第1話 上には上が居たので、俺は卒業します
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シーン……と静まり返った教室の中。ヤバい人が視界に映っているが、今はそれどころではない。緊張で震える手を必死に抑え込んでいた。
教壇に立ち、俺は……静かに口を開いて告げた。
「初めまして、皆様。私は山野近江と申す者です。この眼帯が気になるとは思いますが……言えぬ事情がありますのでお気になさらずに。今後とも、よろしくお願い致します」
――完璧に決まった。そして……これで自分の過去とはおさらばにする。
高校の入学式を先程終えて、今は教室で自己紹介の時間。
ここで失敗をすれば、今後の学校生活に深く関わってくる事は誰でも理解できると思う。
数週間前まで通っていた中学校での生活。暗黒のボッチ時代。
アニメや漫画のダークヒーローや、格好いい言葉の羅列に魅力され、影響されたのは中学二年生になった時だった。そして、誰も話し掛けに来なくなったのもそこからだった……。
自分で言うのもなんだが、両親のお陰で顔は悪くない。
一人で過ごす時間も多かったし、勉強も苦手ではない。
頭も良くて勉強もできる。ただ、中二病だったのが中学時代の俺である。
「そ、そうなのね。怪我とかじゃなくて良かったわ」
「それは心配をお掛けしました、坂本教諭」
クラスの右半分、六列六列七列に並んだ席の男子最後の自己紹介が山野という苗字の俺。流れを滞らせてはいけないと、教壇から自分の席へと速やかに戻っていった。
次からは女子の順番。だが俺は、クラスメイト達の自己紹介を流すように聞きながら、少し……物思いに耽っていた。
「……えー、早く高校生活にもなれて友達ともいっぱい遊べたら良いなぁ~って思ってます! よろしくお願いします!」
男子と同様に女子もが普通で何の変哲も無い自己紹介が淡々と流れ作業で進んでいく。
(やっぱり……そうだよな。“普通”か……)
自分の他者からの評価については重々理解している。
一時の過ちや、お遊び程度のノリなら許される事でも、普通ではないそれを普通にしていたら周りから浮く。
だから、俺は卒業しようと思っていた。この自己紹介の時間を最後として。
過去とはここでおさらばにする――では、何故にリスクを冒してまでわざわざ中二病チックな挨拶をしたのかと言うと……一縷な望みに託してだ。
もしかすると、受け入れて貰えるのではないかという淡い期待。
結果は、クラスメイトや先生の戸惑いが答えであった。
(でも、まだ……おふざけで乗り切れるよ、な?)
スムーズに進行していた自己紹介の流れが急に止まり、それを不自然に思って教壇へ視線を動かす。
そこに、納得の理由が在った。
「えっと……先生もちょっと初めての事というか、一人でも驚きなのに二人目だから少し困惑して……次は宇野宮さんの番だけど、その前に……その眼帯は怪我なのかな?」
「ふっ……この力を感じ取れないとは」
背中まで伸びた綺麗な黒髪。
大人びた顔つきで、深窓の令嬢を思わせる雰囲気が在るのに、左目には眼帯をしていた。
深窓の令嬢どころか、漆黒の堕天使とでも言いたげな雰囲気を出している痛々しい女子のクラスメイトが……そこには居た。
男子が歓喜の声を上げるレベルの容姿、不思議な力が発揮されているのか、眼帯さえも彼女の魅力として引き込まれそうになる。
だが……他の者と違い、俺は決して騙されない。
あの眼帯と喋り方……間違いない。彼女は所謂――『中二病』と言うやつだろう。
自分が全能……もしくは特別な力を持っていると信じ込んでいる憐れな同朋だ。
注意する者が居なかったのか、あそこまで病気が進行していたらさぞ大変だっただろう。
(俺みたいに魔王の力でも封印している本物なら話は別だが……っ! 落ち着け俺! 過去はもう忘れろっ!)
