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百合色横恋慕  作者: 芝井流歌
第2章 ビビット編
73/105

73☆中学2年 獅子倉茉莉花の決意

『付き合ってください』


 有馬詩織は地元の中学の同学年だった。


 一・二年とクラスが違っただけでなく、二年の十二月までろくに話した事すらもなかったぼくだけど、彼女の名前くらいは知っていた。保健委員だという事も知っていた。体育の授業が嫌で仮病を使って保健室に通っていた際に、本物の病人や怪我人を連れてきていたので時々見掛けていたから。

 

 保健医の先生はぼくが仮病を使っている事を知っていながら、それでもサボりに行く度にベッドで寝かせてくれた。今思えば先生は気付いていたのかもしれない、ぼくがコンプレックスを持ち始めた事を。思春期のぼくには直接聞かなかったけど、なぜ体育が嫌なのか理解してくれていたのだろう。

 

「獅子倉さん、具合はどう? もうすぐ給食の時間だから、少しでも食べれるようなら教室戻りなさい」

 

「先生、何でここの学校の給食ってこんなまずいんスか? よくみんな何も思わずに食べれるなぁって思って……。弁当持ってきちゃダメなんて入学前に教えてもらえたら公立なんかに来なかったのにさ……」

 

「よく言うわね。私立の女子中学が嫌だからご両親に内緒で入試を白紙で出したくせに。私立中学ならお弁当はオッケーだったはずよ? わざと落ちたくせに給食がまずいだなんて贅沢言わないの」

 

 まずいもんはまずい。こんな事ならおとなしく星花女子学園とやらを真面目に受けときゃよかった……。女の子らしくさせたいからって女子校なんてヤダ、そう反抗したぼくは不合格になるようわざと白紙で出したんだけど……。

 

「それに、先生しってるのよ? 色目使ってクラスの女の子にデザートだけもらってるんですって? 保険医として栄養の偏りは健康上……」

 

「あー、もうっ。食べてくればいいんでしょ、食べてくれば。今日の先生は冷たいんスね」

 

 ぼくがベッドの上でもぞもぞ起き上がる途中、保健室の扉がガラガラと開く音がした。本物の病人さんか怪我人さんが来たみたいだし仕方ない。ぼくは上履きを足でたぐり寄せながら、薄いクリーム色のカーテンの向こうの会話に耳を(そばだ)てた。

 

「ドッジボールで突き指したらしいんです。よろしくお願いします」

 

「ごくろうさま、有馬さん。どれどれ、見せてごらーん」

 

 保健委員の仕事を終えた有馬詩織が怪我人らしき男子生徒を先生に委ねていたところだった。仕切られたカーテンをシャッと開けると三人の視線が突き刺さった。ぼくは枕で乱れた後頭部を手ぐしで梳きながら先生に会釈をして保健室を出た。

 

「獅子倉茉莉花さん」

 

 閉めたばかりの扉の開く音と同時に後ろから声を掛けられた。有馬詩織だった。振り返ったぼくに歩み寄ると、彼女はいきなり二つに束ねたぼくの髪を(ほど)き始めた。

 

 本当はショートかボブにしたかった。だけど母さんがなかなか切らせてくれなかった。末っ子一人娘のぼくには女の子らしくかわいくいて欲しいんだとかなんとか。肩に掛かり始めた髪を毎日二つに結ってくれたのは母さんだった。

 

「結び直してあげる」

 

「いいよ。結ぶの嫌いなんだ。でも気持ちは嬉しいよ。ありがとね、有馬ちゃん」

 

「えへへ、私の名前知ってるとは思わなかったから嬉しいな。私も知ってるよ、あなたが自分で結べない事」

 

「え?」

 

 図星だった。校則では肩に掛かったら結ばなくてはならない。だけど保健室で休んだ後は必ずぼさぼさになる。それでも結べないぼくは太陽のプロミネンスみたいになった後ろ髪を放っておくしかなかった。


