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百合色横恋慕  作者: 芝井流歌
第1章 パステル編
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11☆イラッときたら黄土色?

 「ぼくはもう大丈夫だから……。サンキューね、いのりちゃん」


「そう? それなら私は部屋戻らせてもらうね。お大事にね、マリッカ。あと、風邪ひかないようにね」


「あいあい」


 いのりちゃんと呼ばれているその子は、例のお手製コスプレ娘だった。たった『オデコにチュー』だけで腰を抜かしてしまったヘタレ変態こと獅子倉茉莉花の為に、「これなら着替えさせやすいから」と言って、お手製のふわふわポンチョワンピースを頭から被せてあげていた。


 なんとまぁ情けないこと……。裸のままじゃ部屋にも帰れやしなくて、それでいて「いや、ちょっと貧血で……」などと嘘ぶっこいてクラスメイトを心配させて。どこまでキザを貫きたいんだか、このアホめ。


 幸い浴場にはいのりちゃんを含め三人しかおらず、隅っこのシャワールームで座り込んでいた獅子倉茉莉花の姿を見た者はいのりちゃんだけ。それも寒そうに裸で震えている彼女の為に「具合悪そうにしてる子がいるの。服着せるの手伝ってもらえる?」と、あたしがお願いしてあげたんだけど。


 感謝してよね。あんたのかっこ悪さをバラさずに尊厳を守ってあげたんだから。


「いつまでヘタレこいてんのよ。まだ立てないの?」


「服、服着てよ……」


「あー、あたし? ったく、どんだけウブなんだか」


 あのチューの後、あたしは呆然としている彼女の隣のブースでシャワーを浴びた。ちょっと放っておけば回復するだろうとしばらく観察していたんだけど、見れば見る程逆効果だという事に途中で気付いたので、とりあえず隣の様子に耳を澄ませながらシャワーを浴びたのだ。


 結局、あたしが浴び終わるまでシャワー音一つしなかったんだけど。


「ほら、着てきてあげたわよ。しっかりしないと次から次へ入浴しに来るんだから……かっこ悪いとこ、見せたくないんじゃないの? 早く立ちなさいよ」


「……言わない?」


 人が気を効かせてやっているというのに、その質問は念には念をって事なの? 飽きれのため息が一つ出た。


 恐る恐るという言葉がそのまま当てはまる表情で見上げられても……もう意地悪する気にもなれない。手を差し伸べただけでビクッと肩をすくませた獅子倉茉莉花の手を引っ張り上げて強引に立たせた。


「部屋まで送ってあげる。……つっても隣だけど」


「い、いいよ、もうちゃんと歩ける……と思うし」


「あーそー、断るの? バラすわよ?」


「な、なんでだよー。言わないって……」


「冗談よ。……話があるの。でもここじゃ誰がいつ入ってくるか分かんないし、あんたの部屋入れてよ」


 返事は待たない。だって断れないのを知っているから。


 あたしがさっさとエコバッグ片手に浴場の扉に手を掛けると、後ろから「分かった」と低い声で呟いたのが聴こえた。


 とはいえ、並んで歩くのにはまだ抵抗があるので、少し急ぎ足で三段上になるように階段を上る。踊り場でチラリと見やると、奴はお見事にいつもの整った顔に戻っていた。あたしはなんだかそれがおもしろくなくて、「ジュース買ってから帰る」と言って足を速めた。


 おもしろくない。ほんとはヘタレなくせに……。あたしの前で腰抜かしてたくせに……。


 おもしろくない。


 こんなイライラした時は、決まって炭酸飲料を飲む。特にあたしのお気に入りはジンジャーエール。廊下の端にある自動販売機でガランゴロンと落ちてくるそれを手に取った。


 のぼせた訳でもないのに、むしろシャワーだけで冷えていたくらいなのに、少し首元が熱くなっている。ちょうどいいのでペットボトルを首に当てながら元来た道を戻ろうとして、ふと踵を返した。


 しょうがないから、あいつにも買っていってやるか……。


 あたしは奴の顔を思い浮かべながら、何を買っていってやろうか自販機と睨めっこした。めんどくさいから同じでいっか、と思って手を止める。……なんかお揃いはやだし。じゃあポカリスケット、うん、これなら嫌いな人いないだろうし風呂上がりの定番よね。


 そういえばあいつ、風呂上がりじゃないけど……冷たいの飲んで冷えちゃうかな? ……まぁいいや。あたしの親切心なんだから有難く頂戴しなさいよね。


手にしているのが炭酸飲料だという事を忘れている訳じゃないのに、なぜか少し上下させながら部屋へと足を進める。ペットボトルの中の黄土色がとぷんとぷんと音を立てていた。


 落ち着かない……のか、あたし。


「どうぞ?」


 あたしの姿を確認したあいつが、自分の部屋の扉に片手をつきながら足を組んで立っていた。誰が見ているか分からない廊下だからいつも通りかっこつけてるんだろうが、あたしには滑稽にしか映らなくて鼻で笑ってしまった。


「一旦置いてくる? お風呂セット」


「ううん、鈴芽ちゃんにどこ行くのか効かれたら困るし。そっちは? あたし、そっちのルームメイトの事なんも考えてなかったんだけど」


「いないよ。ちょっと色々あってさ。……さ、どうぞ? 仔猫ちゃん」


「……お邪魔しまーす」


 心の中では「バッカじゃないの」と笑い転げてますけどね、あたし。でも二人きり以外の時は合わせてあげる。


 あたしの『条件』に応じてくれれば、ね。

月庭一花様より 如月いのりさん


友情出演ありがとうございました!

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