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第32話 謎の液体と謎の先輩



お待たせしました!

よろしくお願いします!(´ω`)

 


 月曜日になり、またいつも通りの学校生活というのが戻って来た。

 四月もまだまだ(なか)ば、いつも通りなんて言えるほど通っている訳ではないけど、オリエンテーションなんかも終わり、ここからは勉強と部活がメインの『高校生らしい生活』が始まったといえるだろう。

 月曜日は至って問題らしい問題は起こらず――宇野宮さんは宇野宮さんであったが――とりあえず平和に終わった。


「さぁ、いざ行かん! 我が城への凱旋であるぞー」


 そして、翌火曜日の放課後。

 今日は、先週末にブロッサム先輩……もとい桜井先輩に言われていた部活の日である。俺と宇野宮さんはこれから文芸部の部室へと行き、何かしらをする予定となっている。

 勝手に、部室を自分の城と言ってしまっている事に関してはノータッチだ。それよりも早く行くことを優先させないと、新入部員としては減点ものだろう。


(なんか……一日の大半が宇野宮さんと共に行動している気がするな)


 それこそ学校では、トイレや授業の時以外は一緒な気がする。

 もしかしたら俺達の前世は、二つで一つの靴下だったのかもしれない。もしくは手袋……どっちも、気付いたら片方が無くなってるやつだな。

 せめて人が良かったけど、双子……はちょっと言い過ぎかもしれない。


「…………うん」

「ん? どうしたのかしら、近江君?」

「いや……宇野宮さんと俺って、前世は靴下だったのかなって」「――――ッ!? お、近江君って意外と……その、ロマンチストなのね? でも……ちゃんと、分かってるわ! 勘違いなんかしてないから!」

「(いや、どういうこと!?)……コホン。とりあえず、先輩が待ってるかもしれないし、ちょっと急いでいこう」


 宇野宮さんの思考回路は謎。流石に全く分からなかった訳だが、それは横に置いておいて、今は部室へ行くことを優先させた。

 今週末で部活の勧誘期間が終わるらしい。つまり、ほとんどの生徒は今週中に何かしの部活に入部することになる。俺や宇野宮さんみたいに早くに決まった生徒は、早々に動き出していることだろう。

 各々(おのおの)が選んだその部活に馴染む事が、新入生にとっての上下関係における、最初の試練なのかもしれない。運動部の方が特に難しそうに思う。波長(ノリ)が合わなければ、それはもう大変なことになるだろうし。


「近江君、廊下は走っちゃ駄目よ? ただ……飛ぶのは禁止されていない様だけど、ね?」

「うん、普通に歩いていこうか。気持ちだけ急ぎめにして」


 そして、渡り廊下を渡って科学室や美術室なんかがある隣の棟へ行き、三階の角部屋にある文芸部の使っている部屋へたどり着いた。

 中から声が聞こえるみたいな、騒がしくなる程の人数は居ない。今日もまた、ブロッサム先輩が一人で読書に興じているのかもしれない。


「失礼します!」

聖域(サンクチュアリ)に舞い降りる……我ぞ!(来ましたけどー)」


 ドアをノックしてそのまま横にスライドさせ、中に入ったが……そこに、先輩の姿は無かった。

 まだ来ていないならそれで良かったのだが、部室の鍵が開いている事や先輩が座っていたであろう席の所に本が置いてある事を考えると……一度来て、すぐに出て行ったのだと予想できる。


「近江君! 見て見て、ご自由にお飲み下さいだって!」

「……なんか、罠っぽくないですか?」


 部屋に入口から、ハッキリと目に付く位置にラベルの無い二本(・・)のペットボトルが置いてあった。中身は透き通っているから水なのかもしれないが……だからこそ、それが余計に怪しく思えた。

 何に対して警戒しているのか、自分でもよく分かってない。ブロッサム先輩の粋な計らいなのかもしれない。でも、危険察知能力が警報をビンビンに鳴らしているのだ。


「近江君、罠って……ぷぷっ。ちょつと冷静に考えましょう?」

「いや……えぇ!?」


(一番恥ずかしッ!! 宇野宮さんに(さと)されるのが一番恥ずかしッ!! なんだこの、別ベクトルの恥ずかしさは……)


 二本ある内の、右側にあるペットボトルを宇野宮さんが手に取った。そして、もう一本も手に取って俺に渡してくる。

 俺は深呼吸をして、ただの水だと思い込ませてから、ペットボトルを受け取った。そしてキャップを開けて、口を付ける。


 ごくッ、ゴクッ、ゴクリンコ――無色透明。水の味すらしない、謎の液体が体内へと入っていく。

 美味い、不味いも分からない。ただ、飲んでいる最中に「あっ、きっと駄目なやつ」という感覚だけは感じられた。


「変な味? というか、味という味が……わきゃぁ!?」

「いや、何その声……うぴゃぁ!?」


 喉元過ぎれば熱さ忘れる……という(ことわざ)とは逆だった。喉元を過ぎた瞬間に液体が何かの成分を発生させていたのだろうか、めちゃくちゃパチパチと弾けている。新感覚なんて呑気な事を思えるのは、まだそのパチパチが弱いからである。


(あれ……弱まっていく? あれ、何だろう……凄く悲しい……何だこれ、切ない方向へ自戒の念が強まっていく……?)