 結びたくないからとはいえ、乱れた髪を解けば先生に注意される。だからって自分じゃ結べない。校内でかっこつけてるくせに髪は乱れてるなんてかっこ悪いところを見られていたのだと思うと改めて恥ずかしくなった。


「へぇ、よく分かったね。もしかしてぼくのファン? ずっと観察されてたと思うと照れるな」

 

「よく言うわよね。本当のファンの子以外にも公然でべたべたチュッチュしてるくせに。残念ながら私はファンの一人ではないわ。さっ、後ろを向いて」

 

 ぼくより少し背の高い有馬詩織は、ブレザーの内ポケットからコームを取り出すと手際よく二つに結ってくれた。まるで登校し立ての時みたいに見事に整った。そういえば彼女も綺麗な黒髪をぴしっとポニーテールに結っている。リンとした物越しに相応しく曲がった事が許せないのだろう。

 

「ありがと。お礼はキスでいいかな?」

 

「あはっ、嬉しいけど遠慮しとくわ。そんな事より、お礼をしてくれるならリクエストしてもいい?」

 

「もちろん。なでなででもハグでも何でもいいよ?」

 

「じゃあ、付き合ってください」

 

「うん、いいよ。で、どこへ?」

 

 彼女はけらけらと笑い出した。なぜ笑っているのかを知ったのは、彼女の次の言葉だった。

 

「違うわ。私、あなたの事が好きなの。だから『恋人になってください』、って意味っ。あはははは、どこへですってー。あははははっ」

 

「こ、恋人ぉ? 冗談やめてくれよ。ぼくは君と同じ女の子だぞ? いくら男の子っぽくしてても所詮ぼくは女の子だから、女の子同士で付き合うのはおかしいよ」

 

「ふふっ、かっこいいとかかわいいとか、男だからとか女だからとかは関係ないの。獅子倉茉莉花だから好きなのよ?」

 

 衝撃が走った。真昼間から廊下のど真ん中で何を言い出すのかと思えばまさかの告白。授業中で人気(ひとけ)がないとはいえ、この静けさだと逆に響いてしまう。動揺したぼくは目を泳がせながらキョロキョロと辺りを見渡した。これはドッキリか何かか? そう疑う程に驚いていたのだ。

 

「あ、あのねぇ、有馬ちゃん? 物事には順序ってものがあってだね、ぼくは君の事を何も知らない。ほとんど話した事だってない。君はぼくの事を観察してたかもしれないけど、あいにくぼくは……」

 

「うん、分かってる。だから、これからたくさん知ってもらいたいの。私もあなたの事をもっと知りたい。だから……」

 

 彼女の冷たい指先が耳元をかすめた。そこからスッと頬に宛がわれる。それが何を示す行為なのかをぼくが知らないはずがない……。


 突然の事にたじろいだぼくは寸前のところで身を引いて逃れた。彼女はというと動揺しながら見上げるぼくを涼しげに覗いていた。

 

「わ、分かった。君の気持ちはよく分かったからっ。だから、ねっ、落ち着いて?」

 

「……ぷっ、かわいいっ。誰にでもチュッチュしてる割りにはされるのはダメなのね。一つ情報が増えちゃったぁ」

 

「おふざけならよそでやってくれよ。人の純心を試すなんて悪趣味だ」

 

「本気よ。私は、あなたと違って好きでもない人にキスなんて出来ないもの」

 

 その目を見れば分かるよ、からかいなんかじゃない事くらい……。


 だけどファンの子と違う『好き』が頭の中で鳴り響いていてどうしていいか分からなかったんだ。何度も何度も脳内で再生されて、胸のドキドキが止まらなかったんだ。

 

 その数日後、ぼくたちは恋人同士になった。

 

