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第31話 どっちが姉か



お待たせしました!

よろしくお願いします!(´ω`)


 


 部屋で(くつろ)いでいるだけ、特にみんなで何かをして遊んだりしている訳じゃない。各々で、やりたい事をやっている。


未来(みく)ちゃん、部活は何をしてるの?」

「バドミントンですよ。月見川さんは?」

「私は弓道部よ。あと……私の事は秋羽で良いわ」

「私の事は終末を呼ぶ理(ワールドエンド)……と」

「あ、はい。秋羽さんとワールドエンドさんですね」


 急に話に乱入してきた宇野宮さんに、一瞬だけ、月見川さんから鋭い視線が向かった気がする。

 それにしても、我が妹様であるとはいえ適応力が高過ぎないだろうか。ただ、慣れている……もとい、諦めているという感じがしないでもないのだがな。


「それにしても、近江にこんな可愛い妹さんが居たなんて驚きね」

「まぁ……ははは。自慢の妹ですよ」

「やだっ、褒めても何も出ないよお兄ちゃん!」


 お互いには分かる白々しさを突き通している。

 たしかに今の状態が常であれば、妹様は自慢の妹だ。対する妹様も、後でこっそり何かをくれるかと思わせて、褒めた所で本当に何も出さないのだろう。


「仲良いのね? 私もお姉ちゃんが居るけどそこまでじゃ無いわよ?」

「そうなんですね、私もお姉ちゃんが欲しかったなぁ~」

「ふっ、姉……か。どうやら私の出番の様ね」


 月見川さんは椅子から降りてベッドに座り、妹様と同じ目線で話しているのだが、宇野宮さんはベッドにダイブした後は足をバタつかせていた。

 気を使ってスカートの中が見えない位置に移動した紳士的な俺だが、少し勿体無いと思ったのも事実だ。ただ、然り気無くとしても覗こうものなら、月見川さんの鉄拳で制裁が待っているに違いない。あと、ただでさえ少ない妹様の信用も無くなるだろう。


「えっと……ワールドエンドさんがお姉ちゃんになってくれるって事ですか?」

「だ、駄目よ!! 未来ちゃんの姉には私がなるわ! 麻央は一人っ子でしょ? 姉については専門外なんじゃない?」

「くくく、これだから素人は。アニメでどれだけの姉キャラが存在していると思って? しかも、魔界には私の姉が千を越えて存在しているんだから!」

「ぐぬぬ……」


(いや、何が『ぐぬぬ……』なんですかね。正攻法で勝てるって事を忘れるよね、月見川さんって)


 どちらが姉なのか。妹様の不用意な発言によって『第一回姉選手権』なるものが開催されそうになっていた。

 月見川さんは下心で姉に立候補し、宇野宮さんの理由はよく分からないけど、姉妹や姉になる事にでも憧れがあるのかもしれない。

 まぁ、平和ならなんでも良いけどさ。


「では、これより『姉力(あねりょく)』を比べていきたいと思います」

「なんで近江が仕切ってるのよ……」

「それは、俺と妹さ……未来が審査員だからですよ。異論は認めますが、聞き入れるかは別とします。よろしいですね?」

「ふっふっふ……。恐れるがよい……私の姉力に」


 さすが、適応力だけはある宇野宮さん。これは一歩リードかもしれない。

 月見川さんは常識人というのか、時に己を縛る(かせ)になっている。その枷を外せるかどうか……それが、この戦いでは重要になってくるだろう。


 そもそも姉力とは何か――それは、全てを包む愛である。

 もちろん、姉にも様々なタイプが存在している。しっかり者、クール系、子供じみた姉、自由奔放な姉、甘やかしてくるタイプに実姉、義姉、歳上の幼馴染……もっと細かくすれば、それこそ千を越える姉が存在するかもしれない。


(アニメ脳な宇野宮さんだが、ゲーム脳の俺と、意外とそういう所の話は理解しあえるんだよな……)


