劣勢でしかない! 逆転の何かを見つけないと!!)


「なになに? クソ兄貴、何コソコソしてるんだ?」

「えっと……だな。そ、そう!! このペットボトル妹様のだろ? 部屋に仕掛けた隠しカメラで今から詳細をパソコンで確認しようと、ね?」

「…………は?」

「ん?」


 もちろん隠しカメラなんて設置してない。ただパソコンを起動していた理由と、ペットボトルの謎を繋げて、咄嗟に出てきた嘘だ。

 なのに……妹様の表情が、小悪魔的な笑みから困惑顔へと一瞬で変化した。


「えっ?」

「え?」

「はっ?」

「え?」

「ちょ、クソ兄貴……今、何て? えっ、ちょ、イミワカンナイんだけど?」


 意味が分からないのは、こっちの台詞でもある。

 妹様の今の反応は、明らかに見られてはヤバイ何かをした人物のものだ。

 ある意味、何をされたか分からない俺も困惑しているし……妹様もずっと困惑している。

 ひとつの嘘が、あらぬ方向へと導いてしまった。兄妹とはいえ、言えない事の一個や二個はあるだろう。

 ましてや、妹様は今まさに思春期の真っ只中だ。何気ない一言ですら傷付いてしまうお年頃だ。

 ここは兄として何も無かった、何も知らないという事で突き通してあげるのがせめてもの優しさだろう。


「ど、どうせまた、俺のベッドの上でお菓子でも食べてたんだろ?」

「……っ! そ、そうよ!! 自分の部屋で食べると掃除とか面倒でしょ?」

「どうりで布団も整えられてる様に見えて、ちょっとシワがあるんだな……」

「~~~ッ!!」

「今回は何も聞かずに許すけど……でも、布団の上でお菓子とか食っちゃ駄目だぞ?」


 顔を真っ赤にして……怒ったのか、妹様は何も言わずに、でもペットボトルだけはちゃんと持って部屋を出ていった。

 風呂が空いたという事らしいからすぐにでも……とは思うが、その前に部屋のチェックをしておかないといけないだろう。

 部屋に侵入されたのはもう確定として、妹様が本当にただゴロゴロしていただけかは怪しい……。もしかすると、俺の弱味でも探していた可能性だってあるのだからな。


「……本棚も大丈夫だし、クローゼットの中も動かされた形跡は無し……。え? 本当に何してたん?」


 逆の立場になって考えてみる。

 俺が妹だとして、兄の部屋に侵入する理由を……。

 兄妹仲は悪い訳じゃないと思う。だけど、イタズラを仕掛けられる可能性は十分にあり得る。でも、そんな形跡はない……。

 飲み物を用意するからして、短時間の用事では無いという事がヒントだろうか。


「もしかして――お昼寝、か?」


 陽の当たり具合は、日中ならたしかに俺の部屋の方が当たらない。

 妹様の部屋よりは寝やすいだろう。隠しカメラに反応したのも、ダラしない寝相を見られたら困るという事で、一応の(・・・)説明が付く。


「よし、答えは出たし、これで余計な勘繰りをせずに済むな」


 俺は自分で、自分の考えた事を台無しにする言葉を呟きながら、着替えを持って部屋を出た。

 シャワーだけで良いと思っていたけど、ここはしっかりお風呂に入って汗と一緒に思春期妹様の件は流してしまおう……と軽いステップを踏みながら、風呂場へと向かった。



 ◇◇◇


 風呂から上がり、部屋に戻って来てからスマホを確認すると、麻央さんから連絡が来ていた。


『明日、どこに行く?』


 何処でも良いと言うのは少し怠慢だろうか。でも、結局は麻央さんの行きたい場所に決まると、何となく察している。

 俺は絵を描けて、麻央さんにとっては小説のネタになりそうな場所。ただ、街中はGW中で人が多い。観光地も却下となれば、行ける場所は限られてくる。


「何処でも良いですよ……っと」


 俺は迷った結果、麻央さんに全部任せる事にした。

 考えた末に託したのだから、これは怠慢では無いはずだ。


「明後日、明々後日で休みも終わりだしな……休みが終わったら中間テストに向けて勉強もしていかないとなぁ~」


 せっかく液タブを貰ったのだが、今月の末頃には中間テストだ。おそらく今月は、あまり使えないだろう。

 きっと……麻央さんの勉強も見ないといけないだろうし。


「ま、今日くらいは液タブでいろいろ遊んでみますかね!」



 ――次の日とその次とその次を含めて計五日間。気付けは休みの全てを麻央さんと過ごしていた。

 休みの後半戦にしていた事といえば、絵の練習と小説という内容。友達との遊びという遊びをしていた訳じゃないが、なんだかんだで昨年までの休みよりは充実していたと思う。


 そして今日は、連休明け月曜日の学校だ。

 身体はまだダラダラしていたいと言っているが、どうにか気持ちを切り替えて登校している。

 クラスメイトの数人くらい、名前を忘れてしまってる気がしてならないが、元より話す人が多い方じゃ無いから大丈夫だろう。……自分で言ってて少し悲しいが。

 朝の髪型チェックで寝癖も整えたし、見た目に関しては今日もバッチリだ。何となく見た朝の占いの順位は、可もなく不可も無い結果だったが……それはそれで良しとしておく。


「おはよう」


 学校に着いて教室に入る。

 最初にする挨拶の相手になったは、先に来ていた隣の席の野田君だった。


「あ……おはよう山野君。その、大丈夫なの?」

「ん? ……別に普通だけど?」

「そ、そう。なら、良いんだけど! あはは」


 まるで英語の授業の最初みたいなやり取りだと思った。

 英語ならスマートに聞こえるやり取りであっても、日本の男子高校生、それもただの日本語でのやり取りとなると、ちょっと微妙と言わざるを得なかった。

 つまりは、変な野田君という事だ。まだ知り合ってからそんな長くも無いのに、決め付けてしまうのも失礼かもしれない。

 でも、それでも何か変な感じがする野田君だった。


(……いや、野田君だけじゃない? 何か、教室の雰囲気が火曜日よりちょっと重くなってる気が……気のせいか?)


 まだ来ている人が少ないく、ちょっと曇り空だからそう感じてしまうのかもしれない。


(よくよく見れば、そんなに変わらない気もするしな)


 それから野田君が日課である調査に行ってくると席を離れ、俺は一人でノートに絵を描き始めた。

 おそらく、今日からはずっとこうして勉強か絵を描く事になるのだろうが、別に嫌では無い。誰にも話し掛けられずに、ただ独りで寝て過ごしている奴と思われないだけマシというものだ。


「ふっ……このギリギリ感で体感するわ。自分が生きてるって」


 滑り込む様に登校してきた麻央さん……開幕速攻である。

 今日も今日とて、彼女は彼女だった。

 野田君もいつの間にか戻って来ていた。それからちょっと遅れる様にして坂本先生が来て、朝のホームルームが始まった。

 やはり学校に来ると、一週間が始まったって感じがするな。


(そうだ、学校ではどっちで呼べば良いんだろう? 麻央さん? 宇野宮さん?)


 まぁ、自然に出た方で良いか。どうせ、嫌なら麻央さんの顔が判断してくれるだろうしな。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)

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