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第17話 まだしばらくは、ね


お待たせしました~


 


「はい、三組も移動してください」


 昼食の時間も終わり、また移動らしい。

 次は多目的室のある建物に向かい、クラス毎でのロングホームルームという名の仲良くなりましょう的な時間みたいだ。

 何が行われるのかは今のところ判っていないが、とりあえず普通で居る努力はしないとな。


「あれは、私が選定の剣を抜けなかった頃にまで(さかの)って……」

(抜けなかったんだ……それは英国側からしても良い事だな)


 移動中は謎の宇野宮さん叙事詩(じょじし)を聞かされ、その設定の甘さにはあえて何も突っ込みを入れず、ただ聞き役に回っていた。

 前世の話を嬉々として語る姿に過去の自分が重なり、何にも言えないというのが本音だ。


(それに、俺の暗黒世界での魔王としての話の方がもっとしっかりと……)


 そこまで考えて、また宇野宮さんに黒歴史を思い出させられていると思い、考えを放棄した。

 宇野宮さんを反面教師にしようとすればするほど、自分の過去をまざまざと見せ付けられるというデメリットがあった。

 しかも、そんな話をしている時もちゃんと楽しいのが、逆に良くない。


「それで私が旅に出て出逢ったのが……」

「教室に着いたみたいだよ、宇野宮さん」

「おっと、流石に我が歴史を語るには時間が短すぎるみたいね。続きはまた今度」

「へいへい」


 多目的室とは言っても普通の教室より少し広いくらいの広さ、テレビモニターとホワイトボードがある以外は、特にコレと言ったものは無い。

 机も、椅子も本だって無い。

 そうなると……今からやる事は限定されてくる。

 みんなでビデオを観る。ホワイトボードを使った何か。それか、何かしら話し合いぐらいだろう。


(可能ならビデオは仲良くなれそうに無いから違うと言いけど……)


 坂本先生の指示で俺達は、出席番号順に並ばされて、そして、男女共に三人ずつ六つのグループ(最後の俺の班だけ四人だが)に分けられた。

 一緒の班に三宅君が居るのはとてもありがたい。それに、同じ部屋でもある前田君と話す良い機会だ。

 仲良い……とまではいかなくても普通に話せる間柄にまでなれれば上々だな。

 それともう一人……平嶋(ひらしま)君だったか、彼とも仲良くなれれば最高だろうな。


「何が始まるんだろうな?」

「さぁ……授業じゃなきゃ良いけどね」


 三宅君と話している間に、先生がホワイトボードを用意していた。

 書いていく文字を目で追うと『グループで話し合おう』と書かれて終わった。

 所謂(いわゆる)、グループトークってやつか。

 お題を決め、それについて話し合う事で仲良くなろうという魂胆(こんたん)。実に良いと思います。

 たしかに意見が割れる事もあるだろうが、それも込みでお互いを知れば良いのだから。

 後は上手く話せるかが問題だけど……そこは、コミュニケーション能力の高そうな三宅君に任せながらやっていけば大丈夫だろう。


「おいおい、これはチャンスじゃね?」

「だな。女子と合法的に話せる」


 前田君と平嶋君が振り返り、嬉々として、だけど声は小さめにそう言った。

 イケイケ男子なら何の用事がなくとも、普通に女子へ話し掛けられるのだろうが、普通男子にはそれが難しい。

 彼等もたぶん、俺と同じで自分をイケイケとは思っていない……思えないタイプなのだろう。

 特定の女の子と仲良くなれば、世間話だって気軽にできるのかもしれない。だが、そこに辿り着くまでが……いや、最初を踏み出すキッカケが俺達にはどうしても必要になる。


「ちょっと固まってくれ」


 そんな事を考えていると、三宅君が声を掛ける。

 その声に従って、平嶋君を除く俺と前田君が三宅君に近付いた。

 先生からは当然見えているだろうし、本当に身体を寄せる程度にだけ動く。


「これはとどのつまり――合コンだ」

「「――っ!?」」


 小さい声。女子にも届かないだろう声量で、三宅君はそう言った。

 危うく声が出そうになったとこを何とか(こら)えて、続きを(うなが)した。


「つまり、これは女子と仲良くなる前に、俺達がひとつになってないといけない。勝負を焦りすぎた誰かが女子に引かれたりしたら、他の面子も同類と思われるだろう」

「まさか先生は、俺達にチームプレーをさせようという狙いが?」

「あぁ、おそらくな。男女で仲良くなる為と思わせて、実は男子は男子、女子は女子で協力させる……という狙いだろう」


 三宅君と前田君の話には混ざらず、ただ耳を傾けていた。

 坂本先生、あんなにほんわか説明しているのに、裏ではそんな事を狙っていたとは……深い考えに脱帽だ。

 そして、それに気が付いた三宅君も凄い。

 たしかに、俺が女子と仲良くなろうと暴走気味になったら一緒の班のみんなに迷惑を掛けてしまうだろう。


(女子を落とすなら、まず男子と仲良くせよ……か)


 だとするのなら、まずは俺達四人だけでも協力していかないと。

 まだ、名前以外はロクに知らない間柄。出来るだけ仲良く見せる為にも情報の共有は必要だろう。

 なんか、本当に合コンっぽいな。


「じゃあ……どうする?」

「四人で話せる時間は短いから……だから全員の意思として、女子は平等に褒める事と、お互いを下の名前で呼び合う事。それと、クラスに狙っている子が居るなら邪魔しない事を提案する」