「なぁ、あれってお前の知り合いか? まさか、高校に上がっても中二病……というか、ここまでガチな奴が居るとかウケるんだけど。山野だっけ? お前のは流石にネタだよな?」
「あっ……うん。知らない人……ですね。俺のは何て言うか……最初だから頑張った……というか?」
――俺は苦笑いを浮かべながら、姿勢を正して静かに眼帯を外した。
ついでに掌に貼っていた六芒星のシールをソッと剥がしておく。ポケットに入っている謎のチェーンは今後一切、出番が無いだろう。
俺は軽く俯いて固まる。
(やっぱり、そうだよな……高校生になってまで中二病は、痛い奴でしかないよな……ははっ……危ない、危ない)
自分が中二病をしていた時期を否定するつもりは無い。
だけど、中二病は遅くても中学時代で終わらせなければならないものだ。
それが、ちゃんと成長するという事なのだろうから。
何事にも卒業する時があるのを知っている。これはむしろ、チャンスだと捉えるべきなのかもしれない。
卒業しようと思っていた俺に、前の席に座る三宅君がアシストをしてくれて、ちゃんとゴールテープを切らせてくれたのだから。
これから頑張れば、まだ俺にだって普通の高校生活というものを皆と一緒に楽めるだろう。
「だよなぁ……まっ、中々にスベってたけどな!」
「笑われないとギャグにもならない……っすよね?」
「いいよ、もっと砕けた話し方で」
「そ、そう? じゃあ……そんな感じで、よろしく」
三宅君と何となく良い感じになれた気がする。これは大きな一歩に違いなかった。
そんな事をしていると、件の中二病少女の自己紹介が終盤になっていた。
聞こえて来た言葉を纏めてみると「聖域」「紋章」「闇の鎖」等々……軽めの自己紹介にしなかったら俺が言っていたであろう言葉のオンパレードが聞こえてくる。
「――そして、私の名は宇野宮麻央と言う。もちろん、これは人としての仮の名。本当の名は知らぬ方が幸せだろう……以上だ」
そう言って自己紹介を終えた彼女を格好いい……と思ってしまうけど、やっぱりそうじゃない。
そこに歓心している内は中二病から抜け出せない。
少しずつでも普通に馴染んでいかなければ……せっかく今の人で俺の印象が薄れているのに、まったくの無駄にしてしまう。
初めて客観的に中二病の人を見れた気がした。
その結果として……こうして強く改心しようとしている俺がいる。
同じクラスで良かったが、なるべく関わり合わない様に注意しないと、再発のリスクが今の俺にはあるだろう……視界に入れない為にも眼帯でもした方が良いのかもしれないな。はははっ。
◇◇◇
クラス全員の自己紹介が、一応は無事に終わった。
無事じゃないのは若干数居るが、俺は大丈夫だから実質は一人だ。
坂本先生が配り物をした後に、クラスメイト達と打ち解ける最初の機会でもある、宿泊学習についての話をし始めた。
新入生の為のオリエンテーションである宿泊学習は、二泊三日のお泊まり学習で、ちょっとグレードの上がった遠足と言い換えても良い。
進学したこの高校には同じ中学出身の人はほぼ居ない。たしか、一人か二人だったと思う。
だが、ほとんどは全く知らない人達だ。男子か女子かも知らないしな。
友達がゼロの俺にとっては、距離を縮める為にもお泊まりというのは非常に有効的な手段となり得るだろう。
だが、ここでもし……形成されるどのグループに入れなかった場合、一年間はそのまま取り残されるという可能性が大いに含まれているが……。
生存競争とは無縁の孤高なる存在として過ごして来ただけに、その難しさの想像もできない。
マイナスからのスタートだとは思っていたが、早くも心配になってきた。
「――と言う事で、配ったプリントを良く読んでおいてください。保険証のコピーも忘れずに提出するように。では、みんな! 改めて入学おめでとう! これから一年間よろしくお願いしますね!」
真新しい制服や鞄を身に付けて、登校した初日はどうやらこれで終わりらしい。
部活への入部はオリエンテーションが終わってからみたいだが、体験入部や見学なら今日から始めても良いらしく、既に目当ての部活動を見る為に動き出している生徒も、少なからず居るみたいだ。
部活は今の所決めていない。
幽霊部員に堕ちるとしても、入部しておいた方がお得なのはなんとなく分かっている。
……これまた中学時代、斜に構える事に忙しかった俺は部活に入った事なんて当然ない。帰宅部として一人で家に変えるのが日常だった。
思いきって運動部へ! なんて高校デビューを果たす程のやる気がある訳でもない。
「サンク……チュアリ!(同志よ!)」
「ごめん、その挨拶は全然通じないからっ」
やはり来たか。クラスメイト達が動き出して、疎らになって行く中、俺は座って待っていた……彼女を。
避けては通れないとは思っていたが、思ったよりも接触が早かった。背後で斜に構えているのはこの際、置いておこう。
きっと、仲間や同盟者になりに来た……もしくは既に、宇野宮さんの中ではそうなっているのかもしれない。
でも俺は、高校入学初日にして自分を省みて決めたのだ。もう、中二病は卒業するのだと。
むしろ、宇野宮さん……君のお陰でその決意が出来た。感謝はするが……するだけだ。
「我が言霊が届かぬと……? 記憶のデリート……いや、まさか!? 組織が既に校内に!?」
「くっ……なんだ? 記憶がに靄が…………あっ、コホン。えっと、宇野宮さん? 悪いけど俺はもう中二病は……ね?」
危険だ。あまりにも危険過ぎる。
宇野宮さんに釣られて、どうしても口が勝手に喋りだしてしまう。
今さっきの決意など簡単に揺らいでしまうほどの圧力……というか、本気の雰囲気が宇野宮さんから伝わってくれる。
綺麗な髪に眼帯と、悪巧みでもしてるのかと思わせる悪い笑顔。言動さえまともなら、確実にモテるだろう。
いや、その言動を我慢してでも付き合いたいと申し出る人が居てもおかしくは無い。
まだ初日で浮わついているが、高校生活にも慣れてきたら恋愛に走り出す者が必ず現れるだろう。俺も可能ならそのビックウェーブに乗っかって、夏までに彼女を作りたいまである。
顔は悪く無い……はずだからな。
こうなったら宇野宮さんの言動を反面教師として、対比の相手として、俺が普通だと証明するのに頼らさせて貰うのも、ひとつの手かもしれない。
「近江君、汝と我は同じ者よ。その宿命からは逃れられ……っと、時間ね。私はそろそろ行くわ……刹那のその先で(また明日ね)」
「あ、うん。また明日」
宇野宮さんは軽やかに去って行った。
その後ろ姿は堂々としていて……少しだけ羨ましく、やはり格好良く感じてしまった。
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