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命ということ XⅦ



 クローベルは港町なので、灯台が多い。船への目印を灯すと同時に観測台でもあるその場所から、作業員の男は、硝子を重ねて遠くを見えるようにした筒、望遠鏡越しに、それを見た。


「――なんだ? あれ」


 空の色が変わってきたから注意しろ、といった矢先の出来事だった。雲が渦巻く場所の真下に、一頭の白馬がいた。

 首のない馬の死体を背中に乗せて一歩歩く度に、ものすごい速度でこちらに近寄って来る。


(角が、ある――?)


 まるで伝承のユニコーンのようだ、と思った。馬は一度身震いすると、その角の先端を、こちらに向けた。


(――こっちに? え、見て――――)


 チカリと、何かが光った。その瞬間、視界がぐるりと回り、浮遊感が全身を包み込んだ。



 遠くから、細い光の線が、海の向こうまで伸びていった。それが横についっと動くと、街全体に立ち並んでる灯台を通り抜けていった。


「―――なんだよ、あれ」


 その線が通り抜けた所は、真っ赤になって溶けていた。両断された灯台が、そのままずれたり、崩れたりして、落ちていく。

 ズン、ズン、と何度も重たい振動が伝わって来た。あれ、全部落ちたんだ。下に、誰か居たら。

 同時に、ビアトルの部屋に、メイドの一人が駆け込んできた。


「た、大変です! ユ、ユニコーンが――――」


 焦って、信じられないという風に、メイドのお姉さんは叫んだ。


「ユニコーンが、クローベルに――――」


 そのお姉さんが、上から降ってきた瓦礫に潰された。俺は反射的にテトナをかばって、倒れ込んだ。



 空を裂く光線を阻める物はなく、高い建物は軒並み光線に両断され崩れてゆく。灯台を全てなぎ倒した後は、一番高い位置にあった屋敷に光線が伸びる所が見えた。


「どういう――こと……!?」

「……子供が居たんです、ユニコーンの子供が! 誰かがその子を殺して、角を私達より先に持ってきたんです!」

「子供……それじゃあ」

子供を殺されたら(、、、、、、、)親は怒るに決まってる(、、、、、、、、、、)じゃないですか!」


 お嬢が最も避けたかったのは、【聖女機構(ジャンヌダルク)】がユニコーンの子供の捕獲に成功してしまい、親が激怒することだった。その為に角の欠片を譲り渡したというのに。


 あの子供は、霊獣らしからぬ旺盛な好奇心を持っていた。言葉では止められず、我輩らの為に『迷路』をほどき、また力を使った親のユニコーンの注意が散漫になった所で、森の外に出てしまったのだ。そこを捕らえられ、首を斬られたか、角を抜かれたかしたのだろう。


『お嬢、止める手立てはあるか』

「あるにはありますけど」

「ある、の!?」


 ルーヴィ嬢が驚いていた。


「ありますけど! 時間が足りません! このままだとユニコーンが街に入った時点でおしまいです、全滅です!」

「――手立てがあるなら、それをいて。時間を稼げば、いいのね」

「あっ、駄――――――」


 行動は素早かった。方法も手段も聞かず、ルーヴィ嬢は走り出した。あっという間に視界から失せてしまう。


「目、って言おうとしたのに、もーっ!」


 お嬢は悪態をつきながら、ルーヴィ嬢と逆の方向に走り出した。


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