第3話 屋上? いえ、最近は入れませんよ?
他の作品の更新も頑張るけど、序盤の方が書くペースが速かったりする(書くことはあるから)
よろしくお願いします!
登校してきたクラスメイト達が集まって、挨拶やら雑談を交わしている時になって、俺も体を起こした。
宇野宮さんはどうやら本を読んでいるみたいで一安心。これで心置きなく、男子達との親睦を深められるというものだ。
まずは、一番後ろの席という場所を活かして、周囲を見渡しながらの情報収集を試みる。
グループの会話を回している中心的な人物になりそうな人や、スポーツをやってる様な活発な奴がクラスを引っ張っていくのだろうな。
そこのグループや個人と親睦を深められれば、きっと良い感じのポジションに収まるはず……だ。たぶん……。
「なるほど、ね。なるほど、なるほど……」
気持ちはもう立ち上がり、席を離れ、クラスメイトの近くまで行っているのに……俺の体は椅子から離れていなかった。一歩も動いていなかった。
(――これはいったい何て事だ。くそぅ……)
頭では理解出来ていても、体が動かない。
急に混ざっても良いのか、何を話せば良いのか、ちゃんと会話を成立させられるのかを考えて……臆病風に吹かれてしまう。
人見知りでは無いとは思っていたけど……ブランクだろうか。
人との会話ブランクというものが存在していた――いや、ブランクは言い訳だ。そんなの分かっている。ただ……素の自分がビビりなだけだったのだ。
(あ、でも……宇野宮さんは少し話やすかったな……)
俺は頭を振って、考えた事をリセットさせる。今、自ら沼へと足を突っ込みかけていたのだと、危機感を抱きながら。
今日の時間割りはたしか、授業は無く、一年生は体育館へ集められて色々と話がある……みたいになっていたはずだ。
その時にでも誰かと会話するチャンスくらいはあるだろうと、動けない理由を探した。
このクラスだけじゃなく、他のクラスの人とだって仲良くなれるかもと……期待を高めるだけ高めて。
「はい、みんな席に着いてー。ホームルーム始めますよ」
チャイムが鳴って、担任の坂本先生がやってくる。
軽く見渡すという点呼と呼べなくもない点呼を取って、さっそく朝のホームルームに進んだ。
まぁ、今日の予定をざっくり話しただけで終わってしまったのだが……。
その理由は一応、これから体育館への移動をする為らしい。俺達は手ぶらのまま体育館へ移動するように指示を出された。
「近江君、参りましょう…………かっ!」
「……チェ、チェンジで」
「な、何でよっ!?」
別に、これと言って理由がある訳じゃない。
強いて言うのなら、無駄に“溜め”てきたからだ。まぁ、普通に言ってたとしても断っていた可能性の方が高いのだけど。
「宇野宮さん。俺が言うのもなんだけど、ほら……まずは、同性の友達を作ってからの異性じゃない?」
「大事なのは魂の共鳴。悪夢の導きにより引き寄せられた二人の迷宮……(細かい事は良いじゃない!)」
シンパシーより先の意味が全く解らなかったけど……たぶん、友達になりましょう的な事を言ってると思う。
二人の迷宮がそんな感じだろう。そうだとしたら、怖いんだけど。
「ちょっと聞くけど……宇野宮さんって、友達何人くらい居るの?」
「友は作らない様にしているの……失うのが怖くて……ね」
「居ないんですね」
「…………」
そうか、居ないのか。そうか……何か、ごめん。
目を覆う様に手を添えて、「やれやれ……」と口にしながら左右に頭を振っている。
やれやれと言いたいのはこっちサイドなのだが、少し可哀想だからこの話は流してあげよう。俺に飛び火するのも嫌だしな。
「そうか。友達は作らないか、その意思を尊重するよ。ソロ活動……応援し――」
「……と思っていたけれど、魂の友は別よ。ただの友達なんて不確かで曖昧な存在は必要ないわ。けど……魂の共鳴によって契約を交わした存在ならば、この隻眼に映す価値があるわね!」
歩くスピードを上げて去ろうとした俺の制服を掴んで、そんな事を言い出した。
別なんだ……と。案外ゆるゆるな決意だった彼女の顔を見ると、何故かドヤ顔だった。意味は分からない。
そのソウルメイトとやらが見付かる事を願ってはおくけど……とりあえずは仕方ないか。
魂の共鳴やら契約とかは知ったこっちゃ無いけど、ボッチよりはマシだろうと、体育館までは一緒に行くことにした。
「任せて……私は出来る魔女よ。貴方の懸念している事は分かっているわ」
体育館までの道を、宇野宮さんは隣で目に手を添えるポーズを取って歩いていたけど、ただひたすら目立っていただけだった。
何が出来る魔女なのか、俺の何を分かってくれていたのかを問い詰めたい所だ。
だがそれよりも『偶々、同じペースで歩いていただけですよ?』という雰囲気を演出していた、俺の細かな努力は報われているのか、今はそれだけが気になっていた。
「なんか凄い二人居たよね? 男女の」
「あのポーズ取ってた二人でしょ?」
「うんうん。男子の方も顔は格好良かったけど……ヤバめ?」
――報われていなかった。
それどころか、誰かの頭の中では俺もポーズを取っていたという事になっているみたいだ。
ただ……宇野宮さんが目立ち過ぎて「男子の方は普通」という声も少しだけ聞こえてきた……意外と悪くは無いかもしれない。
あの自己紹介を聞いていない、他クラスの人まで居るこの状況下で、さりげなく背中合わせに持っていこうとしている宇野宮さんの精神力は凄いと思う。が、させない様に俺も動きながら対処する。
さて……どうしようか?
