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こころはどこに

作者: kizon

最近の技術の発展はすさまじく、二十年ほど前にあった仕事はほぼロボットがするようになった。その代わりに人々はスポーツやゲームなど、昔では趣味といわれたものをして過ごすようになっていた。「生きるために働くことはもうないのだ」と、僕は携帯端末にメモをして昨日買っておいたトマトを冷蔵庫から一個取り出してテーブルの上に置いた。

僕の趣味は何かと聞かれたら、まずサッカーと答える。次に卓球、クリケット、格闘ゲームと色々続いて、最後に「分解」になる。最後のは説明するのが面倒なので本当に親しくなった人だけに伝えることなのだが、「分解」とは物が何からできているか知ることだ。たぶん成分とかの研究家が既にしていることだろうと思う。しかし僕が知りたいのはまだ成分ではない未知のものだ。今僕の目の前にはトマトがある。どこにでもあるトマトだが、最近トマトの大きさが前年より小さくなっており、収穫量も減っているというニュースが流れていた。トマト以外の農作物も同じ状況にあるらしい。発芽から収穫まですべてロボットの自動化で行われており、収穫量も減ることはないはずと管理者は言っていた。このニュースを知る前から僕はあらゆる物には成分以外の何か、例えば感情とかがあると感じていた。このニュースは僕から見ると、その何かが関係していると考えている。だからトマトを対等に人として扱はなければならない。成分を集めてもトマトにも人にもなれないのだから。

三十分ほどトマトと話していたが何も変化なかった。トマトは三等分になっている。それもそうなのだ、口がないし言語もわからない。それに考えてみれば話しても相手の感情とか中身はわからないじゃないか。そこであることを思いついた。そう、「こころメガネ」である。最近買った物で、メガネを通して人を見るとどのような感情か、考えていそうなことや次の行動予想がグラスに表示されるというものだ。早速それをかけてトマトを見て話し始めた。

一時間がたち、メガネのバッテリーがなくなってしまった。トマトについては何も情報はくれなかった。トマトは六等分になっている。僕はベッドに横になった。僕の「分解」は大体こうで終わる。トマトに話しかけるとか正気じゃないと自分で思う。やっぱり、ものにはこころがないということなのだろうか。

しばらくベッドでごろごろしていると、ある記憶が頭の中に光った。はるか昔のおばあちゃんが生きていた時だ。おばあちゃんはゴーヤやお米に丁寧に話しかけていた。なぜそうしているか質問すると、

「こころがあるからね、大きくなってありがとうって言っているんだよ」

おばあちゃんはそう言っていた。実際におばあちゃんが作ったお米とかは今でもおいしかったと思える。

僕は起き上がり、再び充電しきったメガネをかけてトマトを見た。トマトは物として扱われているようでメガネは何も反応してくれない。一瞬僕は不安な気持ちになり、メガネをかけながら鏡で自分の顔を見た。メガネをかけた僕の顔が映っている。

これは、僕が物とみられているということだろうか。ロボットのような血のないやつにはトマトも僕もどれも同じということだろうか。きっとトマトを育てるロボットは一切言葉を話さないだろう。だからトマトは大きくならないし、何もしなくても生きていけると考えて数も減るのだ。

鏡に映る僕の顔は自分でも見たことがないほどに歪んでいた。僕はメガネをかけたまま、まとまっていない頭の中と共にトマト農園へと家を飛び出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] トマトはとても美味しく 美容にも良い食べ物です。 最後の上り詰める感じが良いですね
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