 だけど、いざ付き合うとなると何をしていいのか分からないし、なにより女の子同士で付き合っている事を周りにどう思われるのかが怖くて、友達にもクラスメイトにも打ち明けられなかった。どうも悪い事をしている気がしてならなかった。後ろめたくて、漠然とした罪悪感にかられて、学校内で彼女の顔すらまともに見れなくなっていった。

 

「ダーリン、ここっ、こっちこっち」

 

「し、詩織ぃ……そんなとこに隠れてたら逆に怪しいってば。ぼくが詩織にバイバイせずに帰った日があったか? 少しは信用して待ち合わせ場所でだな……」


「ふふっ、分かってる分かってる。たまには公園デートごっこもいいじゃない」

 

 下校途中の寂れた公園の滑り台の蔭。そこがぼくたちの二人きりになれる唯一の場所だった。『まるで秘密基地みたいね」、そう彼女は笑っていたけど、正直ぼくはそれだけじゃ物足りなかった。

 

「そろそろ塾の時間だから帰らなくちゃ」

 

「もう? ぼくはもうちょっとこうしていたいのに、詩織は寂しくないのか?」

 

「ふふっ、寂しいけど大丈夫。心で繋がっているから。ダーリンは私の事をいつでも思ってくれてるって感じてるから平気なの」

 

「……」

 

「ダーリンは本当に寂しがり屋さんね。お別れのキスでもする?」

 

「……しないよ。お別れのキスだなんて、しちゃったらもう会えないみたいじゃんか……」

 

 明日も学校で会える。だけどそれは恋人としてじゃない。恋人として会えるのは、この滑り台の蔭だけだというのに……。

 

 期末テストと終業式が終わり、ぼくたちに冬休みが訪れた。やっと校内の人目を気にせずに会える、そう思っていた矢先……。

 

「まりちゃん? あなた最近遅くまで出掛けているみたいだけれど、どこで遊んでいるの? 来年は高校受験があるのだから冬期講習に行きなさいとあれほど……」

 

「分かってるよ、母さん。心配しなくても友達と図書館で勉強してるだけだから」

 

「図書館? 図書館なんてとっくに閉館している時間じゃない。そんなにお友達とお勉強したいなら、わざわざまりちゃんが出向かなくたってうちの応接間を使えばいいわ。応接間が嫌なら他の部屋だっていっぱい空いているというのに」

 

 うちの母さんは心配性だ。いや、心配性じゃなくても過敏にはなるかもしれない。ただでさえ末っ子のぼくは甘やかされているというのに、ぼくときたら夜十時過ぎまで帰らなかったのだから。塾に行っていない過保護の中学生に夜十時帰宅は遅過ぎたんだ。


 図書館だなんて見え透いた嘘をついてでも、ぼくは彼女との時間を大切にしたかった。ただそれだけだった。

 

 冬期講習に通っている彼女の塾が終わるのが九時。ぼくたちはそれからいつもの公園でほんのちょっとの時間を過ごしていた。せっかく学校が休みだというのに、お互いの時間が合わず会えるのは十時までの一時間足らずだった。

 

 それでも会えないよりはましだ、そう自分に言い聞かせて毎晩滑り台の上から詩織の姿が見えるまでひたすら待ち続けた。

 

「遅かったじゃんか。いつもより二十分遅刻だぞ?」

 

「ふふっ。怒らないで? ちょっと進路相談をしていただけ。それより、滑り台の上で体育座りしていると、まるでお母さんに叱られてすねている子供みたいだったわよ?」

 

「すねてなんかないよ」

 

 寂しい、だけだ。

 

 だけど、彼女の笑顔を見るとそれも吹き飛んでしまう。ずっと一緒にいたい、それが叶わないのならせめて少しでも長くこの笑顔を見ていたい。ぼくの寂しさを埋められるのはこのほんの一瞬しかないのだから……。

 

 新学期が始まっても、ぼくたちの会える時間は何も変わりはしなかった。冬休み前と同じ、下校途中のほんの一時間だけ。

 