 予想では、パチパチがゆっくりと強くなっていくと思っていた。新感覚ドリンクみたいな。

 だが実際は、それが逆に弱まって、弾ける感覚が無くなった瞬間に――強いマイナスでネガティブな感情に襲われていた。

 普通の精神状態と、自分でもコントロールできないその感覚の二つがある。精神(こころ)で冷静さを装っても、口から自責の言葉が出てしまう。……もう、意味が分からない。


「あぁ……俺なんかが飲んだせいで……ペットボトルの中身が減ってしまった……」

「……ぐふ、ぐふふ――あははははははははは!!」

「宇野宮さんに(わら)われている……俺は、何をしても駄目な奴なんだ……」

「ヤ、ヤメテ近江君! あははははっ!! ぶふっ、おち、落ち込んで……わははははははっ!!」


 俺の気持ちが沈めば沈むほど、それを面白がって宇野宮さんが笑い、宇野宮さんが笑えば笑うほど、俺の気持ちは沈んでいった。

 俺が飲んだ液体の効果とはまた別の効果が出ているみたいで、宇野宮さんも自分では止められないだろう。

 誰も止める事の出来ない、負のスパイラルに突入していた。


「二人共!!」

「あははははは、ブロッサム先輩……ブロッサム先輩ってなんなのよ! くふっ、くふふ……駄目、堪えられな……わははははは」

「あぁ……先輩に心配をかけてしまうなんて自分が情けない……俺は、なんて駄目な奴なんだ」


 少し険しい顔をしたブロッサム先輩が、部屋に飛び込む様に入って来た。

 ペットボトルと俺達の惨状を目にしたブロッサム先輩は、部屋の中をキョロキョロと見渡して……部屋の隅に置いてある掃除用具の入ってあるだろうロッカーに視線を定め、歩き出した。

 宇野宮さんはそんな歩いてる先輩を見て爆笑し、俺はめちゃくちゃ精神が凹んでいく。


夏海(なつみ)! 夏乃(なつの)! 出てきなさい!!」


 ギギキ……と立て付けが悪いのか、嫌な音が鳴りながら扉か勝手に開く。いや、内側から開けられていく。


「さすが春乃姉!」

「私達の場所が分かるなんて……流石ですね」


 ロッカーから、二人のよく似た……いや、双子の女子生徒が現れた。よく二人でロッカーに(はい)れたと思うが、それは少しばかり小さい体躯(たいく)のお陰だろうな。

 宇野宮さんよりも背が低いその二人の上履きの色を見れば、一つ上の先輩というのは分かった。でも、まだまだあまりにも情報が少なく、何も理解が出来てない状態に等しいが。


「夏海、そろそろ」

「そだね……さん、に、いち。はい!」


 その掛け声と共に、笑っていた宇野宮さんの声がピタッと止まった。「わははははは……はぁ?」と言った宇野宮さん。宇野宮さんもこの状況を、ずっと疑問に思っていたのかもしれない。


「お、近江君……凄く脇腹が痛いのだけど」

「そりゃ、あんだけ爆笑してたらねぇ……俺もなんか、気持ちが沈んだままなんだけど」

「二人共、ゴメンね。この子達が……あ、こらぁー! 今はメモをと取らない!」


 ブロッサム先輩に叱られているのに、双子はメモを取る事を止めない。まるで実験結果を纏めているみたいに、書きまくっている。

 俺と宇野宮さんの視線は、その双子に注がれていた。春乃さんと似た茶色の紙を片方は右のサイドテールに、もう片方は左のサイドテールにしていた。俺から見ての形だから、本人達からすると逆になるのだろうけど。

 そして、その顔は瓜二つ。子供っぽいなんて言ったら失礼かも知れないが、第一印象はそんな感じになってしまった。体型だけではなく、笑った顔が……いたずらっ子みたいな顔をしていたからだ。


「……ったく、本当にごめんね?」

「えぇ、まぁ。何か不思議な体験をしました」

「ブロッサム先輩、この双子の悪童(トリックスター)は何者?」

「あ、うん! そうだよね、ちゃんと説明するね? 先にこれだけ言っておくけど、科学部と兼部だけど文芸部に入ってるから……二人の先輩よ」


(み、見間違いか? ほんの一瞬だけ『二人の先輩よ』の所で決めポーズ的なのをしてなかったか!?)


 目を擦って双子先輩を見てみても、必死に何かを書いている姿である。

 説明するから座ってというブロッサム先輩。宇野宮さんは近くの席に、早くも腰掛けようとしていた。

 だが俺は、その指示に従う前にさっきの一瞬を確かめたくなった。


「二人の先輩よ(裏声)」


(――ビシッ!!)


(やっぱり!?)


「二人の先輩よ(小声)」


(――ビシッ!!)


(耳が良い!?)


 しかも、動きが一瞬だ。注意して見ていないと見逃してしまう程のスピードだが……流石と言うべきなのか、双子の先輩のタイミングは完璧だった。


「近江君、何ブツブツ言ってるの?」

「山野君も好きな場所でに座って?」

「あ、はい! すいません……」


 そして、何かを話し合いながらペンを走らせ続けている双子先輩を背景に、ブロッサム先輩が双子先輩について説明をしてくれた。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)

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