第14話 ギリギリセーフ
大変ながらくお待たせしました。
アルファポリス様に14話話目を投稿しましたので、こちらでも最新話を更新です!
よろしければ、縦書きで読めるアルファポリス様の方もよろしくお願いします!(´ω`)
そろそろ高校生活というものにも余裕が出てきた。
目を覚ましてから、顔を洗い、制服に着替えて家を出る。
本来ならリビングで朝食の時間を挟むのだが、今日は抜きだ。
起きた瞬間に感覚的に分かる気配で、寝坊を確信していたからだ。
わざわざ確認するまでも無く、妹様は登校済みだ。父さんは出張中であるため、家には母さんしか残っていない。
母曰く「何度も声は掛けたのよ」とのことだ。記憶はうっすらとある……この寝坊は、俺が悪いな。
この時、時計は八時を指していた。集合時間は八時三〇分。
駅まで八分、電車で十分、そこから学校まで十分。走る事を前提とするが、少し余裕を持たせた計算でも二分前には着く。
電車のくだりがスムーズに行けば、もう少し縮められるかもしれない。
「行ってきます!」
「気を付けるのよ~」
今日は金曜日。空は晴れていて、気温も含め、良い天気だ。
学校に着いた一年生は、グラウンドに集合して、全体ホームルームの後に、バスに乗り込む予定になっている。
家に戻ってくるのは土曜日の夕方頃になるらしい。
慌ただしく家を出た瞬間に、スクールバッグとは別に用意していた着替えの入った鞄を部屋に忘れた事に気付いた。
さっそくの失敗に、テンションが下がる……。
そして、こんな日に限って向かい風。しかもいつもより重い荷物のお陰もあって、走れば走るほど汗が噴き出てくる。
時間ギリギリだと登校している生徒は見当たらず、そんな状況に妙な不安感が心に生まれた。
なんとなく、胃や腸が緩くなっていく気がする。
特にセットをしていた訳では無いが、風で髪はボサボサ、それでもラストスパートだと、走るペースを上げていく。
ただ……残念ながら、気持ちの中でしかペースは上がっていない。
それでも、集合時間の数秒前に……ギリギリで滑り込めたみたいだ。
すでにクラス毎に別れて、待機していた同級生達の視線が痛い……。クラス担任の坂本先生だけが、ホッとした表情をしてくれていた。
「す……すいません。はぁ……す~っ……ふぅ。寝坊しました」
「ギリギリ遅刻ではありませんが、もっと余裕を持って動きましょうね。ホームルーム始まるから、並んで」
各クラス、男女一列ずつに並んでいる。
出席番号順で並ぶ時、一番最後というのは最後尾に行けば良いだけだから楽だ。
端のクラス……五組の横を通る際に、視線が刺さる。遅刻者の末路だな……。
「うっす、山野。ギリギリだったな?」
「朝から疲れたよ……おはよう三宅君」
挨拶の流れから、遅刻ギリギリの原因について話した。
だが、話の途中で拡声器を手にした学年主任の先生から話が始まって、中断となってしまった。
(ふぅ……暑いな)
一番後ろに並べるのが良かった……流れる汗をタオルで拭いていても目立たないし、少し後方に幅を取っても文句を言われない。
それに……ホームルームもすぐ終わらせるつもりなのだろうか、立ったままの状況だが、今は助かっている。
(……ん? 宇野宮さんからのジェスチャー? サッパリ分かんないから無視で良いか)
学年主任の話が終わり、校長先生からの話になっても、俺は流れる汗を拭く事に夢中で、聞こえてくる声に集中できていなかった。
「一組から順にバスへ乗り込んでくださーい!」
気が付けば……いつの間にかバスへと乗り込む時間になっていた。
一組、二組とバスの停車している場所まで移動を始め、そしてすぐに三組の番になった。
拭いても拭いても……まだ汗は止まらない。
バスで座って一息つければ、少しは落ち着けるだろう……そう思いながら鞄を肩に掛け、三宅君に続いて歩いて行く。
そのタイミングで思い出した、真面目になれるグッズ代表の伊達メガネを、俺は制服の右ポケットから取り出して装着した。
遅刻ギリギリだった今こそ、ベストタイミングだろう。
真面目さを少しでもアピールする為に持ってきた伊達メガネ……たぶん効果はあるはずだからな。
「はーい、中に入ったらとりあえず、出席番号順に前から座って下さい。男子が左で女子が右に。ちゃんと順番に二人づつ座るのよ」
「え~、後ろの方が良いんだけど~」
「点呼取ったら動いて良いわよ。でも、バスが動いたら立ち上がるのは禁止ね」
バスに乗る前の先生とクラスメイトの会話で、他のみんなもして良い事を把握した。
言われた通りに座っていき、俺の場所は前から数えて十列目。
男子の数は一九人で奇数、女子の数も一九人で奇数。