 そんな短い時間だったけど、いつも明るくけらけらと笑ってくれるその顔を見れる一瞬はとても幸せだった。少し背の高い彼女の長い指はいつも冷たかった。ぼくがそれを暖める、すると彼女は「幸せだなぁ」と目を細めてくれた。

 

「送るよ。進路指導で今日はぼくが待たせちゃったから埋め合わせ」

 

「いいのいいの。たった五分だけでもダーリンの手を握れたんだもん。走って帰らないと塾に間に合わないから、また明日ね」

 

「詩織……」

 

 何も変わらない景色。何も変わらない彼女の笑顔。何も変わらない、満たされないぼくの心。


 ただ過ぎていく毎日に満足出来ず、三月に入ったある日、ぼくは彼女に一つの提案をした。

 

「ぼくが中学受験した星花女子学園ってとこは寮があるんだ。同じ部屋になれなかったとしても、きっとそこなら今まで以上に一緒にいられる。ぼくも母さんたちの目に届かなければもっと自由になれるし、詩織も星花女子を受けてみない?」

 

「ダーリン……。実はね、私……」

 

 一年間の留学が決まったのは半年も前の事だったらしい。それはぼくに告白する二カ月も前の事。しかも旅立つのは春休みに入ってすぐだという。一緒にいられるのはあと二週間……。

 

 余命宣告を食らった気分だった。

 

「志望校には帰国子女コースがあってね、一年以上の留学経験でも受験対象になるの。私の行きたい大学に進むにはその高校の帰国子女コースを卒業するしかなくて……」

 

「言ってる意味が分かんないよっ。一年以上も離れる? それを分かっていたらぼくはきっと君なんかとは付き合ってなかったっ。だって、好きになるだけ損したって事だろっ? 離れ離れになる事を知ってたら、好きになんかなりたくなかったっ!」

 

「ごめんね。でも、私はたった三ヵ月だけでもダーリンと過ごせて幸せだったよ。オーストラリアに行っても、ずっとダーリンの事……」

 

「ふざけんなっ! こんなに好きにさせといてこれ以上寂しい思いしろって言うのかよっ! そんなに離れたきゃどこにでも行けっ。その代わり、ぼくは詩織を一生許さない……。捨てたきゃ捨てればいい、お望み通り別れてやるよっ!」

 

「ま、待って……っ」

 

 呼び止める声は聴こえていた。だけど、立ち止まったところで彼女を引き止められる訳がない事くらい分かっていた。

 

 だから、ぼくは一度も振り返らずに全力で走った。

 

「まりちゃん、起きてるの? お友達がみえてるわよ? また昨日の子が……」

 

「帰れって言ってってば! 会いたくもない、顔も見たくないって追い返して!」

 

 母さんはきっと気付いていた。ぼくが彼女に依存していた事を。友達ではない関係だという事を。彼女もまた、ぼくに友達以上の特別な感情を抱いているという事を。

 

「まりちゃん、お願いだから何か食べてちょうだい。食欲がないならせめてスープだけでも……」

 

「……」

 

「かぼちゃのポタージュ、ここに置いておくからね……?」

 

 彼女と別れてから二日間は何も食べれなかった。学校へも行かなかった。三日目からは兄ちゃんたちに引きずられて無理矢理登校だけはしたけど、保健室でただ小さく蹲っていただけだった。まずい給食は先生が「これなら食べるでしょ?」と言ってデザートだけ持ってきてくれた。

 

 魂が抜けたようにふらふら歩くぼくを心配して、下校時は兄ちゃんたちが交代で迎えにきてくれた。兄ちゃんの車に乗り込む時に彼女の声がしたのは幻聴だっただろうか。都合のいい幻聴……いや、それはもはや副作用の強い薬に当たってしまったように逆効果だった。

 

「行ってきます……」

 

