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百合色横恋慕  作者: 芝井流歌
第1章 パステル編
17/105

17☆真実を告げる桃色?

 「あんまジロジロ見ないでよ? ガサガサあさらないでよ?」


「わーかってるって。ぼくが仔猫ちゃんの部屋を物色するとでも思う?」


「思う」


「ま、マジか……くぅー、ショック。絶対いじったりしないから、早く行ってきなよ」


 そんなやり取りをして、あたしは疑わしさ満載の茉莉花を一人残しお風呂へ向かった。金曜は遊びやら部活やらで門限ギリギリに帰ってくる子もいるので、遅い時間になればなる程浴場が混む。


 荒療治の為に一緒に来いと誘ったけど「朝シャワー入るからいい」と断固拒否されて結局あたし一人で行くはめになったという訳なんだけど。


 案の定、浴場は週末のテンションの高い女の子たちで賑わっていた。というかイモ洗い状態だったので、さすがのあたしも全裸でうろうろはせず、仕方なくシャワーブースで髪と身体を洗う。


 脱衣所で服を着ながらまじまじと女の子たちを観察して思った。なぜ茉莉花はこんなにかわいい子たちの裸を見れないのか。男兄弟ばかりで免疫がないからと言っていたけど、ほんとにそれだけ? あたしが女姉妹しかいないから免疫があるとかそういう問題でもない気がする。


 あいつ、他にも隠してる理由があるんじゃないだろうか……。


 さすがにジロジロ見すぎたか、あちらのまな板さんもこちらのホルスタインさんもギロリと睨んでいる。慌ててぽりぽりとこめかみをかきながらぎこちない笑顔で軽く会釈した。


「ふー……」


 浴場を後にすると、一安心のため息が一つ出た。だけどまだまだ油断は出来ない。さっき半分飲まれてしまったジンジャーエールを補充しに行こうか迷ったけど、どうしても奴の挙動が気になって仕方なくて真っ直ぐ部屋へ帰る事にした。


「ただいま」


「おかえり、汐音。ぼくいい子で待ってたぞ?」


「あー、はいはい。ほんとにどこも触ってないでしょうね?」


「触るどころかずっとベッドでごろごろしてたよ。偉いと思わない?」


「思わない」


 確かに茉莉花はベッドで頬杖をつきながら横たわっていた。片耳には真っ黒なイヤホンをつけている。スマートフォンで音楽でも聴いていたのだろうか、「ひっでー」と苦笑しながらイヤホンを外した。


「ねぇ、そういえばあんたさ、スマホに音楽取り込める? 今日クラスメイトがCD貸してくれたんだけど、あたしやり方が分かんなくて」


「あー、簡単じゃん。ぼくのパソコンでやっといてあげるからCDとスマホ出しなよ」


「ほんと? じゃあこれ……」


 あたしは帰ってきてからずっと放りっぱなしだったバッグからえりちゃんに借りたCDを取り出す。そのまま茉莉花に手渡すと、「へぇ、洋楽じゃん」と奴は目をキラキラ輝かせた。


「汐音も洋楽聴くんだ? ぼくも結構好きなんだよ。英語よく分かんないからカラオケではJポップかビジュアル系しか歌わないけどね」


「あたしはあんま聴かない。でもえりちゃんが貸してくれたから聴いてみよっかなーって思って」


「えりちゃんって、あのかわいい外国人の子だよね。へぇ、今度ぼくも貸してもらおうかなぁ。お近付きになりたいし」


「あたしの周りの子に手ぇ出さないで。ほんっと手当たり次第なのね、これだから軽い奴は……」


 あたしが濡れたままの髪をタオルでくしゃくしゃしながら隣のベッドに腰かけると、茉莉花は黙って俯いていた。『軽い奴は嫌い』、何度も口にしているのに、今更傷ついたんだろうか、とちらりと振り向く。茉莉花も視線に気付いたのか、一度こちらを向いてから床に落ちている何かを拾い上げた。


「汐音、これさ……。汐音もこーゆーの持ち歩いてる人なんだ……?」


 茉莉花が拾い上げたのは、帰り際に鈴芽ちゃんがくれたモスグリーンの小さなケース。バッグを放り出した時に落ちてしまったんだろうか。


 茉莉花はそれをまるで汚い物掴みでもするかのように、親指と人差し指の先端でつまみ上げている。あたしがちゃんと眠れるようにと作ってくれたそれを汚物みたいに扱いやがって……と、あたしは一気に沸騰した。


「悪い? 何を持ってようがあたしの勝手でしょ! 返して!」


「勝手だけど……こーゆーのよく使う人?」


「うっさいわね、今夜が初めてよ。さぁ返してっ」


「こ、今夜が初めてって……こ、これ使って……?」


 茉莉花はあたしの声にビビったのか、なにやら頬を桃色に染めて「返す」と素直に差し出してきた。なんなのよ、と奪い取ったそれを枕元に置き、再びタオルでくしゃくしゃする。


 が、どうにも茉莉花の様子がおかしい。明らかに顔が赤いし、上目使いでこちらをちらちら見たり逸らしたり。何をそんなにモジモジしているのかと気になって、あたしは茉莉花の顔を覗き込んだ。


「言いたい事あんなら言いなさいよ」


「えっ、いや、そのぉ……今夜使うって、今日は寝ないって事?」


「は? ぐっすり寝る為に使うんじゃない。そんな事も知らないの?」


「ぐ、ぐっすり……? え、じゃ、じゃあこれを使って疲れたらぐっすりって事……だよね?」


 それ以上は言えない、とでも言うかのように茉莉花は両手で口を覆った。あたしがじっと見つめると耐えきれなくなったのか、口元を覆ったまま背を向けてベッドの上で体育座りをした。


 おかしい、なにこの挙動不審……。


 あたしは手を止め、枕元に置いたケースを再び手に取って茉莉花の背後から差し出した。


「あんた、これがなんだか知らないの? それとも知ってて……」


「いやいやいやいや、知ってるよ、ぼくだってそれくらいは知ってるよ」


「じゃあなによ、答えてみなさいよ」


「ぼ、ぼくは使った事ないよっ? そ、その……兄ちゃんの机に入ってるの見た事あって……」


「だから、なによ」


 あたしがずずいっと茉莉花の眼前まで押しやると、慌ててそっぽを向いた茉莉花が耳を疑うような信じられない事を口にした。


「コンドームケース」


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