 前田君の問い掛けに、スラスラと答える三宅君。

 なんか……三宅君がかなり慣れている気がしないでも無いが、今は頼りになる。

 とりあえず俺も、その提案には合意しておいた。


「はい! 男子は動いてー」


 いつの間にか話し終わっていた先生から男子に、ある程度の距離を取るように指示があった。

 全然聞いていなかったが、動けと言われるがままに、俺達は多目的室の後方へと動いた。

 この短い移動の時間に、平嶋君を加えて俺達の話し合いは続く。


「とりあえず下の名前を確認するぞ。平嶋君が優希(ゆうき)、前田君は聖二(せいじ)、山野は近江(おうみ)だったな。俺は大輝(だいき)だ」

「よく、覚えてんな……まだ数日ってのに」

「下の名前で呼べば良いんだよな? 了解了解!」


 会話が流れていく間に、みんなの名前を頭の中で繰り返し、間違えない様に気を付けておく。

 平嶋優希、前田聖二、三宅大輝。よし、とりあえずこの三人の名前は大丈夫だな。何となく距離感も近付いてる気がするし、もう既にちょっと楽しい。


「ふっふっふ……実は知り合いの先輩にこのオリエンテーションの事は聞いていてな。事前の準備は万端って訳よ」

「ほー。じゃあ、女子の名前も覚えてんの?」

「とりあえず名字はな。どうせ部屋に戻ったら誰が可愛いかの話し合いになるだろ? その為に三人も、決めておいた方が無難だぜ……って、聞いてんのか近江?」

(ヤバい、全然聞いてなかった! 何か重要な事でも言ってたか!?)


 でも、聞き返すのを躊躇(ためら)って「お、おう……」と頷いてしまった。


「まぁ良いか……じゃあ、女子には愛想良くな!」

「ここでグッと距離が近付けばチャンスか? やっべ、チャンスじゃね?」

「だな! 近江、顔が良いからって女子に愛想良くするなよ? お前はもう彼女居るだろ?」


 ――おや?

 大輝の鼓舞(こぶ)に、優希のやる気。ここまでは良い流れだったはずなのに、前田の聖二君からおかしな発言が聞こえてきたぞ?

 顔を褒められた所までは嬉しかったが、そこから先、不穏なワードが聞こえたな。間違いなく。

 これは訂正しないといけない案件だ。


「俺、彼女居ないけど? できた事すらないし……」

「「「はぁ!? 宇野宮だろ!?」」」


 それほど大きい声は出していないとは言え、三人の声が見事にハモると流石に響く。

 俺は周囲を確認して、こちらを気にしている視線が無いか確めた。他の人達まで聞こえてはいなかったのだろう……宇野宮さんと目が合っただけだから、特に問題はない。

 宇野宮さんはたまに「深淵を覗くとき……」という台詞を言いたいが為に、わざわざ俺の方を見ている事があるのだ。

 だから、問題という問題はない。一安心だ……。


「それって……もしかして共通認識だったりする?」

「あぁ、そうじゃねぇの? 俺達三人共……今のハモったのだって、前に近江達の事を話していたからとかじゃないぞ?」

「だって……なぁ?」

「宇野宮が話してるの近江だけじゃん?」


 いや、うん。たしかにそうかも知れないが……。

 宇野宮さんはただ、話し掛けやすい俺に嬉々として話し掛けてくるだけで……そこに恋愛感情は、きっと無いんだろう。


「と、とりあえず誤解だから。付き合ってないから!」

「ほほぅ~……でも宇野宮って顔は良いじゃん? 狙ってる奴も多いんじゃね?」

「それ、あるかもな。他のクラスの奴にも宇野宮は既に知られてるからなぁ……大丈夫なん?」


 何だろう……そう言われると、心がモヤモヤっとする。

 あの宇野宮さんを狙う人が居るって本気だろうか? たしかに顔は良いけど、それだけで?

 だが仮に、そんな宇野宮さんと誰かが運命の出会いを果たしたとしたら……。

 全ては宇野宮さんの決める事とはいえ、考えると不思議とモヤモヤが積もっていく。


(そうこれは――アレだ。飼っていたペットが他人に懐いちゃったみたいな。うん、そうに違いない)


 少し遠くに居る宇野宮さんを見て、目が合った。

 まだ入学してまもないのに、最初の挨拶でスベって眼帯も外しているのに……どうしてあそこまで構ってくれるのだろうか。


(また宇野宮さんは……まったく。面白いけどさ)


 遠くで変なポーズを取って見せてくる宇野宮さんを見ると、思わず笑いそうになって、小さい事なんてどうでも良く思えてくるから不思議だ。

 うん……理由は気になるが、今はそんなに気にしない方が良いのかもな。


「宇野宮さんの事は宇野宮さんが決めるって。ただ……」

「ただ?」

「もうしばらくは、他の男子に渡したくないかな」

「おい、イケメンがイケメンっぽい事を言ってるぞ。はい、撤収(てっしゅう)


 三人が俺に背を向けて、固まる。

 何となく疎外感だが、何か変な事でも言ってしまったのだろうか?


「えっ……ちょ、待って!」

「さ、ローテーションで行くわよ! 次は女子も移動して」


 先生からの掛け声で、女子が移動してくる。

 三人を止めようと伸ばした腕は、残念ながらタイミングが悪く、静かに戻すしか無かった。

 他の三人がいつの間にか床に座って待機しだしたのに(なら)って、俺も隣に腰を下ろした。

 若干、心の距離感が出来てしまった様に感じるのは……き、気のせいだよな?




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)

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