つまり、出席番号が最後の男女は、運良く座席を一人で使える事になった。
友達を増やす目的からすれば致命的なボッチだが、今は汗が引いていないし、一人で良かったと思った。
バスの中は空調が良い感じに涼しく設定されていて、バスの運転手には感謝の言葉を投げ掛けたいくらいだった。
降りる時には気持ちを込めてお礼しないとな。
「じゃあ、予定表を配るから前から回して。点呼は……山野君が来たから大丈夫ね。予定表は目を通しておくように。乗り物に弱い子は、今の内に前に来ても良いわよ。でも、もうすぐ出発するから早めに移動してね」
坂本先生の話の後に、俺に予定表が届いたとほぼ同時に、男子数名が一番後ろの長い座席へと移った。
元より俺の座席は後方寄りだ。何より窓際に座れるし、一人だし……移動するつもりは全くなかった。
予定表は数枚のプリントがホッチキスで留められている簡単なもので、後にしようと鞄にしまっておく。
バスのエンジンが動きだし、窓からは一組の乗るバスが出発したのが確認できた。
もう少しでこのバスも出発……というギリギリのタイミングを狙ったのか、彼女がやって来た。
「サッ……ササッ……シュパパパパ! ふっ……眠り姫の光とならん!(お寝坊な近江君、おはよう!)」
「えっ、ここに座る気!? 荷物……は?」
「空間魔法のアイテムボックスでしまっている……そ、その封印具は何!?」
どうやら荷物はそのままに、移動だけしてきた宇野宮さん。
眼鏡について触れてくれたのはありがたいが、だからといって、座席に置いていた俺の荷物をせっせと俺の足元に移すのはどうだろうか?
百歩譲ってそれは良いとしよう……だが、女子が男子の列に座るのは少しくらい気にして欲しい。
別に怒られるような問題は無いが、何かと問題がある気はしている。俺でも分かる。
だって……気のせいじゃなく、周囲から視線がチラチラと飛んで来ているし。
「あの、宇野宮さん? 今ちょっと汗かいちゃったから……一旦、席に戻って欲しいかなぁーって」
「ふっふっふ……抜かりは無いわ。はい、汗拭きシート……一枚あげる!」
「あっ、ありがとうございま……いや、助かるけどそうじゃなくて!」
「出発するみたいよ! これはもう、席は動けないわね!」
汗拭きシートの件は素直にありがたいく貰っておくが、正直に言ってしまえば、隣から離れて欲しい理由は汗じゃなくて昨日のメールの件だ。
格好良さげな台詞の後に返信が無かったのが……俺の心のどこかにモヤモヤっとした恥ずかしさを残していた。
ネタをネタとして返した筈が、何も返って来ない恥ずかしさ。
もしかすると、実はまだ読んでないパターン? という、話題に出すか否かを迷ってしまうやつ。
宇野宮さんを見るといつも通りで、俺が気にし過ぎなのかもしれないが……気恥ずかしさってやつは、どうにも消えてはくれないみたいだ。
「さ、近江君……アレ……出して?」
「あ、アレ?」
「とぼけなくて良いのよ……そこに隠してるアレよ」
宇野宮さんの視線が下の方へと動き、ソワソワとし始める。
俺はその視線の意味を理解し、宇野宮さんもやっぱり普通の女の子なんだなと、ニヤリ……笑みを浮かべた。
俺はチャックを開けて、ソレを取り出す。
宇野宮さんが待ってましたと言わんばかりに飛び付きそうなのを制して、『待て』をさせた。
「近江君……早く、ちょうだい……?」
「仕方ないなぁ、宇野宮さんは……さぁ、お食べ」
俺が彼女にあげたのは、昨日買っていた『お菓子』だ。
お菓子を買うことは昨日の内から宇野宮さんは知られていた事。
なるほど、そう考えると移動してきたのにも納得である。
「なんか、チョコ系が多いわね? ま、私はグミを買ったから近江君にも施してあげるわ!」
「そりゃ、どーも。ちゃっかりしてるね、宇野宮さん」
「ふふん! これで移動時間も退屈しなそうね! さ、終末を楽しみましょうか!」
今日は一段とテンションが高い様子。
宇野宮さんなりに、今日を楽しみにしていたのだろう。
お菓子が思っていた三倍早く消費されていくが……それもまぁ、良しとしようじゃないか。
「あ、近江君! 昨日のメールの台詞……最高だったわよ!」
「いや、どのタイミングでっ!? 忘れてくれてた方が全然良かったよっ!」
宇野宮さんが言うには、これからバスは学校が予約している海の見える岬付近にある団体客を受け入れてくれる宿舎へと向かうらしい。
入学したてでそんな豪華な体験をして良いのかと不安にもなるが「金はしっかり徴収されているわ……」という宇野宮さんの発言で、現実にビンタされた、そんな気分に陥ってしまった。
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