 ぼくが一人で登下校出来るようになったのは三年に上がってゴールデンウィークを迎えようとしていた頃だった。春休みのうちに旅立ってしまった彼女の噂を耳にしたくなくて、新学期に入ってもしばらく登校したくなかった。少しずつご飯も食べれるようになってはいたけど、拒食症気味になっていたぼくは固形物を飲み込むのに相当時間がかかっていた。

 

「獅子倉さん、そろそろ志望校を絞らないと推薦は取れないですよ。以前に希望を出していた星花女子学園はどうしますか?」

 

「推薦取れるなら、今からでも頑張りますよ。もう家族に心配かけたくないから、どうしても寮のある高校に行きたいんです」

 

 そんな理由、と担任の先生は呆れていたけど、一度中学受験で両親に決められた学校なら反対はされないだろうと納得してくれた。休んでしまった分も頑張るから、そう両親を説得して家庭教師も雇ってもらった。なんとしても星花女子学園に受かりたい、その一心で必死に勉強した。

 

 そして、恨み続けた彼女への思いも少しずつ和らげる事が出来た。完全に吹っ切れたのは夏休みが明けた頃だっただろうか。食欲もメンタルもほとんど回復し、推薦が取れた頃にはすっかり元の獅子倉茉莉花に戻れていた。

 

 ぼくにとって有馬詩織を忘れる事はとても難しい事だった。たった三ヵ月とはいえ、一日一時間もない二人の時間が愛しさを増幅させてしまったから。デートどころか出掛けた事すらなかったぼくたちだけど、思い出の地ならばたった一つだけあった。


 ぼくは卒業式のあと、一人で思い出の滑り台に行った。別れたあの日から約一年、あの日もちょうどこのくらい冷えていたような気がする。最後に絡ませた彼女の指はとても冷たくて、思い出そうとしなくても感触が蘇ってしまっていた。

 

 冬に付き合い出して春が来る前に終わってしまったぼくたち。きっと遅かれ早かれ別れる運命だったんだ。春は来なかったんだ。結ばれるべきじゃなかったぼくと詩織……。


「バイバイ、詩織……」

 

 そっと、手すりに触れる。滑り台も氷のように冷たかった。ぼくは両肩で束ねていた髪を解き、そこにヘアゴムを括り付けた。彼女とぼくを引きあわせてしまったこのヘアゴムを。

 

 そうして、中学生最後の日、ぼくは詩織の呪縛からも卒業した。

 

 だけど、大切なものまで忘れた訳じゃない……。

 

「しーおんっ。寝る前にチューしよ?」

 

「はぁ? さっきまで散々してたじゃない。いいから宿題終わらせなさいよ。あたしまで寝れないじゃない」

 

「いーじゃんかー。さっきのはさっきのっ。おやすみのチューじゃないぞ? おやすみのチューは『また明日ね』のチュー」

 

「……はいはい。分かったわよ」

 

 別れのキスなんて、この世にはない。最愛の人には『また明日ね』のキスをするんだ。愚かなぼくはそれを一度も詩織にあげられずに、手の平でずっと温め続けていた。あの氷のように冷たい指はぼくの手で温められたけれど、温め過ぎて溶けていってしまった氷はもうこの手では握れないと知らずに……。


 キスだけじゃない、詩織には何一つあげられなかったんだ……。

 

「おやすみ、汐音。また明日ね」

 

「……変なやつ。起きたら当たり前のように隣のベッドにいるんだから、いちいちそんな事言わなくてもいいじゃない」

 

「いーんだよ。起きた時当たり前のようにそこにいて欲しいから……おまじないみたいなもん」

 

「ふーん」

 

 ぼくはまた同じ(あやま)ちを犯すかもしれない。だけど、だから、後悔はしないように今を大切にするんだ。今この手の中にある幸せをいつか失う日が来たとしても、愛しい人を尽くし続けれたという自負がきっと、ぼくたちをまた巡り合せてくれるかもしれないから。

 

「ふぁーぁ……。おやすみぃ、茉莉花ぁ」

 

「おやすみ、汐音……」

 

 また、明日ね。

 

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