第16話 完全復活
ふっ……予備弾丸が無くなったか……くくく
あーっはっはっは!(ヤバい、どうしよう……)
とりあえず、よろしくお願いします!
「おっ、山野。もう、ベッドは下しか空いてねーぞ?」
「おぉ……二段ベッドなんだ。いや、下で大丈夫だけどさ」
部屋に入ると、両端に二段ベッドが縦に二つずつ。右奥に横向きの二段ベッドが一つ置いてあった。
空いているのは入り口近くの下段で、特に理由もなく右側の下を寝る場所に決めた。
左奥のスペースに貴重品を入れる小さい金庫が一つある。だがまぁ……風呂の時以外は自分で持っていた方が良いかもしれない。
荷物は纏めて置いてあり、みんなと同じ場所に俺も置かせて貰った。
「んで……次、どうすれば良いの?」
そう口にしたのはたしか、三宅君の前の席に座る前田君。
まだ会話をした事が無いだけに、答えるのに躊躇ってしまう。
誰かが答えるだろうと周囲に視線を向けると、これまた話した事の無いクラスメイトが代わりに答えてくれた。
「たぶん、一階に集まるとかじゃない? 予定表的に」
「そか。じゃあ……行きます?」
その声でベッドの上に居た人も降りてきて、部屋の全員で外に出る。
部屋の鍵は、部屋に入った時には既にあったらしく、名前を忘れてしまったけど、誰かが施錠をしてくれた。
鍵があるならスマホと財布も置いてくれば良かったと、少しだけ重みのあるズボンの位置を直した。
俺達グループが部屋を出てからすぐに、他の部屋からも同級生達が次々に出てくる。
誰が誰と仲が良いなんてしらないが、同じ部屋の奴等のほとんどは別の部屋やクラスの人達と合流し始めた。
俺は何となくで三宅君の後を追うようについて行き、階段を降りて一階に着いた。
「はーい、ここじゃ止まらないで一旦、外に出てね」
先生の誘導に従って、俺達集団の波は外へと流れ出た。
やはりというか、宇野宮さんは居ない。ちゃんと静かに休んでいれば良いんだが……ふざけ出さないか、心配だ。
「はい、クラス毎に並んで待機! これから別館で施設の方からいろいろとお話があるのでしっかり聞くように!」
学年主任の松谷先生の声はよく通る。
ガヤガヤとお喋りしながらも、俺を含む同級生達はクラス毎に整列をしていった。
移動は基本的に一組からで、並び終わって先生が諸々の確認を取ったらすぐに移動となった。
別館と言ってもそう離れている訳じゃない。校舎から体育館に移動ぐらいの距離感だろう。
――かと思っていたら、実際に着いた場所は体育館だった。
たしかに、二〇〇人もの人数をいっぺんに収容する場所として一番効率が良いのは体育館ではある。
たった今、施設長から挨拶と施設を利用する際の注意点や歓迎の言葉が語られている。
勉強する場所はまた別の建物になるらしいが、基本的に団体行動だから迷うなんて事もない。
他の利用客に迷惑を掛けない事だけを気にしておけば、特に問題もないだろう。
「ですから皆さんには――」
大切な事を言っているというの分かるのだが、そこは食べ盛りの高校生。時間的にもお腹が空いてしまい、施設長の言葉に集中出来ていない人も多いみたいだった。
あからさまにイビキを掻いて寝ている……なんて奴は居ないけど、隠す様に欠伸をしたり、視線が下を向いている人は少なからず居るみたいだった。
「では皆さん、よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします!」」
長かった施設長の話がようやく終わり、失礼な事かもしれないが、みんなが一様にホッと一息ついた。
次の昼飯に早くも気持ちが向いている生徒が次々と増えているが、そこさら更に先生からの話が始まった。
ガッカリしても言い返す言葉なんてありはしない。
俺達は早く終わる事だけを願い、お腹の虫が鳴かないように祈る事しか出来なかった。
◇◇◇
「完! 全! 復! 活! 私は闇の底から何度だって甦るの……」
昼食はこれまた別館の食堂で、時間を区切って学校が貸切状態にしていた。
広い食堂に同じメニューがずらりと並んでいる。
