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百合色横恋慕  作者: 芝井流歌
第1章 パステル編
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5☆紫色の仲良し部?


「まぁ……まぁ、そうだよねー……」


 あんなに綺麗な顔立ちと歌声を持ってる人だもん、お相手がいてもおかしくないもんねぇ……。しかもそのお相手は、あたしがずっと欲しいと思っていた『守ってあげたい系妹キャラ』だし。


 一緒に住んでるのかなぁ。いーないーな、あたしも早く寂しんぼ人生にピリオドを打ちたい!


 もうあの中学ん時の、あの出来事を思い出さないような恋がしたい……。どうかもう、どうかあたしを解放して欲しい……。


「しゃーないか、あたしには特別何がある訳でもないし。でも……」


 でも、こんなあたしでももらってくれる人がいるだろうか。理解してくれる人がいるだろうか。全てを受け入れてくれる人がいるだろうか。


「いけないいけない。くよくよ考えても始まらないし、自分から動きますかね!」


 ぷるぷる首を振ると、ポニーテールが右へ左へと揺れる。まるで邪気をないないするみたいに。


 あたしはその勢いのまま校舎へと戻り、今度こそ音楽室へ向かった。


「しっかし……」


 見取り図は頭に入っていたと誇張していたけど、自分の教室を拠点として描いていたから歩けたようなもので、いざ体育館からスタートするとなると音楽室が立体的に思い描けず……。ここにきて算数の時から図形の問題に躓いていたっけと、幼い頃からの成績不振を思い出してしまった。


「あっ、あの……」


「ん? ……新入生か。どうした?」


 あたしが昇るか否か迷っていた階段の上を見上げると、青い繋ぎの男性が蛍光灯を取り換えようとしている姿があった。あたしの呼びかけに気付いてくれたその人は恰好からするに用務員さん。振り返って脚立を降りてきたその人をよくよく見ると……。


 女の人だった……。


 あぁ、あたしはこの学校に来てまだ二日目だというのに、たった二日で二人も性別間違いを犯すだなんて……相当見る目がないんだろうか。はー……。


 自虐ついでにまたあいつの顔が浮かんできてしまった。あんな奴は男でも女でもない、単なる変態だけど!


「すいませーん、音楽室はどちらですかー?」


「音楽室なら、この階段を昇って突き当りを左だ」


「あ、こっちで合ってるんですね! ありがとうございまーす」


「あぁ」


 再び背を向けると、用務員さんは軽々と脚立を持ち上げて「じゃあ」と小さく手を上げた。初めは無表情で怖い人なのかと思ったけど、よく見たら整った顔だし目は優しそうだったし、人はパッと見で判断しちゃいけないなと改めて思った。


 あたしもぺこりと頭を下げてから、用務員さんの後を追うように階段を駆け上がった。踊り場を過ぎるとかすかにピアノの音が聴こえてくる。用務員さんに教えてもらった通り、突き当りを左、左っと呟きながら。


「第一音楽室? って事は第二もあるのか……」


 教室の扉の隅を見上げて立ち止まる。確かに音楽室は音楽室だけど、二つも三つも音楽室があるならば、そこが果たして合唱部なのか、はたまたきゃっきゃうふふの単なる集まりなのか分からない。耳を澄ませなくとも聴こえてくるピアノの音はまさしく合唱曲だし、幾人かのきゃっきゃうふふも聴こえる。


 さて、どうしようか……。


「見学?」


 扉に手を掛けようとしたところでガラリとあちら側から開いた。思わず肩がびくんと跳ねた。騒がしい中からは、あたしの事なんて気付かないだろうと思っていたのに……。


 そして、あたしが驚いたのは急に扉が開いた事以外にもある。いや、それ以上の事だった。声を掛けてくれたその人はとても背が高かったのだ。


 異様に……。


 どちらかと言えばチビの部類に位置するあたしだが、ここから推測するに頭一つ分以上は差がある。そして目の色も肌の色も、あたしの知る限りの日本人とは思えない容姿だった。


 だけど優しく語りかけてくれるその表情は、国籍だろうが人種だろうがどうでもよくなる程優しい笑顔だった。


「あの、いえ、じゃなくて……見学ってゆーか……」


「どうぞ? 今ちょうど休憩中だから」


「いえ、その……ほんとにちょっと覗くだけって思ってただけで見学とかじゃ……」


「大丈夫、うちの部長はフランクな方だから。今はピアノに集中してるから、みんなこっそりおやつタイムなの」


「おやつ……」


 その背の高い先輩が身体を横にずらすと、まず目に入ったのはグランドピアノを前に聴いた事ある曲を弾いている人。話からすると多分部長なのだろう。


 そこから順繰りに見渡すと、部長のピアノに酔いしれてうっとりしている人、その隣に口ずさんでいる人。更にその隣ではやはり話通り、おしゃべりをしながらクッキーらしき物を齧っている人。


 それはもう部活の見学をさせるような光景ではない気もしたけど、フランクという言葉を借りるなら和気あいあいと出来る場所なのだという事だけでも見学の余地がある、という事かもしれない。


「みなさん、見学の一年生がいらっしゃったのでお菓子分けてあげてくださいね」


「あぁ、えっと、お邪魔しまーす……」


 これでいいのかなと背の高い先輩を見上げると、目が合ってにっこり笑って頷いてくれた。あたしも一安心して頬が弛む。ついでに心も弛む。


 玲ちゃんや鈴芽ちゃん以外のクラスメイトとはほとんど話せてない中で、初めて暖かい場所に招き入れられた気分だった。


「あー、昨日の十円……じゃなくて、四組の後輩ちゃんだぁ! やったー、合唱部入ってくれるの?」


「えっと、確か……」


 栗橋先輩、だったかな? 二年になったのに間違えてうちのクラスに入ってきた、あの天真爛漫な人。……何か聞き捨てならない事を言いかけた気もするけど……満面の笑みで手振ってくれてる姿が小動物っぽくてかわいいから見逃してあげるか。


「こっちおいでよ! 由佳里ちゃんが焼いてくれたクッキーおいしいよ!」


「莉亜ちゃん、自分の分はしっかり握りしめてるの見えてるよ。また焼いてくるから後輩ちゃんにあげて?」


「たはは、バレてたかぁ!」


 どうやらこの背の高い先輩と栗橋先輩は仲がいいらしい。二人とも同じ紫色の学年カラーの刺繍だし、名前で呼び合ってる仲だし。笑い合ってる姿も微笑ましい。


 なんかここ、ものすごくほっこりするな……。いっそ入部即決してもいいかも……。


「あれぇ? 聞いた事ある声だと思ったら汐音じゃん。入んの? 合唱部。奇遇じゃーん、ぼくも入るんだ。ねー、せ・ん・ぱ・い」


 こちらこそ、聞いた事あるその声。聞いた事あるそのチャラい口調。いけ好かないそのにたにた顔……!





しっちぃ様作「咲いた恋の花の名は」より 倉田邑さん

しっちぃ様作「あなたの光に包まれて」より 如月由佳里さん

芝井流歌作「約束の空飛ぶイルカ」より 栗橋莉亜


こちらの作品もよろしくお願い致します!

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