体育館へ移動して来た訳だが、一度職員室へと戻った先生達はまだ来ていない。
このままだと俺は、指示を出してくれる人が現れるまで宇野宮さんの隣で悪目立ちしてしまう事となる。
「ふっ……まるで烏合の衆ね(けっこう人が居るのね!)」
「たしか一年生は二百人くらい居たと思うよ? 覚えられる気がしないなぁ」
「一人……いえ、二人程こちらを狙っているわね。近江君、油断しないで」
「お、近江君?」
そう言えばさっきも然り気無く呼ばれた気がしたけど……。あの宇野宮さんとはいえ、女子に名前を呼ばれるのは妙にドギマギしてしまう。
悪い気はしないけど、何かこう……落ち着かない。
「……えっ。だ、駄目?」
「いや、良い……よ? ちょっと驚いたというか、ね?」
「そ、そう? 良かった……じゃなくて、ふ、ふんっ! 情けないわね、近江君!」
それから眼帯を着けていない方の瞼を閉じて、呪文の様な言葉をブツブツと呟きだした。
どうやら、探索系の魔術で対象者を探り出しているらしい。
そのお陰で、俺はその場を離れるチャンスを手に入れる事ができた。なんたる僥幸だろうか。
俺は、気付かれぬ様に足音を立てず、気配を消しながら、他の生徒達に紛れ隠れる様にに移動していった。
遠く離れて確認した際、キョロキョロしている宇野宮さんに、少しだけ罪悪感を覚えた。俺もまだまだって事なんだろうな。
◇◇◇
体育館に集められて始まったのは、主に教科毎に担当する先生や学年主任の先生の挨拶。それと、その他諸々の今後の学校生活における話だった。
午前中の半分はそれで終わり、残り半分も教室でのロングホームルームで潰れた。今は高校生活初めての、お昼休みの時間だ。
クラスの大抵の生徒は弁当を持って来ている。購買にパンを買いに行く生徒は少数みたいだ……飲み物を買いに行く生徒は多いみたいだが。
俺も弁当持参組で、外や他のクラスへの移動は自由らしいが、今日は無難に自席で食べる事にした。
――そろそろ、意気揚々と教室から出て行った宇野宮さんが、屋上に入れなくて肩を落としながら帰ってくるだろう。
「強固な護りの結界に阻まれたわ……。最近の学校の良くない所ね、屋上こそ闇の力が増幅する場だと言うのに……」
(やっぱりか……)
教室に戻るなりこれだ。
このクラスの面々の順応性が高いのか、みんなもだんだんと受け入れ初めている。
受け入れ始めるというのはつまり、宇野宮さんとは話が合わない……と諦めてしまっていると、もしかしたら言えるかもしれない。
クラスメイト達の中に、話し掛けるタイミングを狙っているだけで、まだ話し掛けられてないだけの人だって居るのかもしれない。
でも、それなら一刻も早く話し掛ける事を是非オススメしたい。
「近江君の真名も考えてあげるわ……それとも、もうあるのかしら?」
「あぁ……うん! 大丈夫、何も考えなくて平気だから! とりあえず背後で椅子の背凭れにお尻を乗せてサンドイッチ食べるの辞めない?」
「うるひゃいわね……(モグモグ)」
俺の場所を交換してくれる方が居るのなら、いつでも替わろうじゃないか。オススメする理由その①、俺が楽をしたいから。その②は……特に無いな。
そんな俺のささやかな願いは叶う事なく、昼休みに宇野宮さんに話し掛ける人物は女子にすらいなかった。ついでにというか、当然というか……俺の所に来る人物もだった。
たった一人、満足そうに話している宇野宮さんの声を聞き流していると、あっという間に昼休みが終わりを迎えた。
何も得るものが無い、むしろマイナスという厳しい時間となった。
「ふふっ、記憶に刻まれたわね」
正直、話している事はあまり覚えていない。そして、原因は自己紹介だと思うが、どうしてあれでここまで懐かれたのかも分からない。
ただまぁ……宇野宮さんはいつも英語の本を読んでいるらしいのだが、その実、英語が苦手という暴露話は面白かったが。
過去の自分がやっていた事を、宇野宮さんもやっている事に危機感はあるが、俺のはもう過去の事だからな。
「……おっと、そろそろチャイムが鳴るわね。では、鎮魂歌に誘われない様に……(午後は眠たいけど頑張ろうね!)」
「そうだな」
とりあえず、言っている事が解らなくても何かを返答すれば、かってに解釈とヨイショをしてくれる宇野宮さんだ。
意外と会話の相手としては楽なのかもしれない。難しいのは言葉だけで内容はそうでも無いからな。
次の授業は何をする時間か知らないけど、勉強以外なら何でも良いやと思いながら、先生が来るのを静かに待っていた。
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