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魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第四章

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命ということ XⅨ



 高く聳え立つモノを軒並み裂いて、歩みを進める。我が子の首はどこにあるのか。興味はその一つ。街に何がいようが、あろうが、知ったことではない。


「…………見つけ、た」


 一直線に駆けてくる姿が見えた。人の子だ。見たことはない。知らない匂いだ。興味もない。角にわずかに魔力を込めた。一直線に走る光を、人の子は、しかし回避した。


「……それ以上は、させな、い――――!」


 この人の子は、歩みを阻害するつもりするらしい。ならば、行動は一つだ。


『返せ』


 我が子を返せ。我が子を(、、、、)取り上げた(、、、、、)、人の子共よ。



 悲鳴、怒声、絶叫。混乱する人々の流れと逆走している内に、周囲には誰も居なくなっていた。誰かが港に走って逃げろと叫んでいたので、それに従ったのだろう。

 人気が失せれば、あれだけ狭苦しかった大通りも閑散としたものだ。走り易くて仕方ない。


「ハクラ」


 俺が走る先に、そいつは居た。深い緑の瞳と、金の髪。待っていたのか、あるいはルートがかぶったのか、それはわからないけれど。


「何しに行くつもりですか、避難するなら、逆ですよ」

「……親が居たんだろ」


 質問に答えずに、逆に問い返すと、リーンは盛大に溜息に吐き、そして頷いた。


「で、親がいたから、どうするんです?」

「止めに行く、俺達の責任だ」

「やめたほうがいいですよ、ハクラ一人じゃどうにもなりません。相手は霊獣です、自然災害が生き物になったようなものなんです。出産して、体力を使い果たして、衰えた上でこれ(、、)なんです」

「じゃあ、お前はどこにいくんだよ、避難するタマじゃねえだろ」

「私はリングリーンの娘ですから、やるべきことをやらないといけません。けど、ハクラにはそんな理由、ないじゃないですか。ハクラの仲間なんて、とっくに逃げちゃったんでしょう?」


 なんと答えるべきだろう。俺に戦う理由はないのか。合理的に考えて、勝てない相手に立ち向かう理由は無い。逃げて、生き延びるのが、最善の選択肢だ。それは間違いない。


「……理由なら、ある」


 結局、ラモンドの言うとおりだ。俺は冒険者に向いてないのかも知れない。合理的ってのは、要するに、困難から逃げるための言い訳なのだ。

 だが、自分の心にまで逃げてしまったら、何もできない、どこにも辿り着けなくなる。

 そればかりは、死んでもごめんだ。


「……契約違反(、、、、)だ」


 だから、俺は言った。


「……はい?」

「宿代と飯代と足代はお前が負担するって契約だったろうが。お前、クローベルでの飯の代金払わずにどっか行っちまっただろ」


 それは俺が立て替えて支払ったのだ、まだその清算が済んでいない。


「まだ俺とお前の契約は終わってない(、、、、、、)


 俺とリーンの関係は、まだ続いている。

 お互いが定めたルールの中に、まだある。


「…………ハクラ」

「何だよ」


一度間をおいて、大きく息を吸い込んで。



「ハクラって…………ほんっとーに、お人好しですよね」



 ずっと我慢してたセリフを、ようやく言えたと言わんばかりの、清々しい笑顔だった。


「……さっきも、言われたよ。俺は冒険者に向いてないんだと」

「お仲間にですか?」

「親父みたいなもんかな」

「ふむん、でも、私も同意見です。ハクラは、ぜんっぜん合理的じゃありません」

「お前がそれをいうか」

「私は感情で動きますが、ハクラは正義感で動くじゃないですか」

「……そうか?」

「そうですよ、ハクラはいつだって、許せるか、許せないかで動くのです」


 許せるか、許せないか。なんて曖昧でふわふわした基準だろう。


「それと、ハクラは私に言うべき言葉が、他にあるのではないでしょうか」


 リーンは指を一本立てて、俺に向けた。何を求められているのか。


「……あの時、お前を置いていって、悪かった」

「嫌です、許しません」

「お前、この流れで許さねえのかよ」

「当たり前です、私は根に持つタイプですから」


 そこまで言って、リーンは、満面の笑みを浮かべた。


「たーっぷり、時間をかけて返してもらいますから、覚悟してくださいね、ハクラ」


 緑色の、深い深い瞳。この目に見つめられると、俺は何も言えなくなる。ああそうだ、認めてやるさ。こいつの隣は、居心地がいい。

 怒りも喜びも悲しみも、食欲も願望もなんでも、リーンは全て感情を表に出して、素直に動く。理不尽で我儘で時折何を考えてるかわからないが、こいつの言葉と行動に、合理的なんて言葉はどこにもない。許せるか許せないか、やるべきかどうかが、あるだけだ。


「――どうすれば、止められる?」


 俺の問いに、リーンは答えた。


「手段はあります、でも、時間が必要です。今、ルーヴィさんがユニコーンと戦ってますが、長くはもたないと思います」

「……一応聞くけど、俺が行ってなにか出来る相手か?」

「冒険者が束になっても、何の役にも立たないでしょう。けど」


 リーンは、自信たっぷりに言った。


「ハクラなら、大丈夫です。私が保証します」


 街を丸ごとぶっ壊せる、A級冒険者が敵わない魔物。その言葉を信じる余地なんて皆無だ。検討するのも馬鹿らしい。だが。


「わかった」


 それでも、リーンが俺にそう言うのなら、その役割を果たすだけだ。



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