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百合色横恋慕  作者: 芝井流歌
第1章 パステル編
25/105

 25☆サーモンピンクはひらめきの味?

「えりちゃーん、おっひる食ぁべよっ」


「あら? 珍しくテンション高いですわね、汐音」


「ふふーん、ちょっとねー」


 うずうずが止まらない。にやにやが止まらない。性格悪いと言われてもいい。


 茉莉花の奴め、ざまーみろ。


「これありがと。何言ってるか分かんないけどたまには洋楽もいいね」


 あたしが金曜日に借りたCDを差し出すと、まるで幕の内弁当のような中身の詰まった重箱を広げたえりちゃんが「いえいえ」とそれを受け取った。いくらお嬢様学園だとはいえ、いくらお金持ちだとはいえ、この金髪碧眼に準和食は不釣り合いにも程がある。


 借りた物を返したし、あたしもお昼を……と思ってバッグの中からお弁当箱を取り出す。お気に入りのお弁当箱。中学まで公立だったあたしは給食しか食べた事なかったのでお弁当というものに憧れを抱いていた。もちろんお姉ちゃんのお下がりだけど、ずっと憧れていた物をもらえた時だけ妹で良かったなと思う瞬間だったりする。


「汐音、またふりかけご飯ですの? 日本の白米はおいしいといえど、おかずがないのでは栄養が偏りますわ」


「いーのいーの。えりちゃん程じゃないけど、あたしだって出るとこ出てるから。ね、ね、そのかまぼこ一切れちょうだーい。最近イライラしちゃうからカルシウム足りないのかも」


「それならかまぼこと言わず鮭をあげますわ。体型の問題だけではなくて、栄養が偏ってはお肌にも悪いですから」


 そう言うと、えりちゃんはあたしのお弁当箱のフタにぽんっと鮭の切り身を半分置いてくれた。コンビニおにぎりの(ほぐ)れたそれではなく、脂が乗っていてしっかりと身の詰まった鮭。こんな立派な物いただいていいのかと食べるのを躊躇したけど、せっかくの御好意だもんね、うんうん、とポジティブに切り替えて有り難く頂戴する事にした。


「おいしー! こんなおいしい物もらっちゃったしCDも借りちゃったし、えりちゃんに何か恩返ししないとね」


「それなら必要ありませんわ。そんなに喜んでもらえるんですもの、こちらも嬉しいですし。よかったらまた借りてくださいな。今日は洋楽とアニソンを持ってきてますの」


 あ、アニソン……? これまた似合わない物をお持ちですこと……。


「あー、じゃあまた洋楽の方借りようかな。アニソンはいいや」


「分かりましたわ。お弁当食べたら渡しますね。私はもうスマホとパソコンに取り込んでありますし、返すのはいつでもいいですわよ。今朝『貸して欲しい』と申し出された方がいたんですが、やっぱりいいと言われたので」


 スマホ? パソコン? 『貸して』? 『やっぱりいい』?


 それって、もしかして……。


「それって、もしかして六組の獅子倉茉莉花?」


「ええ、そうです。今朝いきなり声をかけられたので驚きましたが、なんでも洋楽に興味あるから貸して欲しいとかで。今度カラオケ行こうと誘われたのでオッケーしたら……」


「したら?」


「手にキスをされまして……ね」


「はーぁ?」


 あんにゃろー、あたしの周りに手を出すなとあれ程言っといたのにー……!


 握りしめた箸がめきっと音を立てた。いけないいけない、お気に入りの箸が……と我に返ったところでえりちゃんと目が合った。


「落ち着いて、汐音。私は日本育ちですがそのくらいは慣れてますわ」


「そ、そうかもしれないけどそうじゃないのっ。そーゆー事はそんな事……あーもうっ」


「だ、だから落ち着いて? 私もカラオケは好きですからオッケーしましたけど、その時周りにいた生徒がキャーキャー騒いじゃいまして、それであの騒動に……」


 ふーん、なるほどねぇ。それで生徒会長直々に注意されたって訳か。


 『校内での華美なスキンシップは謹むように』、一部の生徒は前々からクレーム出してたらしいけど、毎日あれだけ派手に廊下でベタついてたわりには風紀委員のお咎めはまだなかったとかで、見かねた生徒会長がお越しになったって話だった。


 ひかりちゃんがもらってきた情報によれば、風紀委員の一人が茉莉花のファンだから動かなかったとかなんとか。だけどそれによって会長からお咎めをもらえたんですもの。


 よかったわねぇ? 獅子倉茉莉花さーん。


「汐音? こ、今度はにやにやしてどうしたんですの?」


「え? う、ううん、なんでもないよ? じゃあCDだけじゃなくてカラオケもあっちから取り下げてきたの?」


「ええ。結局、校内でも校外でも良識のない行動は自粛するようにと釘を刺されたとの事で、本人から『しばらくおとなしくしてるから、デートは延期で』と申し出されたんです」


「はーん、延期ねー……。あたしも匿名希望のご意見箱みたいのがあったらがんがんクレーム入れてやんのになー。えりちゃん、次にあいつに誘われてもカラオケなんか行っちゃダメだからね? あたし、えりちゃんがあいつの毒牙に掛かったら許さないからね?」


「え、ええ、分かりましたわ。でも、汐音はなぜそんなにもマリッカを毛嫌いするのですか? 過剰に反応しているように見えますが」


 過剰に?


「普通よ。あたし、あーゆーチャラチャラした奴大嫌いなの。おとなしくなったくらいが平和でいいじゃない」


「そう? ならいいのですが、あの後しょんぼりしてたので少しかわいそうに感じてしまって。CDくらい貸してもよかったのではないかと今更後悔しているんですわ」


「しょんぼりねぇ……」


 いい薬じゃない。『デートは延期』なんてほざいてる奴が反省してるとは思えないし。万年発情期はおとなしく……。


 ん? 発情期?


 発情期……?


「し、汐音? またにやにやしてますけど、今日はどうしましたの? ちょ、ちょっと怖いですわよ?」


「……えりちゃん、そのCD、あたしがまた貸ししてもいい? 同じ寮だし隣の部屋なの」


「え? いいですけど、どうして?」


 どうしてって、決まってるじゃない。


 あいつをおとなしくさせる為よ。 



月庭一花様作「やわらかで優しい獣たち」より シェリー・ゴールドフィンガーさん


こちらの作品もよろしくお願いします!

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