 より細かい話をするならば、今回の対象となる妹様。そのタイプに合う姉でなければいけない。

 二面性のある妹様に一番合う姉――俺の見立てでは、厳しさと寛容(かんよう)さを兼ね備えたハイブリッド姉が理想になる。


「さて、では第一門!」

「デデン!」

「音、ありがとう妹よ。問題は『理想の姉像とは?』」


 こうして、未来(みく)の姉になる戦いの火蓋が切って落とされた――。


 ◇◇


「はぁ……はぁ……」

「くくっ……はぁ……」


 壮絶なバトル……筆舌に尽くしがたいものがあった。

 二人の嫁力は最初は微々たるものであったのに、試合の中であれほどの成長をするとは誰が予想出来ただろうか。

 俺から見れば五分……あとは妹様の判断に委ねることとなった訳だが、果たして結果はどうなるのやら。


「未来、どっちを姉とするんだ?」

「いや……ちょっと盛り上がり過ぎてキモ……じゃなくて。うーん、未来にはちょっと判断が難しいかも! お兄ちゃん決めて!」

「なんで俺が……?」

「え? だって、未来のお姉ちゃんって事はお兄ちゃんの嫁になるって事じゃないの?」


 お姉ちゃん。なるほど、お義姉ちゃんか。我が妹様にしては珍しく面白い冗談である。

 今は俺にしか聞こえない声で喋っているからまだしも、二人に聞こえたら大変な事になるだろう。……俺が、だ。

 妹様の考えを二人に知られる事なく、この茶番を終わらせたい所だが……如何せん、落とし所がよく分からない。どうしようか。どうしようもなさそうだな。


「近江、完全に私の勝ちでしょう? 未来ちゃんのお姉ちゃんは任せて」

「戯れ言を……我が圧勝に他ならないわ。でしょう? 『ザ・妹(マイシスター)』」


 いや、いや……まぁ、良いか。俺は妹様を見る。妹様はそろそろシンデレラばりに貼っていた魔法の装いが解けそうな感じだ。そろそろお開きにした方が良さそうだ。


「はい。結果は――ひーきーわーけぇ~」

「そ、そう……。まぁ、私は未来ちゃんのお姉ちゃんという立場さえ手に入ればそれで良いけど」

「ふふ……まぁ、良いでしょう。引き分けは負けでは無い。敗北が記録に刻まれてみたいものね」


 二人共、この結果に満足とまではいかないものの、悪くは無いと感じてくれているみたいで安心した。


「最後に未来から総評を貰いたいと思います。どうぞ」

「え、えー……お姉ちゃんが出来て嬉しいです」

「……という事みたいです。ありがとうございました。では…………そろそろお開きにしませんか?」


 外では太陽が傾き、空がオレンジ色に染まっている。

 そろそろ二人は帰らないと、家に着く前に暗くなってしまうだろう。

 気付けば、結構な時間が過ぎている。楽しい時間は早く感じるとも言うし……案外そうだったのかもしれない。


「そうね。楽しかったわ……麻央、帰るわよ」

「う、うむ……さすがに仕方ない。いざ、参らん!」

「駅まで送りますよ。未来、片付けお願い」

「うん! じゃあねお兄ちゃん!」

「――いや、お兄ちゃんの家はここだよ!?」

「あっ、間違えた間違えた……バイバイお姉ちゃん達」


 中々に傷つく間違え方だが、素でそう思っていたりするのだろうか?

 お兄ちゃんの『籍』は無いから……みたいな。なにそれ酷いんだけど。さすがに冗談だと思うけど、最近は本気か冗談か判断が難しい年頃の妹様だ。本気というのもあり得ないとは言えなかった。


「じゃあね、未来ちゃん。またお邪魔させて貰うから」

「別れは告げない。そう、あえて……ねッ!!」


 月見川さんと宇野宮さんは、妹様と別れを惜しみながらも部屋を出た。母さんにも挨拶をした二人……俺も母さんに「二人を駅まで送ってくる」と伝えて、夕暮れの空の下を近道ルートで道案内をし始めた。

 駅に着いてからはあっさりとしていたが、どうせ明日も顔を合わせるのだと考えると、それで良かった気がした。


 ――そして、真っ直ぐ帰宅した。寄り道も考えたが、財布の存在を忘れていた為に断念せざるを得なかった……。

 自分の部屋に戻ると、頼んでおいた片付けがまったくされていない状態で、妹様がベッドに寝そべっていた。のんきにお尻辺りをポリポリと掻いている。


「ただいま」

「お帰り~、いやぁ……なんか強烈な人達だったね」

「そうだな。まぁ、助かったよ」

「兄貴も意外とビックリしなかったじゃん? 私が急に清楚系に変身したのにさ。対応力あったのな?」


 俺は妹様が外では清楚、家ではズボラというのを知っている。だが、妹様は俺が知っている事を知らない。

 妹様に褒められるなんて久し振りな気がするし、あえて知っていたという事を話す必要は無いだろう。全力で話に乗っかる事にした。


「いや、凄いよ妹様は。演技派だな」

「ふふーん! やれば出来る子だからな、私は」


 それから妹様のご機嫌を取っていたら、いつの間にか夕飯になり、風呂の時間となり、就寝の時間が来ていた。

 いつもなら宇野宮さんとのメールをする時間なのだが、今日くらいはお休みにしても良いだろう。一通だけ、今日の事についてざっくりとした言葉を書き連ね、最後に「おやすみ」と打ち込んで送信した。

 ここ数日で規則正しい生活が身に付いたのか、すぐにでも眠りに就けそうだ。俺は明日の準備をし終えてすぐに、ベッドへと潜り込んだ。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)

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