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百合色横恋慕  作者: 芝井流歌
第1章 パステル編
10/105

10☆矛盾のラベンダー色?

「あの……あ、あんまり見ないでくんない?」


 言われて我に返る。奴はあたしに背を向けて恥ずかしそうに俯いた。ちょ、ちょっとジロジロしてただけじゃない。


 もじもじとこちらをチラ見しながら、解きたての晒で胸元を隠している。……つもりなんだろうけど、横からはしっかりと膨らみが見えてる訳で。思わず自分のと目が行ったり来たり、大きさを見比べてしまう。


 そのまま視線を落とすと、フリルが付いたラベンダー色のショーツが小さなお尻を包んでいる。おやおや、反応も意外だけど下着も意外ですこと。うちは三姉妹だからお父さんのパンツしか見た事なくてよく分かんないけど、男の子みたいなこいつの事だからてっきりトランクスだかブリーフだかが目に入ってしまうのかと覚悟していたのに。


 あれよあれ、女の子用のトランクスもボクサーパンツとかゆーのも売ってるじゃない? 確か六組のコスプレ娘とここで鉢合わせた時に、「男装コスは形から入るものだからね」とかなんとか言って、周りの女の子に手作りのボクサーパンツを見せびらかしてたし……。


 それを考えたらこいつの言動は矛盾してない? 晒を巻いて胸を潰してるんなら、そんなフリルのキュートな下着は……。


「べ、別に見たっていいじゃない。つ、つーか見てないっつーの、バッカじゃない!」


「いやいや、見てたよね? ぼくが気付いてないふりしてる時からずっとジーッと見てたよね?」


 そんなに長い事見てたっけか、と考えてる間に振り返った奴と目が合った。声も口調も男の子みたいなくせに、半裸見られただけで真っ赤な顔しちゃって……。


 それにしても、こいつなんで晒なんか……。さっきのコスプレ娘みたいにコスプレの為に胸潰ししてる訳でもなさそうだし、普段は男の子みたいな私服だけど、「あらまぁ、ぺったんこですこと」と思った事はないって事は常に晒し巻いてる訳でもないんだろうし。


 よく分かんないけど、分かった気がする事が一つ。


 もしかして、こいつものすごいウブだったりするんじゃ?


「はーん、普段はチャラ男みたいな皮を被ってるって訳? でもあれか、脱げば普通のかわいい女子高生ってか?」


「なっ、ち、違うし……。ぼくはかわいいとかじゃなくって……そ、それより、その……」


「何よ」


「そ、そっちこそ、タオルで隠すくらいしなって……」


 ふーん、見るのも見られるのも恥ずかしいって事ね。思春期に突入した小学生かっつーの。


 それと、『かわいい』とは言われたくないみたい? そうよね、普段『かっこいい』ってちやほやされてるような奴だもん、『かわいい』って言葉は、侮辱されてるようなもんか……。


「かわいいじゃない、フリフリのショーツ。似合ってるし。薄紫が好きな訳? そういえば寝込み襲ってきた時も紫っぽいジャージ着てたもんねー」


「わ、わぁ! 見るなぁ!」


「なんで? 胸だってそんなにあるなら羨ましいくらいよ? 晒なんかで潰さなくたっていいじゃない。そのショーツとお揃いのブラとか付けたらもっとかわいいのにさー」


「う、うるさいうるさいー」


 あたしは意地悪な女なんだと気付いた瞬間だった。楽しくて楽しくてしょうがない。わざとジロジロ観察して、わざと褒めて羞恥心に悶える獅子倉茉莉花をからかうのが楽しくて堪らないみたいなのだから。


 あたしの中の黒いあたしが、にやりと「勝った」とほくそ笑んだ。


 視線と言葉攻撃に耐えられなくなったのか、奴は解いた晒を胸に当てながら、ショーツ一枚のままシャワールームへ駆け込んでいった。勢いをつけてシャッとカーテンを閉め、小さく「くっそぉ……」と情けない声で呟いている。それを耳にしたあたしの口角がまたもや上がってしまう……。


 あたしが受けた嫌悪感、あなたに返してあげるわね……。


「しーしくーらさーぁん、バスタオル忘れてるわよー? 持ってきてあげたからカーテン開けるねー」


「だだだダメだってば!」


「なーんで? じゃあ裸のまま水滴も拭かずに脱衣所うろうろするつもり? そんなの迷惑じゃなーい。ほらほら、あたしってこう見えて親切だから持ってきてあげたんだってばー。とゆー事で、開けるねー!」


「わぁー!」


 にっこりとカーテンを開ければ、そこにはこの世の終わりのような顔の獅子倉茉莉花が蹲っていた。涙目で恨めしそうに、それでいて怯える表情がなんとも憐れで滑稽で。そんな姿を見下ろすあたしはぞくぞくする程愉快なんだけど。


「あれー? 持ってきてもらっておきながら、なーんにも言う事ない訳ーぇ? ねぇ、しっしくーらさーぁん」


「あ……あり、ありがと……。あの、そこに……カーテンレールに掛けといて」


「掛けといてー? 掛けといて、く・だ・さ・い、じゃないのー?」


「く……ください……」


「はー? 『ください』だけじゃ分かんないんだけどー? そうだ、ついでにその邪魔な晒とかわいいおパンツ、回収してあげよっか!」


「や、やめれー! こっち来んなーぁ!」


 さっきは鈴芽ちゃんのように『にっこり』が出来なかったあたしとは思えないくらい、今とっても、心の底からにっこり出来ているのを実感している。あぁ、にっこりするってこういう親切心が湧いてる時に滲み出てくるのね。よーく分かった。


 相変わらず涙目で蹲っている奴は、片手で胸を覆いながら「しっしっ」と手をばたつかせている。そんなに煽られちゃあ……ねぇ?


「やっだなー、獅子倉さんってばー。あたしたちの仲でしょー? 恥ずかしがる事ないじゃなーい」


「ど、どんな仲だよぉ! ぼくは……」


「キスした仲、でしょ?」


 前髪をかき上げた額に口付けると、彼女は腰を抜かしたようにその場にぺたりと座り込んだ。


 お返しよ。これでおあいこなんだから……。


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