バイキング形式ではなく、既に決められているパターン。ホテルではないのだから当然の様に思えるが……期待していた人も少なからず居たのだろう。
お昼の料理のメニューは、魚がよく獲れるからか、プチ海鮮丼とプレートに焼き鮭と野菜の盛り付け、そしてアサリの味噌汁という内容だった。
席はクラス毎に場所がある程度決められているものの、特に指定はなかった。
その結果として……回復した宇野宮さんが、さも当然かの様に隣に座ってきたのだ。
「もう、平気なの?」
「くっ……左目が疼く!!」
「平気そうなら良かった」
「……悪魔の実を一度口に含めば、我が魔力の暴走が始まるだろう……(トマトは嫌い!)」
「俺の皿に隠す様子も無く移すのはまぁ良いけど……これはメモして月見川さんに報告だな」
「ひ、卑怯よっ! あの女は敵の組織の構成員。馴れ馴れしくすると、背後から刺されるわよっ!?」
まぁ、これだけ話せていれば空元気という事はないだろうな。
俺は『いただきます』をして、プチ海鮮丼に箸を伸ばした。
魚の歯応えというか、弾力が凄い……なんて、誰でも言えそうな感想しか出てこなくて作ってくれた人には申し訳ない。
とりあえずシンプルに美味しい。それだけは、ハッキリと言える事実だ。
「近江君、ここのボスから何やら報せがあったとか?」
「……あぁ、施設についてとか、利用上の注意点とかね。食べながら要点だけでも教えてあげる」
「それは助かるわ。私もネットで情報を集めておいたから任せて!」
俺が施設長からの話をざっくりと教え終わると、宇野宮さんが饒舌に話し出した。
やれ『近くに○○がある』やれ『絶景スポット』……もしかして休んで無い? むしろ、休む必要なかったんじゃない? ……と言ってしまいそうになるくらい、調べていた。
「でね、近くに桜が綺麗な場所とかあるんだって! 他にはこ、恋人達に人気の……小さい鐘を鳴らせる場所とか! あるんだって!」
「へぇー……」
「反応薄っ!? 何でよっ!」
(いや……そんな場所に行ける自由時間とか、無いじゃん……。桜は来る時のバスからも見えたし)
宇野宮さんがしたことは、つまり、無駄な努力である。
この後はまた別館に移るし、その後は各部屋に戻って終わり。ざっくりと言えば、そんなもんだ。
だが、俺は知っている。というか、予知できる。
みんなが夜寝静まった後に、宇野宮さんは動き出すだろう事を。
これは早急に対策が必要で、巻き込まれ無い為にも何かやっておかなければならない。
例えば……坂本先生にチクっておくとか、月見川さんにチクっておくとかだ。
他力本願なのが申し訳ないが、女子と男子で部屋が別けられているからこれは仕方ない。宇野宮さんの凶行を、俺では瞬時に止められないのだ。
(俺がやれる事と言えば……そうだ!)
「今日もメールするんでしょ? だから……部屋で大人しくしていて下さいね?」
「そ、そうね! そうだったわ! でも、抜け出せ……うわぁっと! 何でもないわ!! 忘れてないとは良い心掛けね、近江君!」
これで大丈夫と安心するのはまだまだ二流。
宇野宮さんは一流の中二病だと信じているからこそ、抜け出させない為の策を打っておかないといけない。
追加で、同室であろう副委員長にも通達しておこうかな。
昼御飯を食べ終えた俺は、トイレに向かった。
そして戻り際に、一組の人達が座っている場所から月見川さんを見付け出した……所までは良かったが、流石に他のクラスメイトと話している所に割り込む事は出来なかった。
急に馴れ馴れしくするのも違うだろうと、自分の足を止めてしまった。
いつまでもただ立ち止まっていれば、一組の人達から変な奴と思われるかもしれない。
月見川さんからビンタされた瞬間を見た人が一番居るクラスでもある訳で……本人とは和解したとは言え、他の人達はそれをしらない。
俺はちょっとした気まずさを抱えながら、足早に自分の座っていた席へと戻っていった。
◇◇◇
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